働く人の基礎知識−1

 〜 労働保険・社会保険 〜



   昨年秋、突然サブプライム問題が発生し、世界経済に大きな打撃を与え、就職活動を行っていた学生は、売手市場から、就職氷河期へと突き落とされました。また、派遣労働の打ち切りの嵐が吹きまくり、労働者に対するセーフティー・ネットであるべき労働保険や社会保険制度が派遣労働者に対して機能していないことが表面化しました。正規労働者に対してもそれらが機能しているかというと必ずしもそうだとはいえないのが現実です。
 今、労働者に該当するにもかかわらず、請負事業者として働かされ、解雇された方が、解雇予告手当が未払いとして労働基準監督署に申告しています。会社は保険料負担を逃れるために労働者ではなく請負事業だと詭弁を弄してきていました。解雇されてしまえば、後顧の憂い無く申告も出来るというのは寂しい限りですが、その会社で働いている多くの職員のことを考えれば泣き寝入りしないに限ります。そのためには、労働者を守っている法律を知っておかなければならないのではないでしょうか。深く知る必要はありませんが、新年度を迎えたのを機に、主要な項目を簡単にみていきたいと思います。
1.労働保険
(1)労災保険
@対象となる事故と保険給付

 労災保険は労働者が仕事中や通勤中に怪我をしたり疾病を負ったりした場合を対象にしています。当然仕事時間中の交通事故も労災保険の対象となりますし、オオム真理教が起こしたサリン事件やJR西日本の福知山線の事故なども、仕事中や通勤中の被害者は労災事故として扱われます。ただ、通勤中の事故については、通勤経路から逸脱したり、中断した場合にはケースバイケースで判断されることになります。
 保険給付については、治療、休業補償、後遺障害(年金・一時金)、死亡保障や遺族補償などがあります。
A加入対象となる労働者
 アルバイト、パートなどの呼称に係わらずその事業主に雇われた人全てが対象になります。派遣労働者の場合には、仕事をしている派遣先ではなく、自分を雇って派遣している事業主の労災保険が適用されます。
 請負契約の場合には契約先の労災保険の対象とはなりませんが、冒頭に触れたように、労働者に該当するにもかかわらず、請負契約とされている場合もみられます。この場合、自分の裁量で労働しているのか、それとも相手の指揮命令下で労働しているかどうかが判断ポイントとなります。ただ、建設業の場合は例外で、元請事業主が下請けの労働者も含めて労災保険を掛けることになりますが、下請けの事業主や役員は労働者と同様の働き方をしていたとしても労災保険の対象から除かれますので、労災保険の適用を受けようとすれば次項の特別加入する必要があります。
B事業主及び役員も加入できる特別加入制度
 労災保険には特別加入という制度があります。この制度に加入できるのは次の三つに大別されます。(@)中小事業主(事務組合を通じて加入)、 (A)一人親方等(建築業、個人タクシー、介護タクシー、個人貨物運送業者等同業者団体を通じて加入)、(B)海外派遣者(監督署に申請)などです。労災保険は、日本国内しか対象としていませんので、海外に派遣される場合には特別加入しておかなければ労災保険は適用されません。
 お医者さんにしても、最近は、在宅医療を専門にしたり、往診を毎日行われている先生、また、自宅と診療所が異なる場合の通勤などを考えると特別加入していたほうが良いのではないかといえます。医師会が事務組合を持っているので、それを利用することもできます。
(2)雇用保険
@加入対象者

 65歳以上の者や船員など適用除外と定められている者を除いて被保険者となりますが、パート等短時間労働者の場合には、1週間の労働時間が20時間以上で、6ヶ月以上の雇用が見込まれる者が対象になります。
 被保険者に該当するのに被保険者資格が取得されていない場合、また雇用保険料は賃金から控除されているのに資格取得がなされていない例もありますので、被保険者資格が取得してあるかどうかハローワークに確認をしてもらうこともできます。
A保険給付
 保険給付にはいろいろありますが、二つのものを紹介します。
(@)基本手当(失業給付)
 離職の日以前2年間に、賃金支払いの基礎になった日数が11日以上ある月が通算して12ヶ月以上ある者が失業したとき、失業の事由や被保険者期間に応じて給付されます。ただし、倒産や解雇による離職や雇い止めの場合には、離職前1年間に被保険者期間が6ヶ月あればよいとされています。
(A)教育訓練給付金
・ 厚生労働大臣が指定した講座を受講すること。
・ 被保険者期間が3年以上あること。ただし、初めての場合は、1年あればよい。
 従って2回目以降は3年に1回は受給できることになります。
・ 被保険者資格を喪失した者は受講開始日が資格喪失日から1年以内にあり、3年以上の被保険者期間があること。
・ 給付金の額は、かかった費用の20%(上限額は10万円、4千円未満不支給)。

