ホテル内施設のマッサ−ジ師は請負事業者?

 先日、友人を介して、「ホテル内の施設でマッサ−ジ師として働いている自分がどのような立場で働いているのか良く分からない」との相談がありました。要点をまとめると次のような内容です。

 (1) ホテル内施設のテナントとしてマッサ−ジ業をおこなっている会社に勤務している。
 (2) 契約書はもらっていないのでどのような契約か分からない。
 (3) 勤務時間は13時から21時まで。
 (4) 25日出社が原則で、25日出社すれば仕事が無くても基本給は保障されている。
 (5) 報酬は基本給20万円と歩合給で、給料の名目で銀行振込みされている。
 (6) 交通費が1日500円支給されている。
 (7) 源泉所得税を含めて控除されているものはない。
 (8) 源泉徴収票また支給明細等もらっておらず事業所得として青色申告してきた。
 (9) 会社の人は駐在せず、数名のマッサ−ジ師の中の一人が責任者としてまとめている。
 (10) 会社は他県にあり、社長は偶に来るだけ。

 こうした状況で、自分は会社に雇われている労働者だと思っているが、実際はどのような立場にあるのか疑問になったから話を聞かせてもらいたいとのことでした。後日責任者が社長にこの話をしたら、「雇用保険・労災保険に加入させると手取り額が少なくなる。こうしたものを取り入れているマッサ−ジ店では基本給15万円程度(注1)となり低い賃金設定としなければならないため、請負契約としているので、源泉徴収はしていない。」との回答があったとのことでした。普通、マッサ−ジ店がどのような賃金形態をとっているのか良く分かりません。過去に「報酬=時間給×施術した時間数」で計算し、希望者には雇用保険に加入させるというケ−スをみたことがあります・・。

 請負契約といわれるとなんとなくそのような気持ちになってしまいます。民法を開いてみると内容に応じていろいろな契約が定められています。今回の問題に関係のある契約形態としては社長さんが主張している請負契約、マッサ−ジ師さんが考えている労働者としての雇用契約とがあります。請負契約は、「請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。」と規定されています。最近良く話題となっているものに偽装請負があります。これは請負契約を結びながら、自己の雇用する労働者を他社の指揮命令下で労働させることを意味しています。こうした労働形態は労働者派遣事業の許可ないし届出をした業者にのみ認められるものです。要するに、請負事業と認められるためには発注者の指揮命令を受けずに仕事を完成させることが条件となります。家を造る場合には大工さんと請負契約を結ぶことになりますが、こだわりを持って注文者が材料の発注、細部の仕上げの指示などをするため現場に張り付いていることになればむしろ「雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。」という雇用契約となるのではないでしょうか。要するに、請負契約と雇用契約の違いは指揮命令関係=使用従属関係があるかどうかの違いといえます。仕事の実態は雇用契約でありながら労働保険、社会保険の適用を逃れるため請負契約とされている例が多く見られます。たとえば、電力会社の検針員が準委任ないし請負契約に類似のものであるとしても実質的には労働者であるとされた例 (福岡地小倉支50.2.5)があるように、「一定の就業関係が法律上雇用か請負かは、実態を観察して判断する。当事者の付した契約名にこだわらぬ。」(浦和地54.8.10)という観点から考えていく必要があります。そうした例の一つとして、配達部数に応じて報酬が支払われる新聞配達人の例があります。新聞配達人は請負関係にあるのかそれとも労働者と見なされるのかとの質問に対して、「配達部数に応じて報酬を与えているのは、単に賃金の支払い形態が請負制(注2)となっているだけであって、一般に販売店と配達人との間には、使用従属関係が存在し、配達人も本法(労基法)の労働者である場合が通例である。」(昭22.11.27基発400号)と回答されています。

