年次有給休暇取得の法改正(案)をめぐって
〜 会社に時季指定の義務づけ 〜



 年次有給休暇はアルバイト・パートを問わず全ての労働者の権利として労働基準法に定められています。アルバイト・パートまた外国人労働者は年次有給休暇の権利があることすら知らない人達が少なくありませんし、知っていても下手に請求すると解雇される憂き目に遭うのではないかと戦々恐々としている現実もあります。日本人の場合、高校生の時また大学に入った時点で簡単な労働基準法の知識やアルバイト等で賃金が支払われない場合の相談先等指導する必要があると思います。賃金が支払われなければ当然労働基準監督署に相談に行くよう教えればいいのでしょうが、高校生のアルバイトの賃金未払で申告しても相手が支払いそうもなければ申告の取り下げを言ってくることもあるので地域のユニオンの存在も併せて指導していく必要があるといえます。労働基準法の話も条文の解説に終始すれば観念的になりすぎてしまい関心も薄いでしょうが、実際に発生した事例を通して話を進めていけば自分の経験と照らし合わせて興味がわくのではないかと思います。そういった意味では「労働法はぼくらの味方! (岩波ジュニア新書)864円」は小説仕立てで楽しく読めるので若い人には読んでおいてもらいたい本といえます。
 年次有給休暇の問題は日本人のメンタリティーにとって権利なのか恩恵なのか曖昧模糊とした感情があるのではないでしょうか。権利と理解できている正社員でさえ取得に気後れする現実もあるといえます。労働調査会の調査(調査シリーズNo.85 H23.6.20)によると年次有給休暇を積極的に取得しない理由の最も多いのが「病気や急な用事のために残しておく必要があるから」で64.6%、次いで「休むと職場の他の人に迷惑をかけるから」60.2%、「職場の周囲の人が取らないので年休が取りにくいから」42.2%等が挙げられています。サラリーマン時代を振り返ってみても同じような回答をしたと思います。しかし週休2日で祝日もあるため年次有給休暇を消化するためにわざわざ休む必要はないとの思いも強くあります。残業が連日続き休みたくても休めない状況の人にとっての問題は適正な人員配置がなされているかどうかの問題であっって、年休の行使ができる環境にないと言った話とは違うのではないでしょうか。こうした状況であれは健康配慮義務の問題としてその解消に会社が取り組むのが先であるはずです。また子育て中の労働者にとってはそのために必要な休暇は年次有給休暇で対処する問題ではなく、既に導入されている子供の看護休暇の充実なりそうした環境に対しての休暇制度を充実させていくべきだといえます。ちなみに子供の看護休暇は育児介護休業法で小学校に上がるまでの子を対象として子供一人なら1年に5日、二人以上なら1年に10日の看護休暇の請求が認められています。また要介護者がいる場合の介護休暇も対象となる要介護者一人なら1年に5日、二人なら1年に10日の休暇が認められていますが、これらは有給休暇とされていませんので無給とされている会社では本来請求すべきこれらの休暇ではなく年次有給休暇を請求することになり年次有給休暇の消化促進に寄与しているというのも変な話です。この辺りの整備の方が年次有給休暇の取得促進に優先する問題ではないでしょうか。
 1月7日の読売新聞に、「政府が26日に召集予定の通常国会に提出する労働基準法改正案の骨子が明らかになった。/企業に対し、従業員がいつ有給休暇を取得するか時期を指定することを義務づけ、確実に取得させることが柱だ。働き過ぎを防止し、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の実現を図る狙いがある。」との記事が載っていました。実際にどのような法案なのかは分かりませんが、欧米に比べて有給休暇の取得率が低いことからこうした法案が出てきています。それぞれの国にはそれぞれの歴史や文化的背景がありそれを考慮に入れず有給休暇を会社が指定して取得させると言うのには大きな問題があるのではないでしょうか。公務員や一部の大企業には病気で長期間休んだとしても賃金保障されていますが、大多数の企業では有給休暇が無くなれば賃金カットされてしまいます。有給休暇を早々と全て消化してしまい、風邪をひいて休んで賃金カットされるのは当然のこととして受け入れられる人はどの程度いるでしょうか。ましてや病気がちな人、高齢な家族や病弱な家族また障害を持った家族を抱えている人にとっては意味もなく有給休暇を消化することを望むでしょうか。こうした問題に対しての補償が法律的に確立されたうえで「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の実現を図る」ために有給休暇の取得を増進する施策を取られるなら理解できます。もし日本人が長期休暇できない状況への批判への対処方法あるのならむしろサバティカル休暇制度を導入すべきではないでしょうか。これは一定期間勤務すれば年次有給休暇とは別に長期間の有給休暇を与えるものです。大学の先生やカトリックの神父さまにはこの制度があると聞いています。知り合いの神父さまは現在1年間のサバティカル休暇でイタリアに勉強に行っていますし、スペインのサンチャゴ巡礼や外国旅行された方もいます。労働基準法が定めている有給休暇には、勤務期間の経過によって当然に権利が発生するもので、労働者の自由な意思に従って行使できるものと言うことが大前提としてあります。例外として、業務に差し障りがある場合の時季変更権が使用者に認められていること、5日を超える年次有給休暇については労使協定によって時季指定することができることがあります。5日を超える日数すべてが計画的付与の対象となっててはいても労働者側はそんなに多くの日数を認めるはずはないので社内旅行や盆また年末年始等に絡めて時季指定すると言うのが一般的かも知れませんが実態はよく分かりません。ただ技能実習生が勤務していた造船所がお盆の休暇に2日の計画付与分を含めて長期の休暇としていた例がありました。先の調査の中で計画的付与を採用している企業は21.8%あると報告されており、導入を希望の割合が高いのは「年休の取得日数が少ない者や労働時間が長い者、上司が年休取得に積極的でない者」のグループと報告されています。年次有給休暇が取りにくい環境があるのは事実でしょうが、こうした状況を克服していくためには労使双方ともに雇用関係は主従関係ではなく契約関係であり、双方が権利と義務の関係を負っていることを強く意識していく以外にないといえます。今回の会社に時季指定させて年次有給休暇取得の促進を図ると言うのも先の造船所のように一斉に休暇を取る方式それもせいぜい5日以内の話でなければ納得できない話ではないでしょうか。