身近にある労働の法律−12
採用時・試用期間等でのトラブル



 職員を採用し、継続雇用し、退職を迎えるという一連の流れの中で、それぞれの時期に応じた様々な問題があります。対応の仕方さえ大きく間違わなければ特別問題も無く終わってしまいます。対応の仕方と言っても法律的な対応といったものよりも、売り言葉に買い言葉とならないように注意するといった感情の行き違いを防止したりするといったあたりのことになります。

採用時の問題はすぐに紛争になると言うよりは職員の心の中でのわだかまりとして、心の中のオリとして残り、他の出来事と結び付きちょっとしたことを切っ掛けとして退職に繋がると言ったようなものです。最近、大形ショッピングセンターに採用された人から聞いた話しですが、契約期間は6か月の更新を繰り返すとの話で採用されたのに渡された契約書には契約期間が1カ月であったと言うものです。その契約書には細かい字でこまごまとした労働条件等が記載されており、これを全て読む人はいないのではないかと思われます。これまでの問題が蓄積されてこのようなものに改善されてきたと思われます。さらに社会保険の適用については直ぐには加入させてもらえなかったり、契約書で決められた以上の日数のシフトが組まれたり、深夜まで残業をせざるを得ない状態に追い込まれたりするとのことでした。また、この大形ショッピングセンターでは、正社員以外は様々なグレイドに分割された契約社員とパートといった雇用形態に分類され、社員になれるルートが確保されているとのことです。その階段を上るためには。勤続年数や日給月給になっているか、社会保険の適用を受けているかどうかとかなどの要件を満たした人だけに昇格試験の受験資格があるとのことです。また残業時間については一定の枠が設定されているため、昇格試験を目指していこうとすると、この枠を超えて残業することは大きなマイナスになると考えられるため、結果的にサービス残業をせざるを得ない状況になってしまうとのことでした。こうした状況はこの人が勤務していた店だけの問題かどうかは分かりませんが、上司によっても大きく左右されるようです。契約を無視したシフトの組み方に反発して無断欠勤したりするパートやアルバイトも多く、いつの間にか不満を持って辞めていっているとのことです。募集広告を出しても応募がない場合には派遣で補充しているそうです。学生のアルバイトや他に目的を持ったパートさんにとっては「話しが違う」という不満から、無断欠勤や退職に繋がり慢性的な人手不足が発生しているようです。事業の円滑な運営また発展のためには契約に基づいた働き易い職場づくりが必要といえます。一時的にシフト上無理を言わざるを得ない状況が出てきたらしっかり説明し、納得を得なければ不満が蔓延し、何かのきっかけで不満が爆発せざるを得ないことになります、退職だけならまだいいでしょうが、労基署やユニオンに不満を持ち込まれれば大きな問題とならざるを得ません。人事担当者と現場の責任者の間で一人一人の労働者の労働条件等についての意思疎通が十分でないように感じるところもありました。事務方は監督署や年金事務所からの指導ばかり気にかけて現場の状況を無視して法律的な整合性を追求していきそれをワンパターンで現場に強いるところに問題がある例が少なくありません。事務方の仕事は、実際に現場で働いているパートさんなどの意見を聴いて、現場の管理職と法律をどの様に運営していく検討していく縁の下の力持ちの役割といえます。それが果たせなければ現場の労働環境の改善はできず慢性的な人手不足に陥ってしまいます。

 次に、会社側に何らの問題も無い場合であっても採用した社員に問題があり、継続雇用が難しいと言った問題もあります。そのため試用期間を設けたり、先述の大形ショッピングセンターのように最初は1か月の契約期間にすると言った工夫が行なわれことになります。しかしいずれの場合であっても余程問題のある人でない限り試用期間経過後本採用としない、また次の契約はしないとすることは難しいのではないでしょうか。一つの例として次のようなものがあります。

 ある下請会社でのはなしです。発注元の業務を遂行するためには発注元が実施している資格を取得する必要があるため新規採用者を発注元に出向と言う形で送り込み一定期間研修を受けさせて資格を得させていました。しかしこの新入職員が出向して1か月後に研修所内で暴力事件を起こし、出向解消とされました。当然、発注元の仕事のための資格なのでその資格が取れなければ採用された職員の働く場所はなくなってしまいます。出向を受け入れた会社には労働契約関係がないため懲戒を行なうことはできず出向を解除して終わりとなります。しかし出向させた会社ではこの新入職員に対してどのように対応するかが問題になります。暴力を振るう様な社員はいらないし、発注元の定める資格を取ることができないのなら直ぐに辞めさせろといった意見も出てくるでしょう。しかし法律的な問題を考えると就業規則に基づいて懲戒を検討するのが普通でしょう。懲戒するとなれば問題となった事件の調査を踏まえて懲戒委員会でどのような懲戒にするか検討することになります。それまでの期間、新入職員を出社させるのか自宅待機させるのか決定する必要があります。通常は自宅待機させると思いますが、自宅待機の期間の措置はどうなるのでしょうか。この会社では採用時に年休を付与しているので年休扱いとするのか、それとも非違行為を行なっているため無休にするのか。年休は労働日に対して労働者が行使できる権利ですから自宅待機を命じたら行使できなくなります。無休にしてしまうと懲戒になってしまうのでこれも難しい話となります。そうすると労基法第26条「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。」に基づいて平均賃金の60%以上の休業手当を支払って休業させなければならないことになります。懲戒処分が決まるまで休業手当を支払うことは会社にとって腹立たしい話なのですぐ辞めさせる方法はないかと考えるのが普通だろうと思います。その場合次の二つの方法が考えられます。一つは法律論ではなく本人に状況を説明して本人の意思で退職するように説得するものです。有給休暇を行使した後に退職とすると温情を掛けることも可能でしょう。懲戒解雇するとなれば休業手当に加えて1か月分の解雇予告手当も必要となりますし時間もかかります。本人の今後のことと迅速な処理を考えると一番いい選択肢ではないかと思います。ただ状況にもよりますが、下手な説得をすると退職後、ユニオンに駆け込んで不当解雇として団体交渉の通知が来る可能性もありますので、しっかり納得させておく必要があるといえます。あと一つは、事前にこうした問題の発生を予想して法律的な対応を事前にしておくものです。たとえば、出向期間中は試用期間とし、「本人の責めに帰すべき事由で出向を解除された場合及び資格取得することができなかった場合には本採用としない。」と言った文言を就業規則と労働契約書の中に記載しておくものです。これであれば機械的に処理を行なうことが可能となりますが、問題の原因だけは調査しておく必要があります。

 就業規則や労働条件通知書(労働契約書)を読むとごく当たり前のことしか書かれていないためあまり関心を持って読む人は少ないのではないでしょうか。ただこれらの一番大きな役割は「労働者を辞めさせるためのものである。」と考える必要があります。そのためには服務規律と懲戒規定がしっかり定められている必要があります。解雇された労働者にとっては解雇が就業規則のどこを根拠としているのか。根拠条文が無ければ解雇は無効となってしまいます。労働問題を回避する為には法律的な側面もさることながらそれぞれの職場での職員間の意思疎通と人間関係にしっかり目配りしておくことが重要ではないでしょうか。