労働委員会傍聴から(H27.5.17)
技能実習生解雇問題で不当労働行為申立


 カキ養殖業者で働いていた中国人技能実習生が残業代未払やその他の労働条件で問題があるためユニオンに加入して是正を求めて団体交渉に入りました。会社は途中で交渉を打ち切り、彼らを解雇しました。ユニオンは労働委員会に不当労働行為の申し立てを行ない、その証人尋問があるとのことで傍聴に行きました。この事件についての詳細は承知していませんが、傍聴する中で技能実習生制度に関するいくつかの問題がありましたのでその辺りのことを紹介します。
 会社側の当事者は弁護士を立てず社長ではなく一族の中心人物が代理人として出てきていました。不当労働行為の条文をしきり振りかざし、技能実習生に対してもこの言葉の内容を知っているかなど質問をしていましたし、不当労働行為の問題ではなくその前段にある個別的な団交で取り上げられてきた内容を持ち出す場面が多くこの委員会で問題となるべき点への理解が乏しいためか会社側の主張に有利な証言を引き出す質問が少なかったように思いました。

【問題の発端】
 この事件の中心は、所定労働時間を超えた労働時間に対する割増賃金が支払われていないと言う問題です。此処までであればよくある単純な話ですが、会社は次の二点により割増賃金は発生しないと主張しています。(1)残業はさせていない。アルバイトをしていた、(2)水産業は労基法の適用除外規定により割増賃金は発生しない、の二点です。この幕引きを図るため解雇したことが不当労働行為の申し立てとなっています。

【残業ではなくアルバイトだった】
 会社は残業させていない。残業と言っている時間帯は他の会社でアルバイトをしていたものでアルバイト代も支払われている。会社に25%の割増賃金の支払義務はない、と主張しているとのことです。協同組合理事長の証言によると、個人経営の事業所とあと二つ会社があるが同族経営であり、帳簿だけが分離して記帳されているにすぎず、労働の実態としては区別できない状況にあり、その辺りの詳細まで把握していないし、残業していたかどうか把握していない。また他の事業所でアルバイトをしていたとの認識もなかったと証言しています。当然技能実習生達もその辺りのことは分からずアルバイトをしている意識などありません。技能実習生も証言のなかで「技能実習生がアルバイトすることは禁止されていることは知っている。」と述べています。
 ちなみに労基法では1日の労働時間は8時間とされています。これは1社での労働時間の限度ではなく1日の労働時間ですから、8時間勤務後に、他社でアルバイトをしたらアルバイトの労働時間に対しては25%の割増賃金が支払われなければならないと定めています。

【労基法上水産業は適用除外となっており割増賃金は発生しない】
 ここで会社が問題としているのは労基法第41条で水産業は割増賃金の支払いが必要ないと言う適用除外の条文に基づいて割増賃金の支払を拒否しています。
 確かに、この条文を見ると水産業は適用除外とされています。しかし入管は技能実習生についてはこの条文の適用を認めていません。と言っても他の省庁の法律を勝手に変更できない為、明確な文書での定めをすることなく、適用除外に基づいて作成された労働契約書の提出があると技能実習生の受入を許可しないと言った方法を取っています。このため適用除外をめぐってのトラブルが少なく無いといえます。以前この問題について「入国管理局の指針の中にわざわざ「雇用契約に基づいて」との言葉が挿入され、労働基準局長の通達には「なお、労働時間等に関する規定が適用されない労働者についても、雇用契約において時間外・休日割増賃金を支払う旨を定めた場合には、当該契約に基づきこれらの賃金が支払われなければならないこと。」とこちらもわざわざこの文言を挿入したのは両者呼応して実務上は「技能実習生に適用除外は認めない」と宣言していることを意味している。」と報告したことがあります。しかしこうした屁理屈は別として、JITCOのHPを見ても技能実習生は適用除外の対象にならないと明言しており、この辺りのことは協同組合の業務運営上常識のレベルのはずなのですが、明確に規定されていない事を逆手にとって契約書偽装を当たり前のこととして行っています。しかし一方ではこの協同組合の90%がカキ養殖業者で割増賃金を支払っていないのはこの会社だけとの証言もありました。

【労働契約書偽装等】
 適用除外の問題に係らず労働条件の問題については、労働契約書で確認する必要があります。しかし交付されていない例が少なくありません。当然口頭でどのような労働条件であると会社に都合のいい理屈が述べられますが、契約書の提示を求めても提示しなかったり、こちらの予想を裏切る内容のものが提示されることもあります。この事件でも同様でしたが、労働委員会の場で協同組合の理事長の証言によって偽装行為の実態が明らかになりました。
 この事件でも、労働契約書が本人達に交付されていない為、ユニオンが会社に提示させたところ割増賃金欄に何も記入されていないものが出てきたとのことです。会社はこの契約書に基づいて適用除外を主張しているため、これが正当なものか判断するため、入管に開示請求しました。その結果、割増賃金が記載された契約書が出てきたため偽造されたものが提示されたことがはっきりしました。
 この点について協同組合の理事長は、技能実習生達に署名させた割増賃金欄が空白のものは会社に渡し、入管には勝手に署名して提出したと証言しました。入管に提出する書類にも会社印は必要ですから協同組合と会社が共同謀議したことは明らかといえます。
 この偽装問題とあと一つ、会社がすでに帰国した技能実習生名で提出した陳述書に対する信憑性の問題でした。これについて理事長は、「送出機関が彼らを呼んで書かせたとの話は聞いたとことがあるがどのようなものか知らない」と答えました。申立人弁護士から、送出機関の所在地から5時間もかかるところに住んでおり、可能なのか、旅費日当の問題はどうしたのかと質問がありましたが、回答はありませんでした。江田島事件の陳さんの裁判でも送出機関があらゆる証明書をねつ造し、能力のない人まで送り出している実態が暴露された例を思い出します。

