知っていますか労働の法律!! 

競業避止義務について

   事務所を置いている広島SOHOオフィスに月に1〜2回コ−ヒ−豆を持ってくる業者がいます。コ−ヒ−メ−カ−を無料貸与し、定期的にコ−ヒ−豆を補充し、使用した量を請求をするというシステムです。似たようなものに、入り口のマットやモップ類の業者もいます。任された区域を巡回するだけといってしまえば失礼かもしれませんが、業務自体は単純作業かもしれません。しかし、このシステムを構築する営業努力は大変だろうと思います。新規参入しようとすると、先行企業の地盤に食い込むためには人脈やツテを頼って営業することになります。しかし、手っ取り早く先行企業のノウハウをもった営業マンを引き抜いて事業システムをつくりあげようとする会社もあるでしょう。また営業マンが独立していくこともないとはいえません。こうした場合、在職中に覚えたノウハウを活用すること自体には特別問題はないかもしれません。しかし、退職前の会社の中でも採算性の高い顧客を中心に営業をかけるという方法をとったとしたらどうでしょうか。また、研究・技術開発を担当している職員が、完成目前の商品をもって、同業他社に就職する場合もあります。そうなると退職前の会社にとっては死活問題となってきます。こうした問題が発生することが考えられる会社では、このような事態をどうすれば防ぐことが出来るか、防止対策に対する法律的根拠はどこにあるか、といった問題を事前に検討しておく必要があります。こうした事態に対処するためには就業規則などで同業他社への退職後の就職禁止を定めておかなければ対処することが難しいといえます。。これが「競業避止義務」と呼ばれるものです。また、次のような場合も、「競業避止義務」に違反する行為といえます。副業を持っている場合です。会社の業務と全く違った副業であれば問題は少ないかもしれませんが、会社で行っている業務と同様の業務を個人的に行うこともあります。不動産会社で住宅販売をしている社員が、同業の別会社を設立しておき、業務を通じて知り合った顧客に対して、勤務先の会社を通さず直接販売するなどの行為がこれに当たります。後者の場合には、背任行為という問題も発生してきますのでここでは考えず、退職後の同業他社への再就職について考えていきます。
 個人情報保護法による規制もありますが、これは会社側が個人情報の取扱に関する規定を作成し、デ−タ管理、職員教育を通じて保護していくことになりますが、営業マンの頭の中にある情報や営業上システムやノウハウまでは規制できないと思います。
 憲法第22条を受けて、職業安定法第2条で、「何人も、公共の福祉に反しない限り、職業を自由に選択することができる。」と定められているように、私たちは自由に職業を選択する権利がありますので、再就職先まで会社が規制するとなると職業選択の自由が損なわれることになってしまいます。しかし、不当競争防止法第2条第7項で「営業秘密を保有する事業者(以下「保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の競業その他の不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為」は不正競争として禁止されています。この規定は退職した後まで拘束するのかといった問題があります。基本的には、就業規則の中で守秘義務また退職後の同業他社への再就職はできない旨の規定を設けておかなければこれに対抗できないといえます。しかし、すべての職員を一律に規定してしまうこともできませんし、「死ぬまで禁止する」と規定したり、営業範囲でもない地域まで含めて規制してしまうと、労働者の職業選択又は営業の自由を不当に制限してしまうことにもなり、公序良俗違反として認められない場合も有あります。どの程度までなら「競業避止義務」を課しても良いかを考える場合、過去の判例を参考にして会社の状況に当てはめて見当していくことになります。
 基本的には、次の3つの視点から、
 (A) 使用者の利益の程度(企業秘密の保護)、
 (B) 労働者の不利益の程度(転職、再就職の不自由)、
 (C)社会的利害(独占集中の虞れ、それに伴う一般消費者の利害)
 就業規則で競業避止を定める具体的な内容、
 (1) 業避止義務を課す期間、
 (2) 競業避止義務の対象となる区域、
 (3) 競業避止義務の対象となる職種、
 (4) 労働者への代償の有無
 等が合理的な制限の範囲にとどまっているかを検討して規定を作成していくことになります。
 (4)「労働者への代償の有無等」とは、再就職をする場合、当然、これまでどのようなキャリアがあったのか、どのような実績をあげてきたのかが自分を高く売り込めるかどうかのポイントに当然なるはずですから、こうした機会を制限される労働者に対しての見返りとして何らかの処置を取っているかどうかを意味しているといえます。
 大企業では、こうした問題を専門の部署が法改正・判例等に目を光らせて就業規則や契約書類を随時改訂していますが、多くの会社では就業規則に対する関心が低く、問題が発生するまで見直されていない状況があります。就業規則は、「転ばぬ先の杖」でもあり、職員に対し公平な処遇をするための基準となるものですから、雛形を丸写ししたものではなく、自社の甲羅に合ったものを作成しておかなければ意味がないといえます。

(参考)
フォセコ・ジャパン・リミティッド事件(奈良地裁昭和45年10月23日判決)
「一般に雇用関係において、その就職に際して、あるいは在職中において、本件特約のような退職後における競業避止義務を含むような特約が結ばれることはしばしば行われることであるが、被用者に対し、退職後特定の職業につくことを禁ずるいわゆる競業禁止の特約は経済的弱者である被用者から生計の道を奪い、その生存を脅かす虞れがあると同時に被用者の職業選択の自由を制限し、又競争の制限による不当な独占の発生する虞れ等を伴うからその特約締結につき合理的な事情の存在することの立証がないときは一応営業の自由に対する干渉とみなされ、特にその特約が単に競争者の排除、抑制を目的とする場合には、公序良俗に反し無効であることは明らかである。」

「競業の制限が合理的範囲を超え、Y1らの職業選択の自由等を不当に拘束し、同人の生存を脅かす場合には、その制限は、公序良俗に反し無効となることは言うまでもないが、この合理的範囲を確定するにあたつては、制限の期間、場所的範囲、制限の対象となる職種の範囲、代償の有無等について、債権者の利益(企業秘密の保護)、債務者の不利益(転職、再就職の不自由)及び社会的利害(独占集中の虞れ、それに伴う一般消費者の利害)の3つの視点に立つて慎重に検討していくことを要する」