技能実習生が労働者として扱われることの問題・疑問


はじめに・問題提起
 外国人技能実習生を巡る問題について私たちが知ることが出来るのは裁判所に提訴したとの新聞報道やそれを切っ掛けとした関連記事を見たときにこのような問題があると気づく程度ではないでしょうか。少し関心のある人なら一般の出版物や行政が実施した監査報告またインターネットで検索できる範囲に限られると思います。しかしこうしたもの以外にユニオン等の支援団体が動いて解決に導いた事件はかなりな数に上るはずですが統計がないのでどの程度あるのか把握することはできず、私たちが知りえる事件は氷山の一角でしかありません。私達が忘れてはならないのは、大きな問題を抱えながらも問題提起することもなく悔しい思いを心の内に抱えたまま帰国している技能実習生が少なくないことです。問題提起しない理由は、問題解決を依頼できる支援者が見つからなかったり、送出し機関や受入機関からの脅しを含めたさまざまな恐怖感から問題提起をあきらめています。解雇や残業代問題以外に報道や出版物では触れられていない制度上や法律上のさまざまな問題が議論されないまま放置されている現状もあります。
 平成22年の入管法改正以前は、1年間の研修期間があり、特にこの期間の残業代未払問題を解決する手段として労働者とみなされない研修生ではあっても実態に即して労働者性があるとの観点から労働法を適用することによって保護しようとしてきました。その結果、先の入管法の改正によって入国後1〜2か月後には技能実習生として労働契約を締結した労働者とすることで改善が図られることになりました。しかしこれで改善が図られたのかというと必ずしもそうではなく、その弊害も発生しているのが現実です。どのような方法を取っても受入機関側の法律や制度に対する意識が改善されなければなにも改善されません。罰則の強化による事後的な方法ではなく事前に問題のある受入機関を排除することを考える必要があるのではないでしょうか。技能実習生の権利・人権を守るため技能実習制度をどのように改善していくかといった問題にはいろいろな意見があるでしょう。賃金未払いや解雇・強制帰国といった問題を離れて、この制度の矛盾から出てくる技能実習生全員が抱える問題を解消するという視点から技能実習生問題の改善を図っていくべきではないかと考えます。建て前と本音の世界の話なのでどちらに重点を置いたとしても労働者としての面と研修生としての面は表裏一体の関係にあり一方に特化することは不可能です。現在は労働者としての本音の部分で改善が図られている軸足を建前論の研修生に移して辻褄を合わせた方が技能実習生にとってメリットが大きいという視点から検討していきます。

1.労働者性の問題
 平成22年の入管法改正により、1年間の研修生の後に試験を受けて、合格すれば労働契約を結び2年間技能実習を行うという制度から、日本で生活するための日本語等の講習を1〜2か月受けた後、労働契約を結び3年間の技能習得に励むことに変わりました。「技能実習」という在留資格を設けたことと労働契約を前倒ししたことを除けば実質何も変わってはいません。こうした制度の改正の目的は、「今回の研修・技能実習制度の見直しは,一部の受入れ機関において不適正な受入れが行われ,研修生・技能実習生が実質的に低賃金労働者として扱われるなど問題のある事例が増加している現状に対処し,研修生・技能実習生の保護の強化を図る観点から,実務研修を伴うものについては原則として雇用契約を締結した上で実施させ,実務研修中の研修生が労働関係法令上の保護を受けられるようにすること等を目的としたものです。」(法務省Q&A Q1-2)とされています。要するに、労働者とされていなかった研修生時代にも低賃金労働者として残業代未払等の問題の多発や、研修中に事故が発生しても労災保険の適用が受けられないなどの弊害から労働法の適用をすることで解決を目指したものといえます。自由意思で職業を選択し、労働契約を結ぶことが出来る一般の労働者と同列に扱うことで安易に問題解決を図ろうとしたものといえます。技能実習生の置かれた状況を十分検討したうえでのものではないため新たな問題も発生し、弱い立場の技能実習生がさらに痛めつけられることになったということもできます。
 これまで技能実習生の問題に関係して感じることは労働者として扱うことによってさまざまな不利益な取り扱いがなされているということです。労働者であるか否かといった問題は労働基準法第9条「この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」に該当する必要があります。確かに労働契約を結べば形の上では労働者と見ることが出来ます。ただ、労働者とみなされるかどうかについては労働者性があるかどうかで判断することになります。労働契約でなく請負契約を結んでいても裁判で労働者とみなされることも少なくありませんし、クラブのホステスやタレントは労働者なのか、野球選手はどうなのか等、簡単には結論が出ないのがこの労働者性を巡る問題です。ただ原則として労使が対等な立場で労働契約を結ぶということが大前提としてあるのは確かでしょう。そうすると技能実習生が経営者と対等な立場で労働契約を結ぶ立場にあるかと考えればそれは絶対にありえない話です。技能実習という制度で来日している以上その制度の制約の下で労働契約を結んでいます。労働基準法が考えている対等な立場で、自由な意思の下に労働契約を結んでいるのではありません。自由意思を阻害する技能実習生制度からくる制約として次のものがあげられます。

