日系フィリピン人解雇の問題から


 先日フィリピン人の若い友人から相談があると電話がかかってきました。相談の内容はカキ打ちに従事している日系フィリピン人2名が解雇され、アパートを掃除して早く出て行くように言われたとのことでした。月末に解雇宣告され1週間経っていました。しかしアパートから出て行く期限が特別定められているようでもありませんでした。長年働いてきた職場を何の理由か分からないまま突然解雇されることに納得できないという思いが強くあり、このことを抗議したいとの思いが強かったようです。既に別な仕事先を探すつもりで転居先も見つけていました。話しを聞いているうちにカキ養殖場で働く日系フィリピン人が共通に抱えている問題と同じでした。要するに、賃金明細が無い、社会保険・労働保険に事業主が加入させていないので国民健康保険だけは加入している、住民税は支払ったことがない、区役所に所得証明をもらいに行ったら証明できないので事業主さんに貰うように言われたこと、また源泉徴収票を見ると年末調整していないよう思われることなどがありました。通訳してくれた彼は通常の生活には困らない程度の日本語が話せますが、こうしたこまごました内容になると正確に通訳が出来ないところがありましたが、同席した彼の奥さんやいとこたちが不明な点は補ってくれました。翌日、会社に、平均賃金の一か月分の解雇予告手当の支払と少なくとも月末まではアパートに居住させてもらいたい旨の電話をしました。その夜には本人たちに明日のお昼に1か月分を支払うので取りに来るようにとの電話があったとのことで同行することにしました。
 事務所で経営者であるおばあさんと現場を任され、電話で話したAさんと話しをしました。日系人二人はおばあさんは非常にいい人だがAさんとその息子が悪いと言っていました。電話した時アパート代は日割りで支払うと話していたのですが、おばあさんがそれは必要ないと言ってくれました。おまけに事務所を出たあとオロナミンCを人数分持って追いかけてきて手渡してくれました。現場を預かるAさんは自分が経営者に変わって取り仕切らねばならないと言う責任感から四角四面なことを言わざるを得ない立場に苦労していることが分かります。解雇後のアパート代の日割り計算などはそうしたところから出たものと思います。また、Aさんは今後会社組織にして行こうと思っているが外国人は社会保険に加入するのを嫌がると言っていました。周りの会社からそうした話を聞いているのでしょうが、もしそれを守っておかねば何時なんどき過去に遡って加入させられ多額の費用負担が発生する可能性が有るので、「加入したくない人は雇わないように」という話しをしました。日本に住む以上、手取り収入は減るとしても法律に従ってもらわなければ本人だけでなく税金を負担する我々日本人にとって迷惑な話となってしまいます。
 こうした話とは別に賃金計算については金額的には特別問題はないようでしたが計算の仕方が今一つ分からないところがありました。
給料袋  左の写真は5月分給与袋の耳の部分に記載された賃金支給額です。総支給額や控除項目などが記載された支給明細はありません。
 カキ打ちですが、出来高計算でなく時間給800円の計算であり、休憩時間も含めて賃金計算しているとのことでした。
 賃金袋に記載された賃金支給額とタイムカードを基にして計算した労働時間とそれに対応する賃金は下記のようになります。
出勤日数@拘束時間
(拘束時間内訳)
D深夜(再計)
A休憩時間B所定労働時間C残業時間
22日
289.06 H
 14.66H
176 H
98.4 H
28.36 H
1日平均
労働時間
時間×単価
231,248円
休憩40分
11,728円
時間×単価
140,800円
時間×単価×1.25
98,400円
(内25%部分は
19,680円)
時間×単価1.25
5,672円
12.5 H
@+D
236,920円
B+C+D     244,872円
25%部分を除くと  225,192円

