研修生の研修目的外活動による業務中の怪我の労災適用は?



 平成22年7月から入管法改正によって研修・技能実習制度で来日する人達の在留資格に「技能実習」が新たに加えられました。改正以前、最初の1年間は「研修」(注1)という在留資格で労働は認められておらず、研修後の技能検定試験に合格してはじめて、在留資格が特定活動の技能実習生=労働者に変更され、2年間就労し技術の修得をすることになっていました。変更後は、在留資格は技能実習生ですが、来日して1ヶ月から2ヶ月の座学を経たあと労働者として扱われます。こうした変更の背景には、研修生は労働者として扱われず、1日8時間を超えた研修(残業)は認められていませんでした。現実には残業をさせながらも、残業代を支払わなかったり、低額の残業代しか支払われないのが実態であるため改正されました。要するに、労働者性があるにも拘らず、それを無視した制度であったため労働法上のほころびを修正しただけの話といえます。
今研修生時代からの残業代の未払の問題と研修生時代の負傷が原因で休業中の技能実習生から相談を受け、研修生に労働者性が認められれば労災保険の適用も可能ではないかと考え先日労働基準監督署に確認に行ってきましたので概要を報告します。
【事件の概要】
 平成22年4月に研修生として来日し、5月から、ゴルフ場に住み込み、ゴルフコースのメンテナンス、ゴルフバックの運搬、レストランでの調理と皿洗い、農作業等に1日10時間程度労働させられてきた。フィリピンではジプニー(タクシー)の運転手でこうした肉体作業には縁が無かったことから7月に入ると手根管症候群に罹り手が痛み出し、8月には耐え切れず病院に行くが休ませてもらえず働けないなら帰国させるといわれ我慢していた。翌年3月に手術するが、休養が許されないまま仕事に復帰したが5月終りから痛みが酷くなり休業せざるを得なくなる。休業に入ってからユニオンに加入し残業代未払いの交渉に入る。7月下旬に傷病手当金申請書に対する証明を会社に求めたところ解雇された。
【問題点】
(1) 研修の目的は「重機のオペレーター」でありながら、全く関係のない前項のようにゴルフ場での業務に従事させられていた。
(2) 残業が認められない研修生時代から毎日10時間程度仕事に従事させられ、残業代は一切支払われてこなかった。
(3) 宿舎はゴルフ場内に与えられたが、トイレとフロはなく、本館まで行く必要があった。しかも、本館敷地内に動物の侵入を防ぐため電気を流した柵の外に位置しており、夜間はこれを跨いでトイレに行く必要があり、くま、猪やマムシの危険に曝されていた。
【研修生と労災保険】
 研修生とは仕事を覚えるための期間に対する在留資格で1日8時間の研修のみ認められ、残業は認められていません。従って、賃金は支給されず1か月7万円程度の研修手当が支給されます。労働者でないため研修中の作業での傷病また通勤途上での負傷に対して労災保険が適用されることがないのが大原則です。しかし研修制度を著しく逸脱した行為が行われている場合には例外が認められないのかとの疑義があります。
【労災保険不支給への疑義】
 この事件の場合、労務不能となったのは発症からほぼ1年経過した技能実習生移行後であるため健康保険から傷病手当金の支給が受けられるはずですが、会社はこの証明を行わず、なおかつ解雇してきました。あいにく被保険者期間が1年ないため資格喪失後の保険給付も受けられないため生活保障は何もないことになってしまいます。会社は業務都合で団体交渉も延期するなど誠意が全く無く早期解決も望めないため、研修目的外活動という研修制度を悪用した不法行為が行われているため例外として労災保険が適用されるのではないかと考えて次のような理論構成をして監督署に相談に行ってみました。
(1) 研修期間中であっても当初から残業が常態化しており、しかも研修制度を悪用した研修目的外活動で働かされているため労働者性があり労災適用可能ではないか。
(2) 研修生として入国する以前から研修制度を逸脱した不法行為に利用されている。形式的には研修生という在留資格を認められているが、実質は入管法を欺いているため当初から日本に滞在が認められない不法入国者ということが出来る。従って、労働者として労災の適用が受けられるはずである。
 上記の説明はよく分かるが、監督署としては、いかなる状況があろうとも研修期間中であるため労働者と判断する事は出来ないので労災の適用は認められない。入管やジツコに相談すべきではないかとの意見を述べられました。入管に相談に行けば帰国の問題しか浮上せず、労働者性の問題、労災適用については監督署に行くように指導されるだけでしかありません。
 昨年の7月から、技能実習生1号として1〜2か月の座学研修後、労働者として実務研修に入ります。来日2年目には技能検定試験に合格すれば技能実習生2号に移行して2年間の実習期間に入ります。要するに研修とされてきた期間が実質は労働であり残業問題等労働法上のトラブルが多発してきたため問題解消の手段として技能実習という在留資格を設けたにすぎません。在留資格の名称変更のみで3年間の研修内容に変更があったわけではありません。この改正の目的を考えるまでもなく労働法上研修生は労働者であり、入管法が研修という在留資格に労働を認めてこなかっただけの話です。この制度自体、外務省、厚生労働省、総務省等が合同して設けた制度であるため厚生労働省は「労働者ではあっても研修制度で入国している以上労働者として認められない。」との立場をとらざるを得ないでしょう。入管法と労働法の扱いがバッティングすればどちらが優先されるべきでしょうか。裁判になれば労働者と認められ労災適用との判断が下されるはずですし、労働者保護の観点から考えれば当然労働法を優先するべきだと考えます。そうでなければ不法行為を行った協同組合や受け入れ企業の利益のみ優先され彼らの利益の道具として扱われた研修生が大きな不利益を蒙ることは衡平を欠き、公序良俗に反する行為としか私には考えられません。「研修生は労働者ではない。」との固定観念だけで判断せず実態を理解したうえで判断を下すのが法律だろうと思います。
【労災申請が却下されたとき】
 残業代未払等の問題で研修目的外活動があったのは今年3件目であり、しかも同じ協同組合というのもひどい話です。この問題を公にすると協同組合と会社は受入停止の処分をうけることになるので特別問題とせず交渉に入るのですが、今回のように交渉途中で解雇してくるとなれば話は違ってきます。前述のように労災申請しても拒否されるのはあきらかです。却下されたからといって、すぐに裁判に訴えることはできません。労災保険審査官への審査請求、さらに労働保険審査会への再審査請求を経た後でないと裁判に訴えることができない仕組みがあるため時間がかかりすぎてしまいます。それよりは、有期雇用労働者に対する契約期間中の解雇として残りの期間に対する損害賠償請求の裁判を起こした方が手っ取り早いといえますので会社と協同組合に対して訴訟を起こすことを視野に入れる必要があります。この事件では、残業代未払(賃金と割増賃金)、解雇予告手当未払、労働条件通知書不交付の問題もありすでに監督署に対して告訴状を提出しています。さらに入国管理局への告発も考える必要があるかもしれません。
【蛇足】
 日本人並みの賃金を支払うようにとの指針はありますが、最低賃金での時給計算で1ヶ月124,000円前後の賃金です。さらに高額な家賃を取られ賃金が回収されています。制度上出稼ぎではなく技術を教える制度ですから宿舎は提供すべきではないかと考えてしまいます。

(注1)この在留資格は廃止されておらず、国の機関、JICA等が実施する公的研修や実務作業を伴わない非実務のみの研修については「研修」の在留資格が適用されます。