2.社会保険
(1)適用事業所と加入要件

 健康保険と厚生年金保険は、事業所が、法人経営の場合は強制適用となり、役員を含めて加入することになりますが、5人未満の労働者を使用する個人経営であれば適用事業所とはなりませんが、労働者の半数以上の同意があれば任意適用事業所となることが出来ます。
 また、パート等短時間勤務者については、@1日又は1週間の労働時間が、一般社員の所定労働時間のおおむね4分の3以上、A1ヶ月の労働日数が一般社員の所定労働時間の4分の3以上のいずれにも該当するか否かで判断されます。これら以外の一般労働者は当然被保険者資格を取得することになります。
(2) 健康保険・国民健康保険
@保険料

 健康保険では、1ヶ月に支給される賃金を基にして1級58千円〜47級121万円までのいずれかの等級に定めます。各級は一定の範囲の賃金を定額の標準報酬月額として定め、これに保険料率を乗じて計算します。
 国民健康保険は、同一世帯に属する者を全て被保険者と見なし、前年の収入を基に保険料を計算し、世帯主に請求してきます。従って、健康保険のように被扶養者という考え方はありません。
A傷病手当金(国民健康保険はなし)
 病気や怪我で労働できず、賃金が支給されない場合に、最初の3日間を除いて、4日目から1年6ヶ月の間、標準報酬日額の60%が支給されます。
B出産手当金(国民健康保険はなし)
 産前42日(多胎妊娠の場合は98日)産後56日の間、休務し、賃金が支払われないときに、標準報酬日額の60%が支給されます。
C出産育児一時金・貸付金
 被保険者または被扶養者が出産した場合に1児について35万円(産科医療補償制度に加入する医療機関等は38万円)が支給されます。
 また、 (@)出産予定日まで1カ月以内、又は(A)妊娠4ヶ月(85日)以上で、医療機関等に一時的な支払いを要する場合には、無利子で28万円まで借りることが出来る制度や、出産育児一時金を医療機関等に受領委任し、実際にかかった費用との差額だけ医療機関等で清算するという制度もあります。
D高額療養費・貸付金
 通常、1ヶ月分の医療費の自己負担額が次の式で計算した額を超えた場合には、超えた額が高額療養費として支給されます。

63,600円 + (健保総医療費 − 318,000円) × 1%の額

 しかし、実際に給付されるのは、数ヶ月先であるため、数十万円また100万円を超える額を自分で支払うのは大変なので、高額療養費見込額の8割を無利子で借りることが出来る制度があります。
E国民健康保険・健康保険組合
 国民健康保険は、市町村の条例で定められるため、AとBについては採用している例はないはずです。CとDについては健康保険と同じ扱いと思いますが、健康保険組合の場合これらの制度を導入していないこともあります。
(3) 厚生年金・国民年金
@被保険者

 厚生年金については(1)で見たとおりで20歳未満の者も被保険者となります。
 国民年金、要するに厚生年金の適用事業所以外の事業所に勤務している人、自営、無職、20歳以上の学生等で60歳未満の者が対象になります。
A保険料・保険料免除
 厚生年金の保険料は健康保険と同じに扱われますが、等級は、1級98千円〜30級62万円と区分が違っています。
 国民年金保険料は、現在1ヶ月 14,410円ですが、400円の付加保険料を負担することも出来ます。付加年金として支払われるときには1カ月200円となりますので、2年で元が取れることになりますので是非支払ってください。
 また、収入が少ない人や学生(留学生含む)については、保険料免除の制度がありますので該当する人は手続きをする必要があります。
B老齢基礎年金・老齢厚生年金
 受給開始は65歳からですが、国民年金の加入期間が25年必要になります。
外国人の場合、25年の期間を満たせば帰国後も年金が支給されますが、期間を満たさず帰国するときに手続きをすると加入期間に応じて脱退一時金が支払われます。 C障害基礎年金・障害厚生年金
 被保険者期間中に障害を負った傷病の初診日があることが必要となります。ただし、国民年金の場合には、20歳前の初診日も対象になります。
 老齢年金については老後の生活資金をしっかりためていけば無くても問題ないかもしれませんが、今、障害を負ったらどうでしょうか。年金の重要性は、老後のためというよりも、障害を負う可能性の面から考えていく必要があるといえます。
 しかし、「加入期間中に障害を負ったとき」とは言っても次のような条件を理解しておく必要があります。
  (@) 初診日の前日に、初診日の前々月までの1年間に保険料未納期間が無いこと。
  (A)  初めて医師の診療を受けたときから、 1年6ヵ月経過したとき(その間に治った場合は治ったとき)に障害の状態にあるか、または65歳に達するまでの間に障害の状態となったとき。
 保険料未納期間とありますが、これは保険料免除(学生の場合だけでなく収入が少ない場合も申請可)の手続きをしていれば問題ありません。
 また、障害年金は怪我だけではなく、肝臓や腎臓等の病気やうつ病などであっても障害等級に該当すれば受給できます。