 (1) 受入機関(協同組合と会社)の管理下にあること。
 (2) 技能実習職種と違う職種の労働契約であっても受け入れざるを得ないこと。
 (3) 技能実習中の職種から途中で他の職種への変更は認められないこと。
 (4) 会社の倒産等で解雇された時は同一職種の移籍先が見つからなければ帰国となる。当然自分で求職活動はできない。
 (5) 賃金は一方的に最低賃金で決定され、交渉、検討の余地はない。
 (6) 居住する場所も自分の意志では決められない。(狭い部屋に多人数が押し込まれプライバシーは確保できない実態がある)
 (7) 理不尽な取扱いを受けても自由意思で退職を申し出ることは、技能実習の放棄とみなされ帰国につながること。
 (8) 労働者としての権利を訴えるたり、病気・労災等で長期間労働できなくなると帰国させられることへの恐怖感から会社に隠して
   働いている例も少なくない。

 こうした様々な制約は技能実習生制度の適用を受けて来日しているため当然のことであるとも言えます。また研修生として扱うと残業問題等制度運用上の問題が多発し、絶えることがないから労働法の枠の中で解決しようという考え方も分かりますが、上記の制約を労働基準法との関係で見れば第5条の強制労働の禁止との整合性が気になります。この条文は次のように定められています。「使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。」。そしてこの条文違反する罰則は、「一年以上十年以下の懲役又は二十万円以上三百万円以下の罰金に処する。」と労働基準法上もっとも重い罰則を定めています。この条文の制定の趣旨として「労働者の自由の侵害、基本的人権の蹂躙を厳罰を持って禁止し、以て今尚労働関係に残存する封建的悪習を払拭し、労働者の自由意思に基づく労働を保障せんとすることを目的とするものである。」(昭23.3.2基発381号)と述べられています。また、「不当に拘束する」の解釈として「具体的にその諸条件をも考慮し、社会通念上是認し難い程度の手段の意である。したがって必ずしも「不法」なもののみに限られず、たとえ合法的であっても「不当」なものとなることがある。」(昭63.3.14基発150号)。さらに、「意思に反する労働の制約」については、「必ずしも労働者が現実に「労働」することを必要としない。例えば労働契約を締結するに当り、「精神又は身体の自由を不当に拘束する手段」が用いられ、それが意識ある意思を抑圧し労働することを強要したものであれば、本条に該当する。/これに反し、詐欺の手段が用いられても、それは、通常労働者は無意識の状態にあって意思を抑圧されるものではないから、必ずしもそれ自体としては本条に該当しない。」(昭23.3.2基発381号)とされています。先に挙げた技能実習生制度からくる制約と照らし合わせて考えると、研修者性よりも労働者性に重心を移しかえれば移し替えるほど強制労働の条文に抵触していくことにはならないでしょうか。ただ「詐欺の手段」の場合は適用にならないとあるので、こうした制度上の制約自体技能実習生にとっては意識にも上らず、ただサインするように言われたためサインしたとすれば詐欺にあったとして適用されないということもあるかもしれません。関係者全員がこの制度自体「建て前と本音」の世界で動いていると認識していることは確実に社会通念として確立しています。そうすると全員が技能実習生制度に対して詐欺行為を働いているとしたら、やはり制度上の制約としてこの条文違反と言わざるを得ないのではないでしょうか。それ以前に、入管法の在留資格要件を満たしていない不法滞在者ということになってしまうかもしれません。
 外形的には労働者性を判断する基準を通して考えれば労働者であることを否定はできないかもしれませんが、技能実習生制度の趣旨、またこの制度の制約のもとに本人の自由意思が働くのはこの制度に応募するところまででしかありません。あとは制度の流れに従うしかない現状を考えると技能実習生に労働者性があると受け入れることはできません。ただ様々な問題を解決する安易な手段として労働者として扱うこととしたことには一理あります。残業代や解雇の問題また労働・通勤災害については労働基準法に基づいて解決を図ることが可能となったのはいいことだといえます。しかし労働者としなければ労働基準法が適用できないと考えるのもいささか短絡的な話に思えて仕方がありません。研修生のまま、労働者としての権利義務関係については「労働基準法に準じて扱う。」すれば済む話ではないかと考えます。ことさら労働者性を否定する方向を主張するのは労働者としたことからくる弊害があるためです。そうした弊害として次のようなものが挙げられます。