 では契約名称に関わらず労働者に該当するのはどのような場合かというと、労働基準法第9条に定められている、「この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」という労働者の定義に該当するか否かで判断することになります。えくれしあ第48号の「労働者と見なされる条件は?」の中に、クラブのホステスさんに労働者性があるとされた判例での労働者性の有無の判定の流れをあげていますのでご参照ください。

 労働者性の有無を判断するとき、(1)指揮監督下の労働であるか、(2) 報酬が労務の対象として支払われているのか、また、これを補強する要素として(3)事業者性の有無と(4)専属性の程度について検討していきます。これに従って、このマッサ−ジ師さんの場合をみていくと、

(1) 労務提供の形態が指揮監督下の労働であることについては、
 責任者の下(マッサ−ジ師の一人)に月25日の勤務と出勤日に13時〜21時までの勤務が義務付けられており、お客の選択の自由はなく責任者が割り振りしている。また、自分の代わりの者を派遣し施術させることは認められているとは考えられない。

(2) 報酬が労務の対象として支払われているかどうかについては、
 (1)のように拘束された時間内のいつでもマッサ−ジを行える状態で待機していることを条件に基本給20万円プラス歩合給と決められており、25日出勤すればマッサ−ジを行わなくても基本給は保証されている。報酬は「給料」として銀行口座に振り込まれている。

(3) 事業者性の有無
 場所の使用料、光熱費そしてシ−ツの使用料などの費用負担はなく、料金設定の自由もなく、マッサ−ジ料金は会社が受領し、稼働状況に応じて報酬が支払われており、トラブルがある場合には責任者が対応している。また月に1〜2度来る社長からの指示を受けた責任者がマッサ−ジ師の出退勤等を管理している。

(4) 専属性の程度
 13時〜21時までは時間的・場所的拘束を受けており、この時間内は、ホテル内の仕事とホテル外の自己の顧客との仕事の割り振りを自己の裁量で自由に行うことはできない。

 こうした状況から考えると労働基準法の定義に該当する労働者といえるのではないでしょうか。

(注1)  賃金30万円のマッサ−ジ師を10名雇っている場合の社会保険料は以下のようになります。この場合、現行の基本給から5万円下がる理由は下記のように事業主にとって一人当たり月額40,644円の負担増となることによる利益確保のためといえます。

費 用 の 額 の計 算 式 支払方法
労災保険 従業員の賃金総額×4.5/1000         (全額事業主負担)
36,000,000円×4.5/1000=162,000円
(年間)
事業主負担分
(労災・雇用)
     702,000円
従業員負担分(雇用)
     198,000円
(一人月額1,650円)
雇用保険 従業員の賃金総額×15/1000     (事業主負担分は9.5/1000)
36,000,000円×15/1000=540,000円  (内事業主負担分342,000円)
(540,000円を一括払いした後、従業員負担分については毎月賃金から戻入することとなります)
健康保険 標準報酬月額×82/1000 (半額事業主負担)
300,000円×82/1000×12月×10人=2,952,000円
(事業主負担分1,476,000 円)
(年間) (健保・厚生)
事業主負担分
    4,175,280円
従業員負担分
    4,175,280円
(一人月額34,794円)
厚生年金 標準報酬月額×149.96/1000 (半額事業主負担)
300,000円×149.96/1000×12月×10人=5,398,560円
                (事業主負担分2,699,280円)
事業主の年間負担額=4,877,280円(一人月当たり40,644円)
従業員の年間負担額=4,373,280円(一人月当たり36,444円)
労災雇用保険は、5月20日までに1年分を事業主が一括して支払います。

(注2)  労働基準法第27条は、「出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。」と定めています。ここでいう請負制とは民法の請負契約を意味しているのではなく、賃金形態が請負制の場合であっても使用者に一定額の賃金の保障を義務付けているものです。厚生労働省では、「請負制とは、一定の労働給付の結果又は一定の出来高に対して賃率が決められるものである。本法においては、出来高払い制は請負制の一種であると解している。」としています。また、固定給部分が大半(おおむね6割程度以上)を占める場合には請負制に該当しないとしています。