創立30周年記念パ−ティ−参加料の強制徴収をめぐって
 

   私の勤務する事業所が創立30周年を迎えるにあたりパーティーを開くのですが、困った事に、その会費を参加の可否に関わらず強制徴収すると言ってきました。また、支払わなかった場合には罰則もあると聞きます。
 業務遂行使用者の思いつきで、ぽんぽん徴収できるとはとても思えないのですが、実はできるのでしょうか。こうしたことは、労働基準法に抵触しないのでしょうか? 
 ヒントでも頂けるととても嬉しいです。
 (元アレオのメンバ−からの質問)

   勤務先の行う行事への参加の問題に答えるのはなかなか難しい面があります。法律に即して考えれば難しい問題はないといえますが、その行事の趣旨を汲み取って考えると必ずしも法律論で割り切って考えること自体が誤りではないかと考えざるを得ません。
 当然、雇用契約を結んで労働者となればその雇用契約の内容また事業所の就業規則に拘束されることになります。本来法律は、社会生活を円滑に送ることが出来るように定められたものでありながら、事細かにあらゆる事項を定めることは不可能ですし、時代の変化とともに法律に記載すべき事項も変わっていきます。しかし、法律に定めるまでもない事項も当然あります。エチケットとか社会生活上のマナ−といわれるもの等については法律で定める以前の常識的な範囲に属する事項でしょう。常識的な事項として済ませたのでは問題が生じる事項が法律として定められていくことになるといえます。町内会の持ち回りの役員への就任などはこうした事項といえます。「町内会に加入する気もないから当然役員もしない。」と突っぱねることはどうでしょうか。波風を立てないためその人を役員につけることはせず、また町内会も除名することもせず不愉快さは感じながらも穏便に済ますことになるのではないでしょうか。ここに挙げた質問もこうしたものと大差ないものと考えると非難されるのは承知の上で敢えて法律論としてよりも心情論的な社会常識に通じるものとして考えてみたいと思います。
 私たちが就職するということは、職場という共同体に属し、そこの規律に従うことになります。職場の共同体は、地域社会やボランティア組織などと違い利潤を追求する組織として存在していますので、当然要求される事項も厳しいものとなってきます。雇用契約に基づいた共同体ですから労働基準法に縛られるのは当然のこととして、同時に共同体としては当たり前の慣習法的な決まりごとも出てくることになります。こうした上に立って初めて共同体は円滑に運営されていくことになるのではないでしょうか。当然経営者側からまた職員側からの一方的な押し付けが強くなりすぎれば法律的な解決を図らざるを得ないでしょうが、問題が発生すれば全て法律論で処理するとなれば共同体に隙間風が常に吹き込んでくることになり問題ありと判断せざるを得ないのではないでしょうか。
 30周年の記念行事は事業所挙げて職員全員が参加するパ−ティ−でお祝いしたいと事業主さんが考えるのも当然かもしれません。その費用については、全額事業主さんが負担するという場合もあるでしょうし、今回のように全員から参加費を徴収することもあるでしょう。事業所が30年も続いてきたこと自体事業主さん一人の力でもありませんし、従業員を含めその事業所に係わった関係者の協力があって初めて達成されることだといえます。事業所のため、自分の生活のため頑張ってきた結果ですから、労使共にお祝いするのが当然かもしれません。しかし、会費は出欠の有無を問わず、職員全員から徴収するということはどう考えればいいでしょうか。記念行事ですから全員の参加が望ましいのは当然でしょう。しかし、この事業所の創業時からいた職員を除いた勤続年数が短い職員や中途採用の職員にはこれをお祝いする意識に違いが有るのは当然ではないかと思います。では、自由参加としてしまえば、全員で祝うべきでありながらも一部の人だけで祝う会となってしまい本来の趣旨からはずれてこざるを得ません。従って、主催する側から見れば、全員参加を目指すためにも「欠席者からも会費を徴収する。」、また「支払わなかった場合には罰則もある。」ということに繋がっていくことになろうかと思います。良し悪しは別として、心情的にはこうした記念行事を行うのであれば罰則云々の話はちょっと問題があるとしてもやむを得ない面もあるかとは思います。
 しかし、こうした心情的にやむを得ないとの考え方に対して、労働の現場の法律である労働基準法からみるとどうなるかといった問題もあります。「労働契約を締結し、労務の提供の反対給付として賃金を得る」との観点からだけ見れば、こうした心情的な問題は一切入り込む余地は無いことになります。雇用契約で定めた所定労働時間を超えて働けば割増賃金の問題が発生してきます。この行事を所定労働時間内に行うのであれば参加料の問題を除けばなんら問題はないといえますが、所定労働時間外また休日に行うとなればいろいろ考慮する問題が発生してきます。雇用契約に基づいて労働をするとは、使用者の指揮命令下に労働を行うことですから、この行事への参加が義務付けられる、すなわち業務命令として参加が義務付けられるのであれば当然割増賃金の対象となる業務ということになってしまいますので、記念行事の本来の趣旨から外れてくることになるでしょうが、もし支払われるとすれば割増賃金をご祝儀と考えれば納得も出来ます。この質問の中にある、業務の都合で欠席した場合であっても会費を「支払わなかった場合には罰則」が考えられているとの背景には、「参加は義務である。」と明確に参加を強制すれば30周年記念行事への参加は業務命令となってしまい割増賃金支払い義務が発生してしまうので、「欠席でも会費徴収はする。」と間接的に出席を強制するための措置と考えることが出来ます。しかし、こうした行為は暗黙のうちに業務命令を発していると考えることができるので労働基準法違反といわざるを得ません。
 次に、会費の徴収の問題ですが、これは労働基準法とは関係なく民法または刑法の問題になるのではないでしょうか。会費とは本来実費負担的な意味合いが強いといえますので、参加しないものに対して会費徴収を強制することには問題があるといえます。「会へ参加する。」その費用の支弁のために「会費を支払う。」という法律行為としてとらえれば、不参加、すなわち支払い義務の無い者に対してまで、会費徴収するということは、民法弟90条の「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は無効とする」に該当すると考えていいのではないでしょうか。さらに、罰則まで設けて会費の支払いを強制するとなれば、刑法の第223条に定める「生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処する。」という強要罪に該当するのではないでしょうか。
 今回の質問は、この程度のことでは脅迫には該当しないとも考えられるかもしれませんが、労働者と雇用者との関係で考えれば解雇等も無視し得ない側面もあるので脅迫の考えを取り入れることも出来るのではないかと考えられますので、法律的に考えれば、労働基準法、民法そして刑法に抵触するのではないかといえます。こうしたお祝い行事に関してここまで厳格に考えていく必要があるのでしょうか。法律を定める場合、心情論にばかり目を向けてしまえば法律をつくることは出来なくなってしまうでしょうが、その運用面においては状況に応じて心情論も考慮すべきだと考えたほうが良いと考えます。記念行事ということになれば社会通念上また「公の秩序又は善良の風俗」の面から見ても厳格に法律論で対抗すべきものではないと思います。ただし、この裏方として働く事務部門の職員については、労働基準法の適用はしていくべきであり、割増賃金の支払いは必要だと考えます。