 (1) 労働契約期間の問題
 (2) 最低賃金での賃金決定の問題
 (3) 変形労働時間制を悪用した賃金未払いの問題
 (4) 時効の問題
 (5) 社会保険と労働保険の問題
 (6) 税金の問題
 (7) 宿舎の問題

2.研修生性に軸足を置いた見方
 労働者として扱うことでこうした弊害が伴うのは当然のことといえます。しかし自分の自由な意思で職業を選択し、会社を選んだうえで労働契約を結ぶことが出来る日本人や職業選択の自由のある在留資格の外国人と技能実習生を同列に扱うことには問題があります。労働契約に伴う弊害を具体的に眺め、そして研修生として扱った場合にはどのように対応すればよいか検討していきます。

(1)労働契約期間の問題
@技能実習生として
 通常技能実習生は3年間の技術の習得を目的として来日しています。制度上の契約期間は3年間となります。しかし労働契約書を見るとまれに3年契約のものもありますが大半は1年契約のものです。この期間の決定は使用者の自由に任されることになるので当然使用者としては短い方が都合がいいといえます。技能実習生の期間が3年間ですから、当然1年契約を2回更新することが関係者全員の了解事項となっています。技能実習生に責任のない事由によって解雇・帰国という問題が発生することもあります。例えば、研修職種外の職種で労働させていたことが発覚して解雇・帰国となる場合や残業代や年次有給休暇の行使等正当な権利を主張したため一方的に解雇・帰国させられる場合などです。もし来日6か月目にこの問題が発生したら、残りの2年6か月は研修もできない、平たく言えば2年6か月分の賃金がもらえないことになります。研修という面から見ても、出稼という面から見ても大きな損害を被ることになります。しかし労働者として解雇されると契約期間の残りの6か月分の賃金補償しか得ることはできないことになってしまいます。この制度は一度しか利用できないこと、また制度の趣旨からして他の職種への転換もできないという状況を考えれば労働者保護の立場から労働契約は1年契約の更新ではなく、最初から3年間としてこのあたりの補償が得られるように措置してもらわなければ労働者とされることでの不利益を蒙ることになります。
A研修生として
 労働者として扱わなければ労働契約自体なくなり、来日する前から3年間の研修契約によって来日することになります。先に挙げたような理由により帰国させられることとなっても3年間の研修が出来ないことに対する受入機関の契約不履行として残りの期間に対する損害賠償請求が可能になります。

