労働基準法−3 (第5条・第6条)
外国人技能実習生を中心として

強制労働の禁止と中間搾取の禁止



 労働基準法の内、今回の条文まではあまり意識することもなく社労士の勉強をする中でも第5条の強制労働の禁止が労働基準法上一番重い罰則であると覚えておけばいい程度のことと考えてきました。しかし外国人労働者を支援する立場からみて今回の条文は外国人労働者、特に技能実習生にとっては切実な問題としてのしかかってきます。しかし会社との交渉の過程でこの条文に違反する問題を正面切って問題にしてもあまり意味がないのが実態です。それは労働基準監督署が罰則規定を適用すること事態考えていないし、告発の対象として真剣に扱わないことによります。前回も触れたように道交法違反と同様に違反があれば罰するとの立場をとれば労基法違反は大きく減少するといえますが愚痴としかならないのが残念です。

(強制労働の禁止)
第5条
 使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。

【罰則:1年以上、10年以下の懲役又は20万円以上、300万円以下の罰金】

 第5条は強制労働の禁止規定で、通達を見ると「『精神または身体の自由を不当に拘束する手段』とは精神の作用又は身体の行動を何らかの形で妨げられる状態を生じさせる方法をいう。『不当』とは本条の目的に照らしかつ個々の場合において、具体的にその諸条件をも考慮し、社会通念上是認し難い程度の手段の意である。したがって必ずしも『不法』なもののみに限られず、たとえ合法的なものであつても『不当』なものとなることがある。」(昭23.3.2基発381号)と解説しています。技能実習生はあくまでも技術の習得を目的として来日するにも拘らず労働者として実習先と労働契約を締結します。たいていが1年契約であり、当然事業主の腹一つで簡単に解雇されます。解雇されると自分の研修目的に合致した職種への移籍先が見つからなければ帰国させられてしまいますし、また研修目的外の職種に従事している例も多く、そのことを技能実習生たちはよく知っている現実があるためこの問題は技能実習生の心の中で重い桎梏として圧し掛かっています。当然、事業主や協同組合からの不当な扱いで帰国等不利益な扱いを受けた事例は彼らの間ではすぐ広まりますし、3年間の研修を無難に過ごすためには理不尽なことも我慢しなければならないというのが彼らの常識としてあります。同時に警察や弁護士が裏金で相手方に転んでしまうという信じられない国から来ておれば自分を守ってくれるものは何もない四面楚歌の状況に置かれていることを自覚しています。従って、事業主や協同組合からのオブラートにくるまれた言葉の端端にも恐怖感を感じるのは当然のことといえます。脅迫や強要で刑事告訴するのはハードルが高いといわれても、こうした状況を考えれば日本人にとっての一般論を技能実習生に適用すること自体が問題ではないかといえます。技能実習生は日本の経済の底辺を支える重要な低賃金労働者であるためごく普通の保護規定を置いてしまっても問題が大きすぎるため私達支援者を除いた関係者すべてが「見ざる、聞かざる、言わざる」に徹しているのが現状といえます。
 通達は、「『精神または身体の自由を不当に拘束する手段』とは精神の作用又は身体の行動を何らかの形で妨げられる状態を生じさせる方法をいう。」といっており、直接的に労働に縛り付ける場合のみではなく、研修目的外職種での研修のようにこの問題を提起すること自体が自分の首を絞めてしまうといった問題にまで範囲を広く考えてもいいのではないかと考えます。要するに技能実習生については人権問題と同様と考えていいのではないでしょうか。技能実習生にとってこれに該当する事例として次のようなものが挙げられます。
 @パスポートの取り上げ、A強制貯金、B時間外手当の後払い、C高額な敷金、D常套句としての「帰国させる」との脅し、D人里離れたゴルフ場の仮設建物に住まわせること、E携帯電話所持また教会に行くことの禁止など・・。最後のものについては純然たる人権問題で直接この条文に該当しないとも言えますが、残業代問題等の知識や支援者情報の取得を阻止し、労働に縛り付けることを目的としているため間接的にはこの条文違反に含めてもいいのではないかと思います。技能実習生制度が「現代の奴隷制」と呼ばれるのもこの条文違反からといえます。

強制労働の禁止条文への補足


 エクレシア第108号で労働基準法第5条の強制労働禁止について触れましたが、技能実習生ではありませんが、フィリピンに設立している関連会社の社員を3年間日本の親会社に出向させて教育を行っている会社でこの条文にかかわる問題がありました。
 問題となったのは、3年の研修が終わり、帰国目前にして提示された労働契約書と出向契約満了に伴う覚書に記載された次のような文言でした。

(1) 2016年までの4年間勤務しなければいけない。
(2) 前記契約期間内に自己都合退職するときには次の費用を弁済すること。
@出向中の2回の帰国に要した交通費・・・・110,000ペソ
A出向中に要した日本語教育に要した費用・・110,000ペソ

