時間外手当が付かない管理職とは?

 「マクドナルド店長残業代認める−東京地裁判決755万円支払い命令」、「支店代理は非管理職−播州信金は残業代払え−地裁姫路支部判決」との見出しの新聞記事が1月から2月にかけて見かけました。ここで問題になっているのは労働基準法第41条の規定を根拠として管理職には残業代を支払う必要はないといった一般常識がこの二人の管理職に対しては否定されたということですが、この条文には管理職という言葉は使われておらず「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)との言葉が使われています。よく考えてみると管理職とはそれぞれの会社が職制上また賃金待遇上決めている社内での一定の資格にしか過ぎず、全ての管理職が、必ずしも経営者と一体的な立場にあるものとはいえません。例えば、課長や係長クラスであれば管理職としての資格を持つ者と一般職としての資格の者とが混在している会社もあるのではないでしょうか。当然、職務上の責任や権限は変わらないはずです。こうした会社内の地位とか資格それに伴う権限と責任はそれぞれ独自に決めればいい問題ですが、労働基準法第41条に定める管理監督者とは、それぞれの会社が決める管理職とは異なり、かなりハードルの高い一定の要件を満たした者のみを対象として労働時間、休憩また休日の規制が外されことになります。
 では労働基準法が定めている管理監督者とは誰のことかというと、通達(昭63.3.14基発150号) (注1) を見る必要があります。現実の問題として提起された事件の判例をを通して管理監督者の問題を見ていくと、まず管理監督者とは次の二つの条件を満たす必要があります。
(1)

 「企業経営上重要な職務と責任を有し、現実の勤務形態もその規制になじまないような立場にある者を言い、その判断に当たっては、経営方針の決定に参画したり労務管理上の指揮権限を有する等、経営者と一体的な立場にあり、出退勤について厳格な規制を受けずに自己の勤務時間について自由裁量を有する地位にあるか否か等を具体的な勤務実態に即して検討すべきものである。」(リゾートトラスト事件大阪地裁平17.3.25)

(2)

 「賃金等の待遇及びその勤務態様において、他の一般労働者に比べて優遇措置が講じられている限り、厳格な労働時間等の規制をしなくてもその保護に欠けるところがないという趣旨に出たものと解される。」(神代学園ミューズ音楽学院事件東京高裁平17.3.30)

さらに経営者と一体的立場との事に関して、
(1)

 「原告Gは、ミューズ音楽院の教務部の従業員の採用の際の面接等の人選や講師の雇用の際の人選に関与し、教務部の従業員の人事考課及び講師の人事評価を行って被告Mに対し報告していたこと、原告Hは、事業部の従業員の採用の際に面接等を行い、その人選に関与し、また、経理支出についても関与していたこと等の事実を認めることが出来る。」

(2)

 「しかし、・・原告G及び同Hが、経営者である被告Mと一体的な立場において、労働時間、休憩及び休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されてもやむを得ないものといえるほどの重要な職務上の権限を被告Mから実質的に付与されていたものと認めることは困難である。」

(3)

 「結局、原告G及び同Hは、それぞれ事業部長および総務部長として、その業務遂行に対する職務上の責任を被告Mから問われることはあっても、その職責に見合う裁量を有していたものと認めるに足りる的確な証拠があるものとはいえない。」 (神代学園ミューズ音楽学院事件)

 また、出退勤については、
(1)

 「タイムカードによる厳格な勤務時間管理を受けていなかったが、出勤簿と朝礼時の確認により、一応の勤怠管理を受けていたから、自己の勤務時間について自由裁量があったとも認められない。」(リゾートトラスト事件)

(2)

 「出退勤時刻の厳密な管理はなされていたようには思われないものの、出勤日には社員全員が集まりミーティングでお互いの出勤と当日の予定を確認仕合っている実態からすると原告には実際の勤務面における時間の自由の幅は余りないか相当狭いものであることが見受けられること」(RE&HR事件東京地裁平18.11.10)