(2)最低賃金での賃金決定の問題
@技能実習生として
 上陸基準省令(平成21年12月25日法務省令第51号)第2条第5号は「報酬が日本人が従事する場合の報酬と同等額以上であること」と定めています。現在日本人の初任給の額は高校卒で16万円、大卒で20万円程度です。中途採用の正規社員を考えても最低16万円程度はあるはずです。しかし技能実習生は学歴を考慮されることなく、最低賃金がベースとなって12万円程度で賃金が決定されています。当然日本人との格差があります。技能実習中だからとの理屈があるとしてもやはり日本人並みの16万円辺りが最低ラインではないでしょうか。一つのカラクリとして協同組合が第二次受入機関である会社から月3万円から5万円の管理費を徴集しています。この額を賃金に加えると16万円程度となります。この管理費は技能実習生に負担させることは禁じられているため最低賃金と組み合わせて日本人並みの賃金とするとの暗黙の了解があるのではないかと疑ってしまいます。協同組合は営利を目的とする団体ではないとされており、当然技能実習生制度自体も低賃金労働者を受け入れる目的ではなく、費用は会社持ちの事業といえますので、日本人並みの賃金の最低ラインを明確に決めなければ低賃金労働者の受け入れとの概念が独り歩きして最低賃金で落ち着かざるを得ません。
A研修生として
 研修生とすれば研修手当を支給することになります。これまで7〜8万円程度で家賃・水道高光熱費は会社持ちとなっていました。労働者であればこれらは労働者持ちとなるのでそれらを研修手当に加えると最低賃金の12万円程度になります。労働者から研修生に扱いを変える場合には、家族の生活費の仕送りをしている現状もあるため日本人並みの賃金として16万円程度を考えます。当然家賃・水道光熱費は会社負担(3万円程度)とします。会社は毎月協同組合に管理費として3万円程度を支払うので受け入れ費用はひと月22万円程度となります。ただこの管理費については協同組合が参加の組合員である企業に技能実習生を送り込んでいることから、本来の組合会費で管理すべきで、技能実習生個体ごとに徴収するのはいかがなモノでしょうか。

(3)変形労働時間制を悪用した残業代・賃金未払いの問題
@技能実習生として
 労働時間計算において様々な不正が見られます。その中でも1年単位の変形労働時間制は悪用される例が多いのではないでしょうか。しっかりした会社であれば変形労働時間制を適正に運用していますが、多くの会社ではこれを悪用しているのが現実です。どこかから悪知恵を授けられ、どのような制度でどのように運用すればよいのか理解しないまま、労働基準監督署に労使協定を提出しておけば後は労働時間の管理もせず、残業代を無視したり、仕事が亡くなれば勝手に年次有給休暇で処理したり、日々の事業の状況によって恣意的に労働させているのが現実です。交代制がしっかりしている会社や残業時間や休日労働が多くないのであればこうした制度は有効に活用できるでしょうが、日々の労働時間もその日にならないと分からない会社やすさまじい残業が前提となっている会社では変形労働時間制の導入自体不可能であり、労働基準法の基本通りに扱う以外ありません。そのため残業は出来高払の内職といった屁理屈が出てくることになります。
A研修生として
 研修生という考え方で行くとこれまでいろいろな問題が発生してきたことの蒸し返しとなってしまいます。しかし技能実習生は労働者性と同時に研修生としての性格を持っていることから、これまでは、労働者性に軸足を置いて労働法の適用を受けさせてきていたのと同じ考え方を取って、所定の研修時間を超えて残業研修を行う場合には研修時間を労働時間とみなして労働基準法に準じて賃金計算を行うという扱いとすることによって解決できる問題ではないでしょうか。当然変形労働時間制が適正に運用できるのであれば準用すればいいということになります。

(4)時効の問題
@技能実習生として

 労働基準法での時効は、退職手当の5年を除いて全て2年となっています。そうすると労働者として最低でも2年10か月働く訳ですから、帰国間際に残業代の問題を提起すると時効で消滅している部分が当然発生します。以前の研修生時代は労働基準法の適用がなかったためこの問題は発生しませんでした。労働者とされたための問題といえます。
 年次有給休暇についてもこの時効の問題が発生します。採用されて6か月目に年次有給休暇が10日発生します。この日から1年を経過するたびに11日、12日と発生しますが、2年6か月目に12日発生した時点で最初に発生した10日が時効で消滅します。年次有給休暇は病気であっても取らせてもらえない例もあり、帰国直前まで労働させられるケースも少なくないため、全く行使できないことも少なくありません。
A研修生として
 賃金に関した事項については、労働者ではなく研修生としての研修手当の問題となれば民法の債務不履行で時効は3年が適用されることになり、問題は回避することが出来ます。ただ年次有給休暇については労働基準法に準じて付与するとしても研修契約上の問題として3年の時効とするか労働基準法に準じて2年にするかはいづれかに決めればいい問題といえます。会社にとっては可能な限り行使してもらいたくない問題ですから、使用できなかった年次有給休暇については買い上げる制度を義務付ければ双方が納得できるものとなると考えます。