【協同組合が技能実習生・会社の要望に沿った対応をしていない】
 協同組合が会社の指示を受けて技能実習生がどのように考えているのか確認するのは当然ですが、それが適正になされず、双方にいい顔をするような話しをねつ造しているのが分かりました。それは、怪我で3か月入院した技能実習生に仕事への復帰を望むのか、帰国を望むのか会社が協同組合に確認するよう指示をしたところ、会社に対して「借金をして来日しているので最後まで実習を続けたい。」と言っていると報告しています。しかし技能実習生の方は「そのような内容の話ではなく、ストレスのたまらないように、安心して治療をしてください。治ったら仕事を続けても良いし、帰国しても構わない。」と言うものだったと言っています。さらに「自分は技能実習生としてくるため借金はしていない。」と言うものでした。

【解雇】
 不当労働行為の申し立ての中心は組合潰しを目的とした第3回目団交の翌日に解雇している点です。労働契約法第17条は「やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。」と定めています。この条文は日本人だけでなく、技能実習生も対象としています。しかし解雇して帰国させてしまえばまず問題が解消されるため、技能実習生問題には解雇・即時強制帰国が大きな壁としてあります。これを恐れて技能実習生は正当な権利の主張ができない状況に置かれています。今回の解雇理由は、勝手に欠勤したり、たばこの喫煙の問題であり、たびたび注意をしてきたと会社は主張しています。しか解雇に至るまでのステップを踏み、記録を残していなければその正当な理由があったと証明することはできません。理事長も、「彼らはかなり問題があり解雇自体遅きに失した。」と証言しています。当然そのように言うのであれば監理団体としてどのように指導して来たのか記録が残っているはずですが明確な回答はありませんでした。
 解雇が正当だったのかどうかといった問題の判断材料の一つに、彼らが他のカキ養殖業者に移籍している点があります。理事長は、「こうした移籍は通常あり得ないが、入管から受け入れ企業が不適切な扱いをしているため移籍させるよう指示があった。」と証言しています。もし、技能実習生が、解雇されてもやむを得ない非行行為をしていたとすればその旨証拠を提出して入管に説明すれば入管が移籍を指示することはあり得なかったのではないでしょうか。

【監理団体としての協同組合】
 委員長は、理事長に、協同組合は技能実習生制度の「適正な実施について企業等を指導する」責任があるとの入管の指針を述べ、協同組合の監理責任の面から質問をされました。これは、これまで理事長が顧客先である会社に配慮して適切な指導を行っていない内容の回答が繰り返されてきたためだと思われます。協同組合は利益優先で監理機能を果たす意識など持っていないのが当たり前との大前提としている私にとってこの質問に新鮮な驚きを感じました。
 会社側から実習生に対して怪我で休業していた期間も会社は協同組合に25,000円程度の管理費を支払っていたのを知っているかと質問していました。管理費は技能実習生と全く関係が無い話であり、不当労働行為は無いとする会社側にとってどのような意味がある質問か理解できませんが管理費の額が明らかになりました。
 また会社と協同組合の関係について、理事は代表理事の自分を含めて4名おりその内に会社側一族が3名理事であったが、この問題が発生したため受入停止を避けるためこの事件に関係している理事3名を解任し新たな理事による体制とした。自分が残ったのは入管との対応で経過は自分しか知らない為で解決後退任予定とのことでした。
 役員の件や技能実習生と会社との間に立って自己保身的な二枚舌を使うことや監査も良い加減であることなどがあったことはこの制度を今後どうするか考えるうえで大いに参考となるものといえます。

【参考】
 労働組合法における不当労働行為の条文は下記の通りです。
第七条  使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
 労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること。ただし、労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない。
 使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。
 労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを支配し、若しくはこれに介入すること、又は労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること。ただし、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、かつ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。
 労働者が労働委員会に対し使用者がこの条の規定に違反した旨の申立てをしたこと若しくは中央労働委員会に対し第二十七条の十二第一項の規定による命令に対する再審査の申立てをしたこと又は労働委員会がこれらの申立てに係る調査若しくは審問をし、若しくは当事者に和解を勧め、若しくは労働関係調整法 (昭和二十一年法律第二十五号)による労働争議の調整をする場合に労働者が証拠を提示し、若しくは発言をしたことを理由として、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること。