北日本電子ほか(外国人研修生)事件判例から
金沢地裁小松支部平26.3.7判決 (労働判例No.1094)


 先日送られてきた「労働判例」の中に、外国人研修生を労働者と認定し、時効また協同組合を含めた慰謝料について興味を引く判例があったので簡単に紹介します。

【研修生の労働者性が認められた】
 「被告会社は、原告に対し、研修実施予定表に従った研修をしておらず、また、残業も命じていたのであるから、原告は形式的には「研修生」であったが、実態に照らすと労働者であったと認められる。」と判断を下しています。通常、労働者であるか否かが争われる場合には、@指揮命令下に労働を行なっていたか、A労務の対価として報酬が支払われていたか、の二点を中心として労働者性の有無が判断されます。この裁判では、指揮命令下の労働と言った問題には触れず、技能実習生制度を逆手にとって制度で定められた運用ができなければ形式的には研修生であっても実態としては研修生と認められないとしています。また労務の対価としての報酬については、研修時間終了後も居残りをして自主的な予習復習をしていたので、それに対して小遣いを渡していたという会社の詭弁を不自然として退け、それを労務の対価として残業代を支払っていたとしました。

(1)実務研修予定表との違い
実務研修時間
研修実施予定表の時間
 平成22年1月  実務研修   117時間
 非実務研修   49時間30分
 実務研修     89時間
 非実務研修    44時間
 平成22年2月  実務研修   117時間10分
 非実務研修   44時間10分
 実務研修    127時間
 非実務研修   46時間
 平成22年3月  実務研修   135時間40分
 非実務研修   44時間
 実務研修    127時間
 非実務研修   46時間

(2)残業代について
 「平成22年1月以降はタイムカードに残っていた時間を鉛筆で記載していたことが認められる。この点について、乙山は、残業代ではなく自主的に行っていた予習復習に対して1時間当たり600円の小遣いを与えていたと供述するが(<証拠略>、被告会社代表者本人)、そのようなことに対してタイムカードに時間を記載させ、小遣いを与えることは不自然であるといわざるを得ない。むしろ、原告が残っていたことに対して一定の割合で金員が支給されたのは残業代であると見るのが自然である。また、タイムカードに記載された鉛筆書きの時間は消去されているが(検証の結果)、各月ごとの集計をうかがわせる記載や「残」の文字を読み取ることができ、このような記載からもタイムカードで残業代を把握していたものと認められる。」

【研修期間中の未払い賃金】
 所定内・所定外を合計した未払賃金86万2395円とそれに対する遅延損害金9万8157円の支払いが命ぜられました。研修生ではなく、労働者と認められたため、研修手当と最低賃金で計算された金額との差額は所定内未払い賃金とされています。

【会社等の不法行為・慰謝料】  強制帰国未遂を始めとし、パスポートや預金通帳の取り上げ、また様々な行動の自由の禁止などの人権侵害や協同組合の職務懈怠等に基づく不法行為が認められ会社と協同組合に慰謝料の支払いが命じられています。
 この事件の発端は、組合規則違反による強制帰国が原因で、支援団体によって空港で保護されたことにあります。強制帰国の原因となった規則違反とは、「日本に住んでいる中国人との交流を、禁止します。(日本に在住の親戚・兄弟・知人)」に違反したことでした。これに対して研修生は社長を始めとした関係者に謝罪をしましたが、かって研修生としてこの会社に勤めていた中国人のリーダーが謝罪を受け入れず、強硬に帰国を主張したことから帰国させられることになりました。組合規則の禁止事項は42項目あり、これらに違反した場合は費用は自己負担で帰国させるとされていました。判例に記載されたものを挙げると、「日本人との交流を禁止します。(仕事以外)」、「会社・五光が許可した車以外に、乗車してはいけない。」、「決められた地域以外に外出するときは、外出願いを提出しなければならない。(会社・社長)」などが定められていました。こうした規定に基づいて、かって会社に勤務していた中国人と会ったと言うそれだけの理由では、雇用契約書に定める、「「やむを得ない事由」にも「技能実習生の責めに帰すべき事由」にも該当するとは認められないから、被告会社による原告の解雇は無効であるといえる。」とされ、3年の期間が満了する平成24年11月までの賃金の支払いを命じています。
 協同組合の責任については、「本件では、Aは通訳を同行させて本人と面談することをほとんどしておらず(承認Aの尋問調書)、原告に関しては直接聴取した形跡が全く窺われない。そうすると被告組合は、前記(2)及び(3)について被告会社の行為を知らなかったとしても、監査義務を懈怠していたといわざるを得ない。」とされています。
 こうした不法行為に対して、「被告らの違法行為の内容、態様、その他本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、原告の受けた精神的苦痛を慰謝するには100万円(請求は20万円)が相当であり、弁護士費用は10万円(請求は20万円)と認めるのが相当である。」とされました。

【消滅時効援用が権利濫用とされた】
 会社が未払い賃金について消滅時効を援用したことに対して、「被告会社は、本来研修生であった原告を労働者と同様に扱って、それによる利益を享受した上、残業の事実が発覚しないよう隠蔽したほか、原告に対して違法行為をしておきながら、未払賃金を請求されるや消滅時効を援用することは信義則に反すると言わざるを得ない。他方、原告は、強制帰国させられそうになってから約2か月後に本件訴訟を提起しており、長期間権利の行使を怠ったという事情も認められない。そうすると、被告会社による消滅時効の援用は、権利を濫用するものとして許されないと言うべきである。」と2年間の消滅時効を認めませんでした。