身近にある労働の法律−4
退職をめぐって


 退職をめぐっては自己都合退職、雇用期間満了や定年による特別問題とはならないものとトラブルのもとになりかねない解雇とに大別できます。最近退職をめぐって幾つかの問題がありました。一つは解雇をめぐる問題で、解雇から一転辞職届にサインさせられた自動車解体工場で働いていた技能実習生と事業譲渡による解雇の例でした。あと一つは、ある福祉施設での就業規則に定めた定年の例外規定に関するものでした。これらの問題を通して退職をめぐっての労働基準法等がどのように規定しているか見ていきます。

【自己都合退職】
 私たちが就職をする際には契約書の有る無しにかかわらず労働契約を結びます。労働基準法自体労働契約書の問題には触れていませんが、第15条で労働条件を書面に明示して交付するように定めています。これは労働条件通知書と呼ばれ、記載する内容は労基法施行規則第5条に定められています。その中の一つに「退職に関する事項(解雇の事由を含む)」というものがあります。要するに定年の年齢や退職する時には何日前に申し出るまた会社が労働者を解雇する時にはどのような理由が必要かなどを記載しておく必要があります。就業規則(注1)が定められている場合には該当条文を明示しておく必要もあります。
 自己都合退職の場合、就業規則には普通1か月前とか14日前に届け出ると記載されています。この辺りことは民法第627条の定めに基づくものといえます。「14日前」については、期間の定めのない雇用契約について、「いつでも解約の申し入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申し入れの日から2週間を経過することによって終了する。」との規定に基づいています。同時に、賃金が期間によって定められている時には、次期以降の期間について解約の申し入れが出来、しかも、申し入れる月の前半にする必要があります。もし後半に申入れするとなると次の次の期間でしか退職できないことになります。一方、「1か月前に申し出る」と規定されているのは、次の人材確保のため必要な期間が1カ月は必要との考え方といえます。労基法第20条の解雇予告手当は少なくとも30日前に解雇予告をするよう定めていますが、これは労働者が次の仕事を探すのに必要な期間とされているためこれとの関係で考えることもできます。
 ちなみに労働者が在職中の契約内容等の証明(退職証明)を請求した時には使用者は請求のあった事項について退職証明書を交付する義務があります。フィリピンの技能実習生で見ると過去の勤務先での退職証明は就職するためには絶対に必要とのことでした。

【解雇】
 解雇については、労基法第20条解雇予告手当の定めのように30日前に申し入れる必要があるとされています。ただこの場合、労働契約の期間を定めた契約をしていれば、残りの期間に対しての損害賠償請求権が発生することになります(民法第628条)。
 今回技能実習生で発生した解雇の問題は次のようなものでした。

9月3日 10/29帰国用チケットの予約書類が会社にFAXで送られてくる。(後日書類で確認)
9月12日 同僚の日本人から10月29日に帰国させると社長が工場長に話していたと聞く。
9月18日 社長と協同組合の理事長から10月29日に帰国させると告げられる。
10月19日 契約更改しないので11月19日で契約は終了するとの書類を渡される。(解雇日の変更)
10月20日 11月19日まで働くかと言われ、働かないと答えると、検討するまもなく辞職届にサインさせられる。

