働く人の基礎知識−2

 〜 労働基準法−1 〜



 私達が社会生活をする上において、「契約を交わす」という行為は毎日何回も行っていますが契約書を交わすということはまずありません。しかし住まいを借りるときには賃貸借契約書を交わします。では就職はどうでしょうか。労働力を提供し、賃金をもらう関係ですから労働契約になります。これも契約書はないのが普通でしょう。そのため労働基準法は、使用者に、労働条件通知書の交付を義務付けています。又、たくさんの労働者に統一した労働条件を適用するため就業規則を定める義務も定めています。これらに記載する内容また最低基準は労働基準法で定められています。その要点を列記しますので自分の労働条件と見比べてみてください。
 ただ、労働の現場で発生する問題には、単純に労働基準法の条文に違反するといったものは少なく、条文を組み合わせて考えたり、関係する通達や判例そして他の法律等の知識が無いと対応できないのが現実です。また、同じような問題であって背景にあるものは違ってきますのでそのあたりを聞き出したり、組み立てたりするところに労働問題の面白さがあるともいえます。
1.基本的な原則
(1)理念

 労働基準法の大原則は、労働条件は労使が対等の立場で、労働基準法が定める以上の条件で定め、さらにその向上に努めなければならないこと、また労使ともに誠実に守らなければならないこといえます。
(2)備付書類・書類の保存期間・時効
 労働基準法は必ず備え付けなければならない書類として労働者名簿と賃金台帳を上げています。また、必要であれば各条文に定める労使協定も該当します。18歳未満の者を使用する場合には年齢証明として住民票が必要になりますし、15歳未満の場合には学校長の証明書および親権者等の同意書も必要となります。労働安全衛生法関連としては健康診断結果表も備え付ける必要があります。
 こうした書類の保存期間は5年間であり、労働基準法が定める権利の行使に関しては2年の時効が定められています。
2.労働者
(1)定義(第9条)

 労働者の定義としては、「労働者とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われるものをいう。」と規定されています。ここで「使用される」という言葉は「指揮命令下での労働」を意味しています。では派遣労働者はこの規定に該当するでしょうか。派遣元また派遣先との関係、いずれにおいても該当しないのが派遣労働者です。通常であれば、使用関係と賃金支払い関係は一体のものですが、この場合これが分離していますので、労働者とはなりえないにもかかわらず労働者派遣法によってこうした働き方が認められているため労働者となります。また、請負で働く人の場合、仕事を行うに当って、指揮命令を受けることなく、仕事を完成させる関係であるため労働者とは認められません。請負という名目に隠れて社会保険や労働保険逃れをする現実があることから、契約の名称にこだわらず、次の二つの基準を満たす場合には労働者と判断されます。@使用者の指揮命令の下に労働力を提供している。A労働力提供の対価として賃金が支払われている。
 ホームページにも問題となった事例を紹介していますのでご参照ください。
(2)正規と非正規
 労働者の雇用契約の状況で判断することになります。正規社員とは、基本的には、雇用期間の定めが無いフルタイムで働く労働者といえます。従って、契約社員、期間雇用者、短時間の労働者などは非正規社員となります。労働時間によって雇用保険や社会保険の対象となるかどうかが決まりますが、労災保険や労働基準法については正規・非正規を問わず適用されることになります。1週に1日しか働かないパートタイマーであっても年次有給休暇は採用後6ヶ月たつと1日発生することになります。また、労働契約を3回以上更改した場合には、期間満了との理由による契約更新拒否は出来ず、正規社員の解雇の場合と同様に正当な契約更改しない理由が必要となります。
3.労働条件
(1)就業規則(第89条)

