労働者とみなされる条件は?


 神戸市内の知的障害者の作業所が、最低賃金法に違反するなどとして、神戸労働基準監督署は近く改善指導を行う方針を固めた。作業所は一定の条件を満たせば労働関係法規の適用が除外されるが、同署は、作業実態が訓練の範囲を超えた「労働」にあたると判断した。作業所への改善指導はきわめて異例。同様の事例はほかにもあるとみられ、厚生労働省は近く、労働者としての保護を徹底するよう、関係施設に通達を出す。(読売新聞H19.2.19)


 この記事は、本文ではなく、本文の前にある要約部分の記事です。作業所のことに関してはまったく知識がありませんが、聞いた話からすると、作業所の運営費は、行政からの補助金(障害者一人当たり4万円程度)や父兄からの補助で、家賃、指導員の賃金等の運営費をまかない、指導員の指導を受けながら、障害者がそこで作業をし、その収入を障害者内で均等に配分している施設だということになります。労基法は「労働者とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われるものをいう。」と定義していますので、知的障害者の作業所を一般の事業所と同列にみなしてよいのか、また使用されているという概念が妥当かどうか別として、働いて賃金を得ていることだけから判断すると労働者ということになります。そうすれば労働基準法の適用を受けることになり、賃金自体、最低賃金をクリア−する必要があります。現在広島県の最低賃金が654円ですから、1日8時間勤務の週休2日として、22日勤務すれば115,104円以上の賃金を支払わねばなりません。読売新聞の記事によると知的障害者施設での賃金の全国平均は一人1ヶ月約7,300円とのことです。現実には、最低賃金はクリア−できない現実があることから、作業収入は材料代等必要経費を除いて原則全額障害者に均等配分するなどの条件を満たせば労働基準法の適用を除外するとの通達を厚生労働省は出しています。そうすると最低賃金の問題はなくなるとともに、労災保険についての適用もなくなってしまいます。しかし、ここで働く指導員についてはこの規定は適用されませんので、指導員に対する最低賃金の問題は残りますし、生活できるだけの賃金をどのように支給するかとの問題が残ります。この神戸の作業所は、障害者の作業による収入を職員の賃金に流用したことから障害者に対する労基法適用免除が認められず、最低賃金法違反が問われることになりました。現実には、作業員が指導するとともに作業も行っているでしょうし、補助金や寄付の少ない作業所では指導員の生活を保障するだけの賃金の支払いが出来るのでしょうか。単純に、作業所で働く知的障害者を一般の労働者と同列にみなしていいのか、悪いのか?? 知的障害者の作業所を設置する目的を考えると巻末に載せた第二福音書の「安息日は人のためにあるもので、人が安息日のためにあるのではない。」の言葉を思い出します。法律や規則を守ることは必要ですが、その趣旨を考えた運用をしないと・・ソクラテスや飢え死にした裁判官にはなりたくないですね。知的障害者の作業所については勉強してから報告したいと思っています。

 では、「労働者とは誰のことを指すのか?」と問われると理屈で返答するのは簡単なのですが、具体的にテレビに出ている俳優や歌手、また、NHK受信料集金受託者、電気の検針員は、クラブのホステスはどうかと問われると即答できないのが現実です。労働者と判断する基準として労働者性があるかどうか、すなわち@労働の実態が指揮監督下の労働かどうか、A労働の対価としての賃金が支払われているかどうか、これらを補強する事項(下記判例の場合(3)以降)をあわせて検討することになります。クラブのホステスについては平成3年の東京地裁の判決で労働者ではないとされましたが、先日、17年度の判例集を見ていると労働者とするとの大阪地裁の判例がありました。特殊な職業かもしれませんが労働者に該当するかどうかを判断する筋道を教科書に従った形で示していますのでポイントとされた点を列挙しておきます。周りを見回して労働者に該当するかどうか検討されるのも面白いかもしれません。

(1)指揮監督下にあるといえるか否か(使用従属性その1)
 @諾否の理由・・接客サ−ビスを提供しない自由はなかった
 A業務遂行上の指揮監督の有無・・定例点呼日への出席の義務付があり、ここで指揮監督がなされた
 B拘束性の有無・・契約で勤務場所、勤務時間、勤務日が定められタイムカ−ドで管理されていた
 C代替性の有無・・ホステスが休務する場合他の者を送り込むことができるとは認められない

(2)報酬の労務対償性(使用従属性その2)
 日給は原則1日3万円と保証されており、売上が多ければ加算もありえるため、労務対償性がある。

(3)事業者性
 @本件クラブにおける費用負担・・店舗スタッフ給与等事業運営費は全て店が負担しており、衣服費が高額だからといって事業者性を認めることは出来ない。
 Aホステスの報酬・・時給7000円となるが事業者性を認めなければならないほど高額ではない

(4) 専属性・・同じ種類のクラブに、自己の勤務時間帯に勤務すること自体あり得ず、また、自己の勤務時間外に、他の業務に従事することは可能であるとしても、そのことのみによって専属性を否定することは出来ない

(5)口座性について
 @口座客については、特定のホステスの接客サ−ビスを受けることを主たる目的としてはいるものの、クラブにおける一体となったサ−ビスを受けることを当然の前提としているというべきであり、口座客を持つホステスを、デパ−トのテナントと同視することはできない
 Aホステスの口座客に対する売上管理・・伝票作成、請求書名義、差出人もクラブであり、ホステスに請求金額を自由に設定する権限はなかった
 Bホステスチャ−ジの性格・・ホステスチャ−ジは、ホステスが請求を控えることもあり、クラブには顧客に請求権が無く、口座客からホステスに支払われるべき性格を有しており、賃金としての性格を有していない

(6)慣習等について
 @一般に売上を有するホステスは事業主であるとの慣習があるが、このような慣習法があるとしても強行法規を排斥することはできない。
 Aクラブは、所得法上や社会保険法上、売上のあるホステスは事業主として扱われると主張する。しかし、本件では、本件入店契約が労働基準法の適用を受ける雇用契約であるか否かということが問題となっているのであって、外形上、原告に売り上げが計上され、それを根拠に、所得税法上などにおいて、上述した取扱がなされていたとしても、本件入店契約の性質を直ちに決定づけるとはいえない。

(7)まとめ
 以上によると、本件入店契約は、ホステスが本件クラブにおいてホステスとして接客サ−ビスという労務を提供し、クラブがホステスに対し賃金を支払うという雇用契約であり、同契約には、労働基準法の適用があるというべきである。

(労働判例別冊2006年版重要労働判例総覧から)