 タイムカードには集計が一切打ち出されていない為、自分で時間計算して賃金額を正確に出すことは大変な話となります。事業所の話しでは休憩時間も含めた拘束時間、要するにタイムカードの始業時刻から終業時刻までを計算した時間数に時間単価の800円を乗じていると言っていますが、その計算とすれば上表の231,248円となり支給額より少ないため深夜労働分を加えると236,920円とほぼ同等の金額となります。事業所では所得税も支払い、住民税も支払っていると言っていましたがその辺りの処理がどうなっているか不明です。水産業は労基法の割増賃金等が適用除外とされていますのでCの98,400円の内割増賃金部分19,680円は除く必要があります。
 なお、この事業所では、アパート代と水道光熱費は事業所が100%負担しており、しかも、7月〜9月の仕事が無く帰国している期間のアパート代と水道光熱費も事業所が負担しています。他のカキ打場でも同様の扱いがされているようです。
 毎日、3時前後から17時前後まで12〜13時間働いている状況を考えると労働基準法第41条の適用除外が正しいのかといった疑問が起こります。上記の期間(5月1日から31日)は100時間程度の残業となっています。冬場のシーズンにはこれを下回ることは無いはずですから労災の過労死水準の労働時間と言えます。日系人は年齢も高い人が多いため脳血管疾患や心疾患を発病すれば事業所は労災給付とは別に数千万円単位の損害賠償を請求されることもあり得る状況です。

【技能実習生との関連等】
 この事業所は、日本人3名、日系フィリピン人11名、中国人技能実習生3名体制で動いています。相談に来た人たちはカキ打ちだけですが、男性は筏にも出て仕事をしています。技能実習生もカキ打ちだけでなく、それ以外の仕事全般に携わっています。江田島事件の陳さんの仕事を見ても、カキ筏の仕事やれに付随した仕事またカキ打ちの人達の打身の計量など行い時間外労働が80時間を超していました。技能実習生には適用除外が認められていない為、当然、割増賃金が支払われています。ただ時間給は750円と最低賃金とされています。同じ職場で、同じような労働に、同じ時間従事しながらも労働条件が大きく異なること自体問題とは言えないでしょうか。
 他のカキ打ち場でも同じでしたが、この事業所でも雇用保険に加入させていませんでした。「雇用保険に関する業務取扱要領(平成25年6月1日以降)」で雇用保険の適用についてみると、労働者を一人でも使用していれば適用事業に該当するとされていますが、個人経営の農林水産の事業で「5人以上の労働者を雇用する事業以外の事業」を暫定任意適用事業として雇用保険の適用は事業主の自由であるとしています。さらに「20105(5)「常時5人以上の意義」」では、「一定の季節にのみ行われる事業(いわゆる季節的事業)は、通常「5人以上」には該当しない。」とされています。従がって、この事業所が雇用保険の適用が無くても問題が無いことになります。しかし技能実習生がいますので彼らはどのようになっているのでしょうか。
 日系フィリピン人が雇用保険の季節的労働者として被保険者(短期特例被保険者)となっていれば11日以上勤務した日が6か月以上があれば基本手当日額の50日分が一時金として支給されます。帰国時の旅費ぐらいにはなると思います。しかし日系フィリピン人のこうした働き方が季節的労働者に該当するのかという疑問が沸き起こってきます。夏場の3か月間仕事が無いから解雇されていると考えるのが正しいのでしょうか。なぜなら日系人に解雇されたとの意識はなく、仕事が無いから帰国するだけです。事業所にとっては彼らは夏場の仕事が少なくなる季節になると帰国したいと言うからと言っています。その間、アパート代等は会社が負担していることなど考えると、休日なり休暇として扱うことも可能といえないでしょうか。契約書は交わされておらず口頭でその辺りがうやむやのまま済まされているのが実態です。通年仕事がしたいと思っているはずです。なかには小学校等に通っている子供を持っている人たちもいます。そのためある家族は、通年働ける職場へと転職していきました。日系フィリピン人の供給には限りがあるため、何れは技能実習生に代替されることになるでしょう。ただ後継者がいればかの話かもしれませんが。