 とされているように勤務状況については少しでも勤怠管理がなされている状況があれば管理監督者とは認められないと考えてもいいようです。
 リゾートトラスト事件の場合には、「就業規則上、係責給は「時間外勤務手当相当分として支給されるものと明記されており、このことは係責の役責にある者も本来は時間外勤務手当の支給対象となるべき者であるとの被告の認識を窺わせるものといえる。」ともあり就業規則の規定の仕方も判断材料としています。
 ファミリーレストランでは、店長手当が支給されていても出退勤の自由がなく、仕事の内容もコック、ウエイター、レジ係、掃除等全般に及んでいることから経営者と一体の立場とは言えないと判断されたものがあります(ファミリーレストラン「ビッュフェ」割増賃金事件大阪地昭61.7.30)。
 上記のように、判例は63年の通達と同じスタンスで管理監督者をかなり厳格に規定しています。通達の時期は前後しますが、金融機関の管理監督者の取扱についての通達(都市銀行等:昭52.2.28基発104号の二、都市銀行以外:同基発105号)を見ると労働基準監督署の現実の取扱いはもう少し幅を持たせているように思います。こちらの通達では、都市銀行等の管理監督者に該当する最下層の役職として「本部の課又はこれに準ずる組織の長」及びこれと同格以上の「大規模支店又は事務所の部、課等の組織の長」とこれらと同格以上の「スタッフ職」まで含め、都市銀行等以外でも、大体同様の説明に加えて、「副課長、課長補佐、課長代理等の職位は除外されるものであること。」としています。現実にここに挙げられた課長職が労働時間の自由裁量権が与えられているとは考えられないと思います。
 一般企業においてはライン職以外の管理職には課長代理の呼称を与え、資格規程や賃金規程でも一般職とは明確に区別し、地位また経済的に優遇しています。ただ労働時間については就業規則どおりで裁量権は認められてはいないはずです。労働基準行政において金融機関の課長職を管理監督者と認めていることは労働時間の自由裁量権を必ずしも厳格に適用せず、また副課長、課長補佐等を管理監督者と認めていないのは顧客に対する職員の営業上の地位を持たせるため名目的な役職を増やす傾向への歯止めとの意味合いもあるのではないかと思われます。いわゆる管理職を管理監督者として扱うのであれば、少なくとも管理職と一般職を明確に区別する資格規程及び賃金規程を整備し、一般職との待遇の差を明らかにしておく必要があります。それが同判断されるかは監督署の判断でしょうが、神代学園ミューズ音楽学院事件の二人の部長さんのように、「それぞれ事業部長および総務部長として、その業務遂行に対する職務上の責任を被告Mから問われることはあっても、その職責に見合う裁量を有していたものと認めるに足りる的確な証拠があるものとはいえない。」と言われると、沈黙せざるをえないかもしれませんね。ただ、判例に現れる会社は、多店舗展開する会社を除けば、小規模な会社が多いので大企業にそのまま当てはめることは出来ないかもしれません。奥歯に物の挟まったような話にしかなりませんでした。
 「肩書だけの管理職−マクドナルド化する労働」(安田浩一著旬報社)が、マクドナルド、すかいらーく、セブン-イレブン、コナカそしてCFJでの実態を報告しており、これを読むと管理監督者の問題が騒がれる実態が分かると思います。この著者は、次のように管理監督者を分かりやすく定義しています。

(1)

 「職務内容や職務遂行上、経営者と一体的な地位にあるほどの権限を有し、これにともなう責任を負担している。」

(2)

 「本人の裁量で、勤務時間を自由に調整できる権利を有している。出退勤が自由である。」

(3)

 「その地位にふさわしい処遇を受けている。つまり、一般の社員と比較して、その責任にふさわしい待遇を受けている。」



(注1) 通達(昭63.3.14基発150号)

 「企業が人事管理上あるいは営業政策上の必要等から任命する職制上の役付者」のすべてが管理監督者となるものではなく、「労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない、重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にある者」に限るとし、次の二点に留意して判断するように求めています。スタッフ職についても同様の取扱がされておれば「一定の範囲の者」との限定しながらも管理監督者に含めてもよいとされています。

(1)

 「資格(経験、能力等に基づく格付)及び職位の名称にとらわれることなく、職務内容、責任と権限、勤務態様に着目する必要があること。」

(2)

 「定期給与である基本給、役付き手当等において、その地位にふさわしい待遇がなされているか否か、ボーナス等の一時金の支給率、その算定基礎賃金等についても役付者以外の一般労働者に比し優遇処置が講じられているか否か等について留意する必要があること。なお、一般労働者に比べ優遇措置が講じられているからといって、実態のない役付者が管理監督者に含まれるものではないこと。」