会社の都合による休業と年次有給休暇をめぐって


 私達が社会生活を行っていくうえで基本となるのは契約という行為です。それをすべての人が平等にまた適正に行うために法律が制定されています。これを順守しなければ社会生活自体成り立たなくなってしまいます。私たちの職場においても当然法律に従って労働契約を結ぶということになります。現実には、労働契約書を交わすことは少ないと思いますが、労働基準法は使用者に労働条件を明示した文書の交付を義務付けています。また10人以上の職場では就業規則を定めて労働基準監督署に届け出る義務を使用者に負わせています。しかしこうして定められた労働条件が無視される例も少なからずみられます。技能実習生の相談を受けている中にそうしたものの一つとして、会社の都合によって休業した日を年次有給休暇で処理するという例があり、最近もそうした相談がありました。

 労働をめぐる原則の一つに「ノーワーク・ノーペイの原則」があります。労働者は労働を提供して賃金を得ているので働かなければ賃金はもらえないのは当たり前の話として誰もが理解しています。しかしここには労働契約が結ばれていることが大前提としてあります。契約となれば使用者も労働者もそれぞれが権利と義務を持ちそれぞれが義務を果たさなければ権利を主張できないという関係があります。従がって、「ノーワーク・ノーペイの原則」は労働者の労働する義務の面のみ強調した言葉にすぎず、使用者の義務を無視した原則と言わざるを得ませんので、これと対となる原則は「使用者は労働者に仕事を提供できなければ損害賠償責任を負う」ということになります。労働者と使用者は対等の立場に立っているといったところで、使用者側の力が圧倒的に強いのが分かっているため、労働者は、労働組合法によって団結し、団体交渉する権利が認められています。これまでも労働組合に加入させることによって問題解決を図ることが出来ました。しかし一人だけで労働組合に加入し、問題解決を提起した場合には解決は図れても、これからの問題として残業拒否等との不当な差別的取扱い扱いをしてくることが往々にしてあります。

 さて会社の都合による休業に対して、労働基準法は賃金保障することを命じています。「使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当てを支払わなければならない。」と定めている休業手当(第26条)の規定かこれに該当します。これに該当する場合二つの問題があります。一つは所定労働時間の一部が休業となった場合の「平均賃金の百分の六十以上の手当」の計算の問題で、あと一つは、どのような内容の休業が休業手当に該当する「使用者の責めに帰すべき休業」かといった問題です。

 最初の所定労働時間の一部を休業した場合の問題ですが、これについては、「現実に就労した時間に対して支払われる賃金が平均賃金の百分の六十に相当する金額に満たない場合には、その差額を支払わなければならない。」(昭27.8.7基収3445号)とされています。従がって、残業や手当が一切ない人の場合、「所定労働時間×0.6」以上働いていれば、その日に休業が入っても休業手当は支払う必要がないということになります。平均賃金の計算は過去3カ月の賃金総支給額を稼働日数ではなくて暦日日数で除すところに問題があるともいえます。

 次に「使用者の責めに帰すべき休業」と限定されていることから使用者に責任のない原因で休業した場合には休業補償の必要がないということになります。ただ使用者に責任があるのかないのかといってもなかなか難しい問題があります。下請けの場合、親会社からの資材の供給がストップしたとしても「使用者の責めに帰すべき休業」に該当しない(昭23.6.11基収1998号) とされていますのでハードルはかなり高いといえます。では雨降りで休業となった場合はどうでしょうか。労働基準局の見解では「港湾労働者についても、天災地変その他の不可抗力による休業の場合を除き、船舶、艀、荷役設備、貨物の場合等経営に係る事情に基づく休業については、一般に休業手当の支払い義務があると解されるが、この場合、「雨天等による休業の場合についても、それが自然現象によるものであるという理由のみで、一律に不可抗力による休業とみなすべきものではなく、客観的に見て通常使用者として行うべき最善の努力をつくしても、なお、就業させることが不可能であったか否か等につき当該事案の諸事情を総合勘案のうえ『使用者の責めに帰すべき事由による休業』であるか否かを判断すべきものである」(昭41.6.21基発第630号)」(労働基準局編労働基準法上P365)とされています。

 今、船舶の塗装で働く技能実習生が、雨の日は早く帰らされたり、朝から仕事がなかったりする。今年みたいに雨が続くと賃金が少なくなってしまうと嘆いています。さらに続けて、会社から、「賃金が無いのがいいか、年次有給休暇を使って賃金を貰った方がいいか」と言われるといっています。当然年次有給休暇を使用すると答えます。この休業は、使用者の責めに帰すべき休業」に該当するかどうかが問題になります。船舶塗装についての知識がないため判断できませんが、彼らが技能実習生であるということから考えると、単純に、自然現象として、使用者にとっては不可抗力であったとは認められないと考えます。労働契約を結んだ労働者として扱われてはいても、それは労働法また社会保険法の適用を受けさせて保護するためのものでしかなく、3年間の技能実習計画に基づいた研修生です。雨天で作業が出来なければ他の研修に振り替えるべきであるといえます。研修の内容は次の四つに分かれています、@必須作業(実習時間の半分以上)、A関連作業(実習時間の半分以下)、B周辺作業(実習時間の1/3以下)、C安全衛生作業(前記三つの作業でそれぞれ10%程度)の四つです。雨で必須作業がおこなえないのなら他の三つの作業に振り替えて行うべきであるといえます。それをせずに不可抗力による休業とすることはできないと考えられます。

 次に、こうした休業を年次有給休暇で処理することが正しいのかということになります。年次有給休暇が行使できるのは労働が義務付けられている日に限られています。労働契約で所定休日とされている日に出勤を命じられても行使できるものではありません。休業命令が出れば労働義務は解除されるため年次有給休暇の対象とはならず、使用者のこうした強制は労働基準法違反といえます。ただ、「座学を行うが、それを聞きたくなければ年次有給休暇を行使することは認める。」と言われた場合には厄介な話となります。