どこまでが労働時間なのでしょうか?


   ここ2回派遣労働者に関する話でしたが、たまたま新聞の切抜きをみていると、大手人材派遣会社スタッフサ−ビスが同社グル−プの社員や退職者計3398人に対して過去2年間遡って53億6500万円の時間外手当を支払ったとの記事がありました。これは過労によるストレスが原因で自殺した社員に端を発して大阪労働局から労働基準法違反として書類送検されたのを機にグル−プ全社が残業実態を調査して判明しました。単純計算すると、1人1ヶ月に65786円、時給1250円として52.6時間となり、1日約2.3時間程度の残業となります。同じ月に関西電力では11000人に対して23億円のサ−ビス残業代を支払ったとの記事がありました。こちらは1人1ヶ月8712円、時間単価1800円程度として1ヶ月5時間前後かと思われます。こうしたサ−ビス残業に対する不払賃金をめぐる記事を新聞でよくみかけますが、確かに、意識的な不払が多いのも事実です。しかし、一歩下がって時間外労働とは何かと考えてみると単純に割り切れない問題がいろいろ目に付きます。と同時に時間外管理に対する使用者側の対応の問題もないとはいえません。

  5時になれば退社することを目標に仕事をしていた私にとって、派遣労働者を除いて、サラリ−マンの場合、果たして会社にいた時間が全て残業として扱うことが出来るのか疑問に思うところがあります。みんな帰らないから残らざるを得ないような場合には、1日の仕事配分が5時までではなく、その時間に合わせて仕事をするということになってきます。時間外手当をつけていないとすれば、労働局の指導により調査をすれば残業として処理せざるを得ません。

  一つの例として、安全関係の仕事を担当していたときのことをあげてみます。特別なことがない限り、出社時間は通常より少し早くして1時間前、退社時間は終業後30〜40分経過した後という形でした。所定労働時間前後は仕事はせず、本を読んでいるか雑談しています。なぜこうした状況としたかと云うと事業場からの事故報告があるかもしれない、そうなれば状況を聴取し報告書類を作成しなければならないからということになります。しかし、会社にいなくても、どんな時間でも連絡が取れる体制ができているので、すぐ帰ってしまってもいいのですが、事業場から支店を通じて報告が来るとなるとそれなりに状況調査をしてからとなり、事故即第一報とならない現実があり、支店側も遅くても5時過ぎまでに報告しなければならないとの思いがあるからといえます。こうしたことから5時前後またそれ以降の電話がなるとちょっと構えるところがないとはいえませんでした。こうした時間は時間外労働といえるのかどうかの問題があります。業務の特殊性から暗黙のうちに業務命令があったものとみなして手待ち時間と解釈することも出来ますし、もし事故報告があれば会社に出てくるのが面倒くさいので読書でもして帰ろうかという状況ですから時間外労働じゃないともいえます。しかし、毎日出社した時間と退社した時間を記録に残して2年以内に労働基準監督署に「時間外労働に対する賃金不払い」の申告をしたら手待ち時間と認定され未払賃金の支払いを勧告してくるといえます。また、一定の時間を自分の就業時間と勝手に設定し時間外労働の請求をしている実態もないとはいえませんので、時間外労働を行わせる場合のル−ルを明確に示し、使用者側は的確な管理をしていかなければ、善意の行動も何かの拍子に悪意の行動に転化しかねないといえます。
 
こうした例としてあるグル−プホ−ムで問題が発生しました。福祉の現場では、予算の関係から職員の善意に期待せざるを得ない状況があります。グル−プホ−ムの職員を採用する際、採用当初は福祉への理解も、やる気もある態度を示していたため大いに期待していたところ、その期待を逆手にとられた例です。初日からその職員は始業から就業までを毎日細かく記録しており、採用からちょうど1年たった時点で退職し、退職を機にこれに基づく過去1年間の時間外手当等の支払を求めて労働基準監督署に申告しました。この記録は毎月バックアップ施設にも送られてきていましたが、それに対する指導が十分でもありませんでしたので、労働基準監督官からこうした労働状態を知った上で黙認していたのだから支払義務があるとの指導がありました。グル−プ−ホ−ムでの勤務時間は労働条件通知書で明確に決まっていますが、入居者が在宅しているときは、入居者が寝るまでが勤務時間と勝手に主張し、記録しているものでした。グル−プホ−ムは街中のアパ−トや家を借りて職員が運営管理しているものですから、バックアップ施設が管理するとはいいながらも相互の信頼関係の上になりたっています。このように世話する相手が起きている間は仕事が終わっていないので世話をしなければいけないとの思いは素晴らしいと云えますが、それを時間外手当とリンクさせるのであれば悪意を感じざるを得ません。

  福祉施設の運営は乏しい予算や利用者の障害の状況の問題などから単純に労働基準法で割り切るのには無理な面が多々あり、特に、起居を共にするグル−プホ−ムでは職員の善意に期待せざるを得ない面が多々あります。こうした状況を介護アドバイザ−の三好春樹さんが次のように書いています。「日頃、私たちは契約のなかで仕事をしている。もらっている給料に見合うだけの仕事をしなければと考え働いているし、仕事に見合う給料じゃないと思えば契約を辞めて別の仕事を探すこともできる。/しかし、介護をやっていると、この契約の枠をはみ出すことが多い。目の前の老人が困っていれば、労働時間をオ−バ−してもケアするし、給料のことなんか考えないで夢中になっていることもよくある。/確かにこれは「贈与」と考えたほうが納得いくのではないか。神や自然にしかなし得ない「純粋贈与」に近づく必要はない。わたしたちもまた老人から「贈与」を受けるのだ。「老人に笑顔が出るだけで苦労がふっとびます」なんて、介護者はよく言うではないか。」(介護の専門性を求めてP63)

  確かに、どんな職場であっても、賃金不払いや労働基準法違反の問題として表ざたになれば、労働現場の実態・事情は全く無視され、法律どおりまた雇用契約通りに実行されているか否かでしか判断されざるを得ません。労使双方ともこのグル−プホ−ムの件は大いに参考になるのではないでしょうか。