(5)社会保険と労働保険の問題 @技能実習生として
 賃金をもらうとなると技能実習生は当然社会保険(健康保険と厚生年金保険)と労働保険(労災保険と雇用保険)への加入が必要となります。ただ個人経営で5人未満の事業所で働く場合には社会保険ではなく、国民年金、国民健康保険と雇用保険の組み合わせになります。ここでは社会保険に加入ということで見ていきますが、健康保険と労災保険については理解できますが、厚生年金と雇用保険については加入させる必要があるのかと思います。もし何かあった時のことを考えれば、あるに越したことは無いのですが、3年で帰国することが分かっており、年金を受給することは絶対にありません。また雇用保険にしても技能実習生制度上雇用保険の受給自体ありえない話です。在留資格に定められた活動ができないのならば帰国させられてしまいます。ただこれまで雇用保険を受給させた経験を持たれている方もいるはずです。私自身数名受給させました。解雇され、強制帰国させられるようになった技能実習生を保護した場合です。当然、入国管理局に連れて行き、事情を説明しますが、これはただ話を聞いてくれて在留要件を欠いていることを黙認してくれているだけの話にしかすぎませんので雇用保険の受給は本来ありえないのが現実です。
 ちなみに16万円の賃金で一般の事業の健康保険と厚生年金保険と雇用保険の1か月の技能実習生の負担額を計算すると健康保険=8,024円と厚生年金保険=13,412円と雇用保険=16万円×5/100=800円の合計22,236円となります。
A研修生として
 研修生とした場合これらの問題がどうなるかというと、社会保険については、国民健康保険と国民年金に加入することになります。この場合、国民年金については学生免除の適用が受けられることになるため保険料が発生しないまま障害を負った場合の補償が受けられることになります。労働保険については、労働者ではないため対象にはならず保険料は発生しません。ただ問題があるのは研修中の労災事故の場合です。現在中小企業の事業主や一人親方については労災保険には特別加入という制度があります。従って、技能実習生に対しても特別加入を認めればこの問題も解決できます。そうすると国民健康保険料がいくらになるか市町村によって違うため社会保険と同額として考えると、14千円程度の負担が軽減されることになります。会社にとっては労災保険の特別加入保険料だけとなり、保険料負担が大きく軽減されるメリットがあります。
 これまで厚生年金加入しているため、帰国した後、脱退一時金の請求をする必要がありました。この手続きが、送出し機関や闇で手続を行う業者を潤すことになっていた弊害や、中には手続きミスや本人確認ができない、保険料の支払実績がない等の理由で不支給決定されている例がありました。こうした弊害も防げるというメリットもあります。

(6)税金の問題
@技能実習生として

 これも労働者として賃金を貰うとなれば当然納税義務が発生します。中国の様に租税条約が締結されていれば納税の必要がありませんが、中国以外の国では納税義務は免れません。技能実習生達は例外なく母国の家族の生活を支えるため送金していますので扶養控除も当然受けられるはずです。しかし扶養控除申告書の提出をさせていないのが現状です。扶養控除申告書を提出できたとしても16歳未満の子供は扶養控除の対象とされていません。これは児童手当が支給されるからですが、外国に居住する子供は支給対象になっていないため、大きな不利益を蒙っていることになります。また帰国時には会社は年末調整をして所得税の清算をする義務があるにもかかわらず年末調整されていると聞いたことはありません。
 また、帰国後、厚生年金の脱退一時金が支払われる際には20%の源泉徴収がおこなわれます。これの還付請求をするためには日本国内に居住する人を納税管理人と定めて手続してもらう必要があります。ある協同組合では無償で手続をしてくれると聞いていますが、例外中の例外ではないでしょうか。また別の協同組合では手続きをしてくれる人を紹介していました。手数料は30%とのことです。当然、業として行おうとすれば税理士しかできませんので、必要悪としての闇の代理人ということになります。送金方法も裏銀行となる可能性も高く、確実に届くのか不安もあります。しかし、それすら知らない人も少なくないと思います。
 さらに住民税の問題があります。前年度の所得に対して6月から翌年の5月の間で賃金から控除されるのが普通です。これを特別徴収と言いますが、この手続きが取られず、本人が直接支払う普通徴収で処理され、帰国時等に一括徴収されることも少なくありません。結構大きな額なのでトラブルの元になっています。
A研修生として
 この問題も研修生の研修手当として処理されれば解消される問題といえます。当然研修手当は賃金ではないので所得税は発生しませんし。住民税についても所得割部分は関係なく、均等割り部分のみとなります。