 早くから解雇・帰国は決まっており、9月18日に解雇告知がされ10月29日の帰国が決定していましたが、どうした訳か、解雇を取消、契約期間満了を持って契約更改しないと改めて告知しています。こうした恣意的な解雇について、民法第540条は「1. 契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によってする。2. 前項の意思表示は、撤回することができない。」と定めており、厚労省の通達にも「使用者が行なった解雇予告の意思表示は、一般的には取り消すことを得ないが、労働者が具体的事情の下に自由な判断によって同意を与えた場合には、取り消すことができるものと解すべきである。」(昭33.2.13基発90号)とされています。通達に有るように、自由な判断のもとに辞職届にサインをすれば問題は無いでしょうが、解雇に当たって会社は加入しているユニオンと協議することもなく、また本人達にも相談することを許さず、辞職届にもその場でのサインを強要しています。契約更改しない理由として、会社のものを盗んだ、業務命令に従わない、注意した社員に威嚇行動をとり危機感を感じさせたなどの理由が列挙されています。全て事実無根ですし、社員を威嚇したという問題では、社長は、禁止されていたフォークリフトを運転しそれを注意した時のことと言っていますが、実際は、運転したのは一期下の後輩であり、それを注意しなかったことで叱責れさたとのことでした。労働安全衛生法上会社の安全教育がなされていないことを意味しています。また解雇を1カ月伸ばし、「残りの期間働きたいか。」と問うことは人手不足からであり、記載された理由もいい加減なものであったことを表明しているといえます。技能実習生達は3年の契約で来日しています。来日前に入管に提出する書類には3年間の契約書があるはずです。これも書類開示請求すれば手に入れることが可能です。こうしたことに対して、当然残りの期間についての損害賠償の裁判を起こすことになります。こうした一連の流れは彼らが労働組合に加入して賃金未払等を請求した結果、裁判に進んだことからで、当然、不当労働行為の問題も発生することになり、ユニオンは労働委員会に申立することになります。
 ちなみに、労基法第22条の2項には、「労働者が、第二十条第一項の解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。」と定められています。事業所の恣意的な扱いに対抗するための手段としてこれを貰っておく必要もあるといえます。
 また日本人の解雇については、会社を他社に譲ることが直前で中止になったため解雇を取り消すというものでした。残業代未払等の問題もありユニオンに加入して解雇の問題が解決した直後の話しでした。
 何れの問題も、労働者を消耗品としてしか見ていないためなのでしょうか。こうしたことに対抗するために労働者は基本的な労働法の知識と支援団体の存在を日ごろから知っておかなければ大きな不利益を蒙ることになるといえます。

【定年】
 高年齢者雇用安定法は、60才を下回る定年を定めることを禁止し、各事業所が定年の引き上げや廃止また65才までの雇用確保措置を取るよう定めています。最近、ある福祉施設で施設長の定年の扱いをめぐって問題がありました。就業規則には、「職員の定年は満65歳とし、定年に達した日の属する年度の末日をもって退職とする。/前条にかかわらず、施設長については理事長において必要があると認めた場合には定年を延長することができる。」と定められています。通常であれば、「施設長については」は「必要な職員については」とされるべきところです。福祉施設の場合、子どもの障害から親が施設を立ち上げることが多く、「施設長=親=施設の所有者ないし施設の土地や建物の寄贈者」との関係があるためこのような文言が入っていると考えられます。創立者が施設運営に尽力している間は当然のことともいえます。しかし当初の設立者がいなくなったり、社会福祉法人として創立者の手を離れた施設の場合には問題になる条文といえます。賃金規定で賃金の減額規定がないまま定年延長すると職員としての賃金を支払い続ける必要があります。定年制を設ける理由は高齢化による体力的また判断力の低下等の問題を回避するためであると同時に職員の新陳代謝を行なうことによる組織の活性化の為でもあります。後継者を養成せず、延々と職員としての賃金を貰い続けようとする人が出てくれば組織にとって大きなマイナスとならざるを得ません。この施設では施設長の任免は理事会の専決事項とされていることから、就業規則の「施設長については理事長において必要があると認めた場合には定年を延長することができる。」の中にある理事長は理事会を指しているという理事がいました。就業規則が意図していることは、「職員としての身分」をどうするかの問題であって施設長であることとは関係がない話です。必要であれば嘱託再雇用も当然考えられます。こうした問題は、同業種間の就業規則のひな形を利用したための問題といえます。就業規則は、それぞれの事業所の実態に即したものを作成する必要がある例としてとらえる必要があるといえます。

(注1) 就業規則は労基法第89条で、常時10人以上の労働者を使用している事業所に作成義務を課し、労働者代表の意見を添えて労基署に届け出る義務を課しています。労働条件通知書に記載すべき事項も施行規則で定められています。しかし、就業規則を作成しても労働者に周知していなければそれを盾にとって会社が一方的に労働条件を押し付けることはできませんし、労働条件の不利益変更に当たっては労働者の合意(労契法第9条)が必要とされています。