身近にある労働の法律−11
退職をめぐっての問題〜退職願と退職届


 私たちが就職をすると必ずどこかの時点で、理由の如何を問わず退職と言うことが発生します。就職時点での問題として、就職前に聞いた労働条件と内容違うと言ったことがあります。我慢してそれを受け入れるか、労働条件が違うとして労基法第15条第2項「労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。」に従がって退職することができます。継続勤務している場合には、解雇(労使それぞれに原因がある場合)と自己都合退職と定年による退職(解雇)があります。解雇の場合には理由の如何を問わずそれなりの手続きを踏んでいなければトラブルが発生することもあります。しかし自己都合退職となると退職時期の変更や、辞めさせてもらえないとの話を聞く事もありますが概してトラブルは少ないといえます。 
 ただ自己都合退職の場合には退職届を提出した後に退職する理由が無くなってしまった場合、例えばパワハラのひどい上司が、退職願を提出したあと直ぐに転勤になった場合や、上司と言い争いし、すぐに退職届を叩き付けたが頭を冷やして考えたら売り言葉に買い言葉でその場の勢いで提出しただけの話しで退職の取り消しをしたいということは有るかもしれません。そうした場合、労働者が退職の取消を求めてきた場合、会社が退職願の撤回を認めれば問題はありませんが、会社が提出後の取り消しは一切認めていないと突っぱねたらトラブルの発生に繋がらないとも言えません。
 労基法では退職の時期方法等は定めていませんが、解雇する場合には、1か月前までに通告するか、平均賃金1か月分の解雇予告手当を支払って即時解雇することができると定めています。この1カ月が意味しているのは次の就職先を探すまでの期間として1カ月は必要との考え方からです。自己都合退職の申出期間はこれにならって1か月前とするのが一般的な考え方といえますが、中には2か月前までに申し入れが必要と記載された就業規則もありますし、14日前までに申し出る事と定められたものもあります。どちらにしても労基法上の問題は有りません。定年を定めるときは労基法ではなく高年齢者雇用安定法で定年を定めるならば60歳以上にし、65歳まで働けるような措置を取らなければならないとしていますので、就業規則にはこの定めに従った規則を制定する必要があります。では自己都合退職の法律はどうなるかというと民法第627条1項「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申し入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申し入れの日から2週間を経過(注1)することによって終了する。」に従がうことになります。しかし期間を定めた契約社員の場合には、原則途中での解約はできませんが、民法第628条「当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。」によって理由があれば解約も可能とされています。(注2)特殊な事例でない限り損害賠償請求は考えられませんがブラック企業やブラックバイトの世界ではこれが脅し文句として有効活用されています。悪人は法律の行間を自分に都合のいいように必死に読み解き、善人または法律に無関心な人は性善説の立場に立って相手を信用してしまいます。自分の人生にかかわり、会社の業績にかかわる労働契約というシビア−な世界の話しなので、この辺りのことは働く人自らが自分の身を守る武器としてそれなりに勉強しておく必要があります。
 退職に当たっては退職願と言う形式と退職届と言う形式がありますが、通常退職願という形式になっていると思います。「願」か「届」かわずかな違いですが法律的には大きく違います。

【退職願】
 退職願とは当然契約の当事者である労働者からもう一方の当事者である会社に対して労働契約を解約することの承認を求めるものです。双方の合意のもとに円満に契約を途中で打ち切るものとなります。厚労省のモデル就業規則では「退職を願い出て会社が承認したとき、又は退職願を提出して14日を経過したとき」と定めています。この文言にあるように会社の承認が前提となっていますので退職届を取り消す場合には就退職の最終権限者に承認され本人にその旨伝えられる前であれば取消可能といえます。小さな会社では社長に話して諒承があればその場で交渉成立となりますが、規模の大きな会社では稟議書で決済を受け、本人にその旨が通知された時点前でなければ取消はできないといえます。
 ただ会社が慰留しても了承せず訴訟となった場合、退職の意志が固く撤回することが認められないとして「退職願」の形式であっても「退職届」とみなされることがあります。(注3)

【退職届】
 一方、退職届は労働者が退職の意志を固めたうえで一方的に解約の意思表示をするものとなります。就業規則には「退職願」の提出と定められていても「退職届」を提出すればその通知が会社に届いた時点でそこに書かれている日付での退職が確定します。退職届の場合、通常は会社への強い不満なり何らかの理由があると考えられますので、衝動的また、撤回を前提とした軽い気持ちで行うと取り返しのつかないことになりかねません。

(注1)  第627条の第2項には「期間によって報酬を定めた場合には、解約の申し入れは、時期以後についてすることが出来る。ただし、その解約の申し入れは、当期の前半にしなければならない。」とあります。これは完全月給制が前提の場合なので、遅刻欠勤相対で賃金カットがある場合には該当しません。また第3項には、「6箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申し入れは、3箇月前にしなければならない。」とあります。

(注2) ここについては労基法附則第137条が1年を超える契約をしている者は「当該労働契約の期間の初日から1年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる」と定められています。

(注3)  東京地裁判決「ジャレコ事件」(平成9.6.20)
 「原告が被告の退職を希望した理由が、専ら経済的困窮によるもので、転職する以外には方法がなかったこと、原告が退職を考えるようになってから本件意思表示を行うまでに約一年間あることからして、原告は十分考え尽くした上で、本件意思表示を行ったと認められる他、原告は、退職時期及び退職の意思表示を行う時期を、就業規則の規定、賃金計算上の便宜及び転職先会社における就労の開始時期等の諸事情を踏まえ、念入りに考慮して決定しており、また、本件意思表示を行った時点においては、既に転職先会社との間において就労開始の日程を取り決めていたため、原告にとって退職時期やその意思表示を行う時期を延期することは容易なことではなく、原告は、意図した退職日に確実に退職しようとの確固たる意思をもって本件意思表示を行ったと考えられることからすれば、本件意思表示は、単に、原告が、被告に対し、合意による雇用契約解約の申込みを行ったものではなく、原告の被告に対する平成七年一月一八日付け辞職を内容とした雇用契約の解約告知であったと認めるのが相当である。」