(7)宿舎の問題
@技能実習生として

 労働者であれば当然自分で宿舎を確保する必要があります。自分で探すこと自体できないため協同組合か会社が宿舎を確保して家賃や水道光熱費を徴集します。個室を与えられることはなく、畳1.5枚から2枚に1名の割合で入居させられると考えていいのではないでしょうか。10畳に6人とかレオパレスの1DKの部屋に備え付けのベッドに布団を二つ敷いたら余分なスペースがない状況というのが現状です。中には、この家賃や水道光熱費が賃金回収の手段として設定されているとしか考えようがない事例も少なくはありません。
A研修生として
 賃金回収の手段また劣悪な環境が当たり前となっているため、研修生にしたからと言って明確な宿舎基準を設けない限り住環境が改善されることはありませんが、住環境は現行のままとしても会社が招いた研修という実態から費用は全て会社負担とするべきといえます。

3.まとめ
 これまで各方面からこの制度は廃止しなければならないとの声に対して、廃止すれば低賃金で働く労働者が確保できず、日本の経済が成り立たなくなってしまうという反論がなされてきました。しかしこの制度自体に問題があるのでしょうか。問題なのはこの制度を金儲けの手段として見ている人たちがいることであり、この制度で受け入れた低賃金労働者がいなければ倒産の憂き目を見ざるを得ない会社が少なくないことです。正規・非正規の問題が取り沙汰されたり、雇用のミスマッチの問題が云々されています。3K職場には日本人が働きに来ないからこの制度で低賃金労働者を受け入れているのが現実です。問題は、日本人の労働観の変化と言ってしまうことも可能かもしれません。こうした状況を受けた零細企業は企業存続のため技能実習制度に群がってきているというのが現実です。ただすべての企業が悪いわけではなく、コンプライアンスも人権意識も希薄な受入機関があるため皆が迷惑を受けています。こうした企業を排除するためには、技能実習生を受け入れるハードルを高くする以外ないのではないでしょうか。それでは事業が成り立たないとすれば引退していただくか、他の企業との統廃合によって経営基盤を安定させたうえで技能実習生を受け入れてもらわざるを得ません。カキ養殖業等では日本人の働き手がいないため外国人がこの産業を支えている状況があります。こうした産業では、従来の家族経営のままでは後継者を確保できないまま廃業へと進むのは目に見えているのではないでしょうか。統廃合することで競争力もつき、効率的な経営も可能となり、経営の多角化も図ることが出来るようになります。この結果経営基盤も安定し、それなりの賃金・研修費で外国人労働者をこれまで通り雇用しながらも、経営層の後継者の確保も可能になるのではないかと考えます。いづれにしても、技能実習生制度を維持するなり、別な制度にするなりするにしても企業が痛みを伴わない改革は無いといえます。
 これまで技能実習生を巡る主な問題が残業代の未払や不当な解雇帰国等を中心としたものであることから、研修生ではあるが実態は労働者であるとの立場に立って労働法を適用することで問題解決の筋道を明確化させてきました。「建て前と本音」の世界の話ですから、本音の部分で考えるとすれば労働者として扱うという話にしかなりません。また賃金未払いや解雇の問題などの処理から考えればそうした扱いは当然のことといえます。しかし技能実習生の権利と人権を3年間守っていくといった観点から考えた場合、労働者という方向ではなく、建前論の研修生としての側面に軸足を置き換えた方がより良い解決が得られることをこれまで見てきました。要するに、3年間は労働者としてではなく研修生として扱うが、実務研修を中心とすることから、所定時間の研修以外の部分要するに残業や休日研修等については労働基準法を準用する。当然、社会保険労働保険の対象にはならないが、労災保険については特別加入の制度を設ける。研修生となると国民年金は学生免除が適用され、所得税は課税されず、住民税についても軽減されることになります。これに伴い帰国後の脱退一時金とそれに対する源泉所得税還付の問題も解消できます。研修手当については、日本人並みの16万円程度とし、住宅は無償提供するといた内容に改めるというものです。
 なお、本来はこの制度を廃止して単純労働者の導入の方向で問題の解決を図るべきでしょうが、この制度を維持するとした場合、技能実習生全員の利益を優先して考えればここに述べた視点は欠くことが出来ないものと考えています。