 就業規則はその事業所で働く労働者の労働条件を一律に決定するものといえます。その事業所で働く労働者が常時10人以上(パート等含めて)いれば就業規則を定めて、労働基準監督署に提出する義務が使用者に課されています。当然、これに記載すべき事項についても指定されています。就業規則の怖いところは、規定してあるが規定の仕方によっては本来意図した効果を得られないケースがあることです。例えば、「懲戒解雇した場合には退職金を支給しない。」と規定した場合、自己都合で退職した後、懲戒に該当する事由が発見された場合には、この規定を根拠に退職金を支給しないとすることは認められません。この場合、「懲戒解雇に該当する自由がある場合には、退職金を支給しない。」としなければなりません。解雇する場合があるのならば、解雇する場合の規定をしっかり定めておかねばいけません。そうかといって、全てを記載することは不可能ですから、事業所間で取扱いに齟齬をきたさないように運用マニュアルなり、解釈の仕方などを作成しておく必要があるといえます。
 就業規則がすべての労働者の労働条件を一律に規定するとはいっても、個別の労働契約で勤務地の特定を行うなどの特約を付ければ就業規則で「転勤させることがある。」と規定していても転勤させることは出来ません。また、就業規則は一度つくってしまえばそれで良いのではなく、法律の改正や判例の動向によって、その都度、修正していかなければならないものといえます。
(2)労働条件通知書(第15条)
 労働契約を締結する場合、住宅を買う場合と違って契約書を交わすことまずありません。これでは、どのような労働条件で働くのか分からないため、労働者を採用する場合には、労働条件を書面にして渡すことが使用者に義務付けられています。記載する内容も定められており、厚生労働省はその雛形を「労働条件通知書」として示していますので、それを利用するのが一般的だといえます。後日、転勤しない条件だったのに転勤を命じられ、拒否したら解雇された場合など、この労働条件通知書の記載がどうなっていたかが問われることになります。これも無いならば、ハローワークの求人票があれば資料として役立つことにもなります。
(3)解雇と退職
 解雇と退職については労働基準法には明確な規定がありませんが、労働契約法が出来るまでは、解雇に関して、第18条の2として「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と規定されていましたが、そのまま労働契約法に移行しました。解雇は使用者が恣意的に出来るものではなく、合理的な理由が必要であり、そのためには就業規則に具体的な例を記載しておかなければならないといえます。合理的な理由があり、解雇する場合には、30日前までに解雇予告をする必要があります。もし、解雇予告が無く、即日止めさせられたとすれば平均賃金の30日分の解雇予告手当(第20条)の支払いが必要になります。ただ、次の場合には解雇が禁止されています。労災で休業中また治癒後30日間と産前産後の休暇中とその後の30日間。
 退職については、定年、休職期間満了や自己都合退職などがありますが、自己都合退職の場合、届を何時までに出す必要があるかということになります。就業規則に記載されているはずで、14日前、30日前辺りが普通かと思います。14日前というのは民法第627条の規定を根拠としたもので、30日というのは解雇予告の主旨が次の就職先を探すまでの期間を考慮していることを裏返した考え方といえます。参考までに民法の条文をあげておきます。

第627条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。
 期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。
 6箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、3箇月前にしなければならない。

4.労働時間
(1)法定・所定労働時間(第32条)

 労働基準法は労働者の健康を配慮し、1日の労働時間を8時間、1週間の労働時間を40時間と定めており、この時間を超えて労働させることは出来ません。この労働基準法が定めている労働時間を法定労働時間とよび、事業所が決めている労働時間を所定労働時間と呼びます。法定と所定労働時間が同じであれば問題ないのですが、所定労働時間が短い場合、残業をした時に時間外割増賃金の対象はどの時点からかといった問題があります。所定労働時間が7時間の場合、「法定労働時間を超える時間に対して割増賃金を支払う。」と就業規則が定められていれば8時間までの1時間については割増賃金抜きの残業代が支払われることになります。
(2)変形労働時間制(第32条の2〜第32条の5)
 1日また1週間の労働時間が固定されてしまうと、交代制勤務が必要な業種や曜日によって勤務時間を増減した方がいい職種にとっては不便なため一定の期間を平均して1週40時間以内(1日については8時間超えも可)に収めても良いという措置が取られています。これを変形労働時間制といい、1週間、1ヶ月、1年を単位としたものがあります。また1日の始業時間と終業時間を労働者が決めるレックスタイム制もありますが、これは1日8時間の原則が適用されます。
(3)残業・36協定(第36条)
 先に見たように1日と1週間の労働時間が定められているためこの時間を超えた労働契約を結ぶことは出来ません。もし、残業があるのならば労働契約や就業規則に残業をさせることがある旨定めておく必要があり、併せて第36条に基づいた労使協定(36協定)を締結し、これを労働基準監督署に提出しておく必要があります。これらの条件をクリヤーして初めて残業させることが出来ることになりますが、1カ月45時間、1年間の合計して360時間の残業が限度となります。
(4)割増賃金(第37条)
 割増賃金とは残業した場合にその人の時間単価に一定の割増をつけることをいい、時間外、休日そして深夜の3つの割増賃金があります。それぞれの割増率は次のとおりです。
@時間外労働・・25%、 A休日労働・・35%、 B深夜労働・・25%
 それぞれ次の点に注意しておく必要があります。
 時間外労働の場合、「(1)法定・所定労働時間」で触れたように、就業規則でこの割増を適用するのが法定労働時間を超えたときか、または所定労働時間を超えたときかといった点です。次に、休日労働の割増率を適用する休日の問題です。労働基準法では休日は1週間に1回(法定休日)と定めていますのでこの35%の割増率が適用されるのは通常は日曜日だけでよいのですが、就業規則で所定休日、すなわち会社が定めた休日(日曜日、土曜日、祭日、年末年始の休日等)に35%を適用するとしている場合もありますので、就業規則がどのように規定しているかで扱いが違うことになります。最後の深夜労働についてですが、これは夜10時から翌朝5時までの時間帯の労働に関しては無条件で25%の割増が必要となります。時間外や休日出勤手当の対象外となる管理職についても支給する必要があります。また、通常の時間外や休日出勤が深夜時間帯を含んでいる場合には、時間外労働の25%また休日労働の35%に深夜労働の25%が加算されることになります。