 こうしたことの取り決めについては本来出向が決まるまでに出向規定や出向契約でこの条文に抵触しないようにしておく必要があるといえますが、そうした措置はせず現地法人の役員から口頭で一定期間勤務することが必要と聞かされていただけと本人は言っています。ましてや退職した場合のペナルティーなど寝耳に水のことだったようです。日本語も満足にできない人に通訳もつけず説明しても全く伝わらないのが現状でしょう。本人が持っていた親会社の出向者給与規則を見ると、就労開始1年経過後から年1回の一時帰国休暇と忌引等の場合の特別帰国休暇が定められており、総務部長決裁で費用は実費支給する旨定められています。返済を要する場合等の規定は一切ありませんでした。
 また、本人の次の年度以降来日した人たちに「こうしたことの説明を受けてきたか」と聞いてみても「何も聞いていない」とのことでした。会社の担当者から私の所にも電話がありましたが、全員に来日前に説明しているし、今問題になっている人にも役員が通訳をつけて説明しているといっていますが、本人たちの説明と全く食い違っています。また、私が見た出向者給与規則は改訂されて今回の覚書に準じた返還を要する条文が加えられていると説明しました。就業規則は作成しただけで従業員に周知されておらず、会社が持っているだけでは効力を発揮することはありません。
 こうした出向や留学などに伴い会社を離れて研修等に出る場合、出向時の労働条件、復帰後の労働条件や義務など明確な規定にし、個別の契約書を交わしておかなければ「言った、聞いていない。」の世界に入り込んでしまいます。況してや、説明した本人でなく、遠く離れた親会社の担当者がそのような説明をしたと言っても何の説得力もない話でしかありません。親会社は海外の子会社にそのような指示は出したとしてもそれが実行されていないことも十分考えられます。繰り返しになりますが、出向する時点で明確に就業規則に定められており、従業員に周知されていなければいけませんし、出向に伴う労働条件をまとめた書類を渡すなり、契約書を交わしておかなければならないでしょう。
 次に、「4年以内に自己都合退職した場合には会社が負担した諸費用の一部を罰金として請求する」と、拘束期間と罰金をリンクさせたことがこの強制労働禁止に抵触するといえます。本来は、諸費用部分については事前に金銭消費貸借契約を結び、「帰国後4年間勤務した場合には返済を要しない。」との文言で纏めてあれば今回のトラブルはなかったといえます。「教育を受けさせている、キャリアアップを図ってやっているのだから当然」という上から目線の気持ちが強かったせいだといえます。ただ、4年間の拘束の問題については「同業他社への転職を4年間禁止する」という条項を設けるのならまだ納得できるでしょう。今回の当事者は女性であり、帰国後結婚、出産となれば4年間の勤務自体不可能になるということもありますし、それ以外不可抗力的な問題が発生することもあり、そこまでペナルティーを課すというのは問題ではないでしょうか。
 個人的には会社の言い分は十分理解できるのですが、そのためには何らかの変化球を用意しなければ大きな問題が発生しかねないと言わざるを得ません。

(中間搾取の排除)
第6条 何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。

【罰則:6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金】

 この条文は、就職の世話をするとき、商売としてお金をとってはいけない。お金をとるのであれば職業安定法に基づいて有料職業紹介所の許可を得る必要があることを意味しています。このことから協同組合は合法的に技能実習生を会社に送り込むために無料職業紹介所の許可を得ています。協同組合は労働者の紹介自体では報酬はとらないとしても毎月管理費として一人当たり3万円前後会社から徴収しています。技能実習生は最低賃金で契約しているのが一般的ですが、この管理費を加えると16万円弱の賃金となり、日本人の正規職員の最低の賃金水準と同程度となります。この条文自体昔の口入屋の存在を排除するものであるため「就業に介入して」とは就職から退職まで第三者の関与を否定するものでしょうからこの管理費を徴収している協同組合はこの条文に違反していると考えられないでしょうか。これ以外にも帰国した後に請求する厚生(国民)年金脱退一時金の手続きを送出機関が代行して30%程度の手数料をとっていることもこの条文との関係で考えれば問題がないとも言えませんが、日本国内の問題ではないため適用することはできないとしても、送出機関は出国時に保証金を徴収することが制度上禁止されていることと併せて考えれば制度上禁止すべき問題といえます。また帰国時には年末調整をすることとなっていますが、この手続きは日本国内に租税代理人を立てて行う必要があります。この租税代理人については「業」として行うのは税理士に限定されています。しかし個人でこれを請け負っている人もいますし、協同組合が行っている場合もあります。実際どのように処理されているのかわかりませんが協同組合が手数料をとっているとすればこの条文違反とともに税理士法違反となります。蛇足ですが、住民税を普通徴収扱いとして帰国時に会社が一括徴収している例に時々遭遇します。なぜ特別徴収として毎月賃金から徴収しないのか不思議です。徴収したものを市町村に支払っていないのではと邪推してしまいます。住民税の一括徴収は技能実習生にとっては訳の分からない徴収金としてトラブルの元になり、これが原因で相談に来て逆にいろいろな問題が見つかった例もありました。この問題で勇気のある技能実習生が某市役所に交渉に行ったら「支払わないでも良い。」との回答があったと聞いたことがあります。このことについて別な市役所に電話してみたところ「帰国先まで追いかけないからでは。」との回答がありました。後日この問題で相談に来た技能実習生に市役所と交渉させたら「払わなければいけない。」の一点張りだったそうです。普通徴収ですから会社が徴収して支払うべきものでなく、本人が直接支払うものであるため会社から納付書だけ受け取っておけばいいと言えます。ただこうした不明朗な扱いが、説明不足、意思疎通を欠いたことからの会社や協同組合に対しての不信感が原因となって大きな問題となるケースが少なくないのが現状と言えます。