カキ打ち日系人の労働環境


 前号ではカキ打の雇用保険について報告しました。機関誌を発行して間もなく、カキ打ち場で働いている日系フィリピン人から、突然解雇され、早くアパートを出て行くように言われているとの相談がありました。カキ打ち場の労働状況の一つの例として報告します。

 江田島市のカキ養殖で昨年の3月14日に中国人技能実習生の殺傷事件が発生して以降、技能実習生については江田島市の官民ともにいろいろなイベントを開催しています。そうした新聞報告を見ていると江田島市には580名の外国人がおり、その内半数が技能実習生と報告されています。これらの技能実習生に対しては、殺傷事件の原因として「孤立していた。相談相手がいない。」などが挙げられていることから官民挙げて技能実習生との交流の企画を行なっています。しかし外国人の残りの半数はどのような外国人か、またそれらの人に対する取り組みについては考慮されている様子はありません。確かに3年で帰国する技能実習生とは違い定住している人達であるためこうした交流も考える必要が無いと言うことかもしれません。正確なものではありませんが、残りの半数の大半が日系フィリピン人で、カキ養殖業に従事している人たちであり、雇用保険にとどまらずさまざまな問題を抱えているといえます。カキ養殖で働く日系フィリピン人の労働環境は一般的に次のような状況といえます。

  (1)派遣会社からの派遣で働いているか、直接雇用されているがその割合は不明。
  (2)社会保険と労働保険への加入はされていない。
  (3)アパートと水道光熱費は無償の場合が多い。
  (4)7月〜9月は仕事が無く、収入が途絶えるためフィリピンに帰国する。
  (5)賃金は出来高給か時間給。
  (6)数時間の残業がある。
  (7)源泉徴収されている場合とそうでない場合とがあり、中には確定申告用紙に印字したものを渡している事業所もある。

 今回相談のあった人については(1)は直接雇用、(5)は時間給800円、(7)は源泉徴収されていないようです。いくつかの問題を見ていきます。

【労働時間】

(1)労働日は月曜日から土曜日で日曜は休日
(2)1日の労働時間は13時間(4時〜17時30分)で休憩は30分
(3)賃金は800円の時間給
(4)賃金明細書は交付されず右の封筒のように裏の綴じ代部分に金額が記載されただけで源泉徴収されているか不明です
給料袋
 社会保険への未加入や源泉徴収の問題もありますが、労働時間が大きな問題といえます。
  13時間労働で1カ月の労働時間は次の通りです。
   13時間×26.5日=344.5時間
1日8時間週40時間の通常労働時間は、
   22日×8時間=176時間
であり、168.5時間の残業時間となります。労災保険の過労死基準は1カ月100時間以上の残業とされていることからすればはるかにその基準を超えており、これが常態であれば労働安全衛生法上大きな問題があり、事故が発生すれば健康管理義務違反として大きな責任を問われることになるといえます。
 給料袋の裏に記載されている金額を時間単価で除してみると
   276,416円÷800円=345.5時間
となります。13時間労働で計算した場合と1時間程度の違いですが、タイムカードとの関係での誤差とすれば源泉徴収はされていないと考えられますが、所得税法で定められた計算書が無いので何とも言えません。

【解雇予告手当】
 即解雇されているため平均賃金の30日分の解雇予告手当が請求できます。

【雇用保険の資格確認】
 季節的労働者として短期雇用特例被保険者に該当することになります。加入期間が6か月以上あれば特例一時金として30日分をハローワークから受けることが出来ます。加入手続きが取られていなければハローワークに資格確認請求をすれば受給可能となります。短期雇用特例被保険者についての詳細は前号を参照ください。

【深夜割増】
 労働基準法は夜10時から翌朝5時までの労働は深夜労働として25%の割増賃金を支払わなければならないと定めています。次項でみる労基法の適用除外に該当していてもこの時間帯に働けば割増賃金の支払いは必要となります。毎朝1時間の深夜労働があったので
1カ月800円×0.25×26.5日=5,300円の未払賃金があることになります。

【労基法の適用除外の問題】
 労働基準法第41条はカキ養殖業を労働時間、休憩及び休日に関する規定を適用しないとしています。従がって、1日8時間また週40時間を超えてまた休日に労働させても何ら問題はないし、36協定の締結も必要ないことになります。労働契約を結ぶ以上所定労働時間と休日の定めが必要となりますが、今回の例のように、「日曜日の休みと1日の労働時間が13時間」の契約でも問題はないことになります。天候等の自然条件また季節的繁閑の差などを考慮した適用除外は漁船に乗り組んで漁に出る仕事を想定しているのではないでしょうか。労基法の1日8時間1週40時間に基づいて過労死基準も設定されていることから、カキ打ちのような屋内における単純作業にまで適用させること自体見直しが必要ではないでしょうか。