フィリピン技能実習生の賃金をめぐる問題など

平成20年に34人の外国人研修生・技能実習生死亡したとの報道がありました。年度は違いますが入国者数との関係でみると次のようになります。

 
入国者数
2006年
死亡者数
2008年
 
入国者数
2006年
死亡者数
2008年
中国
61,963
22
フィリッピン
4,941
2
ベトナム
5,744
4
タイ
3,776
1
インドネシア
5,695
4
   


 死亡原因のトップは心臓・脳疾患が16件、労災事故が6件、交通事故5件となっています。約半分は心臓・脳疾患であり、同年代の日本人と比較すればほぼ倍の発生率とのことです。
 中国人は多額の借金をして来日していることもあり、残業時間が100時間200時間は当たり前で、時給300円程度の劣悪な労働条件であっても帰るに帰れない現状があるといわれています。このような残業の情況は、厚生労働省が脳・心臓疾患と残業時間との関係についての通達で過去1カ月100時間以上の残業をしている場合また過去2ヶ月間ないし6ヶ月間の残業時間の平均が80時間を超えている場合には業務との関連性が強いと指摘しているように業務上の災害として認定される可能性が高いと考えられます。日本人であれば遺族が労災申請すると同時に健康配慮義務違反で会社に対して損害賠償請求するのが実情といえます。
 その点、フィリピン人はまだ恵まれているといえるのかもしれません。とはいっても中国人に比べてであり、日本人に比べればひどい扱いを受けていることには違いがありません。フィリピン人の90数%がカトリック信者であるため各地のカトリック教会のミサに集まってくるためさまざまな問題を耳にすることができます。そうした技能実習生の事例を紹介します。
 下の表は、7月末に帰国した技能実習生の平成21年1月分の賃金支給明細書です。
支 給
出勤時間
本  給
時間外
時間外手当
支 給 額
雇用保険料率
119.25
81,448
8.0
6,824
88,272
8.0
控 除
健康保険
厚生年金
雇用保険
所得税
控 除 額
差引支給額
6,970
13,047
706
0
20,723
67,549

 フィリピンから研修生・技能実習生として来日するに当っては労働基準法に基づいた労働条件で労働契約を結んでいます。1年の研修期間中は労働者ではなく研修生として研修手当を支給されます。1年経って技能実習生に移行し労働者となればこの労働契約が適用されるべきですが、この契約書は入局管理局提出用として無視されてしまいます。このこと自体重大な違反行為といえます。この労働契約での賃金は月額131,000円で、ほぼ現行の最低賃金683円×8時間×24日に相当する額となりますので週休2日の1週40時間労働を想定したものといえます。しかし実際は、1日8時間、月曜から土曜までの6日勤務の週48時間労働が正規の労働時間と説明され8時間はただ働きというのが現実だったようです。通常勤務しているうちは131千円支払われ問題が無かったのですが、休業が発生するようになると月給制から上記のように出勤時間×最低賃金683円=81,448円と時間給に変更されたと考えられます。月給制か時間給制かは問題ないとしても週6日の労働契約?ですから10日程度休業が発生していると考えられます。この点について派遣会社(第1次受入機関)に問い合わせたら休業手当が支給されると説明を受けたので会社に申し出たところ「パスポートを市役所に出していないから休業手当は出ない。」と訳の分からない説明を受けたそうです。ちなみに同僚の日本人は休業手当を支給されています。
 次に時間外労働の問題があります。研修生時代から毎日3〜4時間の残業があったがほとんど支払われていなかったそうです。1月は8時間の残業が付けられていますが、どのような計算か全く不明です。技能実習生としての2年間の土曜日の労働は月給制として無視されているとすれば(52日×8時間×683円×1.25)×2年=710,320円の未払いが発生していることになります。さらに3〜4時間の残業代の全てが支払われていないとすれば非常に大きな残業代未払いが存在することとなります。
 こうした情況から労働基準監督署に申告する予定でしたが該当者の内一人が反対したため申告はできず、技能実習生たちが帰国した後、JITCOと労働基準監督署にいってきました。JITCOではこの会社は非常に悪いと把握はしていましたが、派遣会社が管轄外であり担当者とも面識が無い、こうした問題は派遣会社にしてもらいたいと全く相手にもされませんでした。ただ、労働基準監督署に申告すると入国管理局にも文書報告が行くので効果はあるとの話を聞き、その足で労働基準監督署にいきました。監督署では本人がいないため申告とは認めてもらえませんでしたが、関心を持たれ、資料と賃金支給明細書のコピーを要求され、まだ別の技能実習生が残っているため何れは指導に入るとの回答をもらい今後の結果に期待しています。
 以上は賃金支給項目については労働基準法に関わる問題で対処し易いのですが、控除項目については単純なミスなのか意図的か否か分かりませんが疑問があっても対処のしようがありません。
 一つは雇用保険料率の問題です。賃金明細に「0.8」と記載されています。これは「0.6」の誤りです。4月以降は法改正に基づいて「0.4」となっていますので、単純なミスだと思いますが、日本人従業員も含めて何時から誤っていたのか遡ればかなりな額になるはずです。
 次に社会保険料が正しいのかという疑問です。この保険料に対応する標準報酬月額は17万円となります。古い賃金明細書が無いので検証できませんがこの会社の実態を考えれば疑問を持ってしまいます。というのは、賃金明細書に住民税の項目がありません。3年日本にいましたので当然住民税は2年目から会社に納付書が来ているはずですから控除されて当然ということになります。ここのカラクリは帰国する際に2年分徴収されたというところにあります。この技能実習生たちは労働基準法で禁止されている強制貯金をさせられており、帰国の前日これを返されると同時に2年分の住民税を控除されています。三原市で同様の問題があり、技能実習生が市役所に文句を言いに行ったら「支払わないでよい。」と説明されたとのこともあり、広島役所に電話してみると「外国人の場合、帰国先まで請求しない。」とのことでした。会社が住民税を徴収しても市町村に支払わなければそれで問題なく終わってしまうことになります。
 あと一つ問題がありました。これは全ての研修生・技能実習生に共通する問題のようです。家賃と水道光熱費の問題です。ここでは一部屋に2人〜3人で居住させられ一人につき家賃2万円と水道光熱費1万円の計3万円を徴収されていました。冬は電気代が高くなるからと暖房は禁止です。黒瀬町での話です。さらに一人当たり4万5千円を徴収されてる例もありました。せっかく出稼ぎに来ても持って帰るお金が無いのが現実です。
 研修生・技能実習生の受け入れは50名以内の規模の会社であれば研修生を3名受け入れることが出来ます。1年経つと技能実習生に移行するので新たに3名の受け入れが可能となります。これを繰り返えせば常時3名の研修生と6名の技能実習生がいることになりますので、会社としては低賃金で大きな戦力を確保できるため麻薬と同じで一度受け入れると止められないのかもしれません。発展途上国に対して技術・技能の移転を目指す制度自体はいいものですが、現実には低賃金の単純労働者を導入するだけの実態しかなく、使用者が本来の制度の運用を無視し、悪用を防ぐ機能も働かず、研修生・技能実習生の生活を守れない制度であるならば廃止すべきではないでしょうか。
 最近法改正があり、来年から、研修期間が3ヶ月の集合教育になり、その後労働者に移行すると入国管理局で聞きました。彼らの問題は入国管理局と労基署に同時に提起するのがいいのかもしれません。