カキ打ち等季節的業務従事者と労働保険


 広島は牡蠣養殖が盛んでシーズンになると朝早くから打ち子さんがカキを取り出す作業などがニースとして取り上げられます。大変な仕事と多少は思いながらもおいしいものが食べられる季節になった方に関心は傾いてしまいます。また一方では。労働法が守られているのかと心配してしまいます。カキ打ちで働くフィリピン人の知り合いからは思い出したように情報が入ってきます。例えば、心臓の手術をする人が出た、癌の末期であることが分かった人がいる、今日心臓病で突然亡くなった、会社から昼食で帰宅する途中転んで骨折した、解雇された等・・。
 カキ打ちを始めとした農林水産の事業で働く人について労働法は一般の労働者と違った取扱いをしている部分があります。特に、雇用保険ではカキ打ち等の季節的業務従事者は一般の被保険者と違った扱いがされています。こうした事柄は普段問題となることもないため私自身社労士の試験勉強での知識しかないのが現状なのでカキ打ち等農林水産業の労働保険(労災保険と雇用保険)の適用について復習してみました。

【暫定任意適用事業】
 労災保険と雇用保険は,民間の事業所であれば、一人でも労働者を雇用すれば加入が義務づけられています。しかしどういう理由かよく分かりませんが、農林水産業では個人経営で、労働者を常時5人以上(注1)雇用しない事業では加入義務が免除されています。ただし労働者の過半数が加入を希望した場合には事業主に加入義務が発生します。これを暫定任意適用事業と呼んでいます。牧畜業や養蜂業は農業に含まれますし、カキ等の養殖は当然水産業に含まれます。個人経営でなく、法人経営であれば雇用労働者の数に関係なく当然労災保険と雇用保険は適用されます。
(注1) 業務取扱要領の「20105(5)「常時5 人以上」の意義」をみると、「イ 「常時5 人以上」とは、一の事業において雇用する労働者の数が年間を通じて5 人以上であることをいう。/したがって、ごく短期間のみ行われる事業、あるいは一定の季節にのみ行われる事業(いわゆる季節的事業)は、通常「常時5 人以上」には該当しない。」とあります。「季節的事業は、通常「常時5 人以上」には該当しない。」とわざわざ挿入されているのは、個人経営のカキ打ち等の季節的事業は労働者の過半数以上の希望が無い限り雇用保険の適用はしないと言うことでしょうか?家計補助的なパート労働が中心であった時代ならそれでいいかもしれませんが、外国人が中心となった現在は問題があるといえます。

【暫定任意適用事業と労災保険との関係】
 暫定任意適用事業に該当すれば労災保険と雇用保険に加入する必要はありませんが、もし仕事中又通勤途中で労働者が事故で負傷また死亡したらどうなるかといった問題があります。仕事中の事故については労働基準法で事業主に補償義務が定められているため労災保険に加入していなければ事業主が労災保険法に準じて補償するか、事後的に加入手続きを行いペナルティーを支払うことになります。ただ通勤途中の事故等は労災保険法が独自に定めている補償であり、労働基準法には何らの定めもないため事業主に補償義務は発生しないことになります。農林水産業で暫定任意適用事業に該当する事業所であっても労災保険には加入しておく必要があると考えます。また労災保険は事業主や役員の加入は原則としてできませんが中小企業については労働保険事務組合を通じて手続をすれば事業主と役員も労災保険に加入することが出来ます。

【暫定任意適用事業と技能実習生】
 技能実習生が暫定任意適用事業で研修をする場合、技能実習生を含めて労働者が4名以下であれば適用除外となりますが、「入管関係法令では、技能実習生を受け入れる場合は暫定任意適用事業であっても労災保険への加入又はそれに類する保険への加入を義務付けております。」、また雇用保険については「農林水産事業の一部は暫定任意適用事業とされ、その事業に使用される労働者の2分の1以上の同意を得て事業主が任意加入の申請をし、認可を受けたときに適用事業になります。」とJITCOの「外国人技能実習生と労働社会保険Q&A改訂第7版」に記載されています。研修という実態が消滅すれば技能実習の在留資格も消滅し、帰国せざるを得ないため失業給付を受けることがありえないため法律通りの扱いとなっています。ちなみに労働基準法で農林水産の事業は労働時間や休日の扱いが適用除外となっていますが、明文規定はないもののカキ打ちの技能実習生については契約書で適用除外を適用しない扱いとされています。

【カキ打ちから見た季節的業務従事者の雇用保険】
 暫定任意適用事業でみたように、カキ打ちに従事する人たちが5人未満の労働者を雇用する個人経営のカキ養殖業者に雇用されていれば暫定任意適用事業に該当するため雇用保険の適用は原則無いということになりますし、常時5人以上労働者がいるか、過半数の労働者が加入を希望すれば事業主は雇用保険への加入義務が発生することになります。しかし一般被保険者と同様の条件かと言うとそうではありません。雇用保険法第6条は適用除外される労働者を定めています。その中に、「四 季節的に雇用される者であって、第38条第1項各号のいずれかに該当するもの。」という条文があります。季節的業務に従事していても一定の条件を満たさなければ適用しないとしています。そうした条件を満たさない労働者とは次のいづれかに該当する労働者となります。
  @四カ月以内の期間を定めて雇用される者
  A一週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満の者
 雇用保険の「業務取扱要領」の「20452(2)「季節的に雇用される者」の意義」をみると、季節的業務に従事する労働者は、「季節的業務に期間を定めて雇用される者又は季節的に入離職する者をいう。この場合において、季節的業務とは、その業務が季節、天候その他自然現象の影響によって一定の時季に偏して行われるものをいう。」とされており、雇用期間は1年未満が条件とされています。この中から、先の@とAの何れかに該当する労働者は除かれることになります。一般の労働者は31日以上雇用され者で週20時間以上の所定労働時間があれば雇用保険の被保険者となることから見るとかなり条件が悪いといえます。20時間以上30時間未満の短時間労働者は被保険者としないということは、従来カキ打ちで働くのは近場の主婦のパート労働が主流だったからでしょうか。しかし外国人労働者(技能実習生とその他の外国人労働者)が中心となってきている現状からすれば問題があるといえます。私の知っているカキ打ちの外国人は9カ月間の雇用で夏場の7月〜9月の3か月は仕事が無いので帰国することを繰り返しています。雇用形態としては、直接雇用か、派遣の形態のようです。法人経営であっても雇用保険、社会保険の適用は受けていませんし、国民年金、国民健康保険や住民税の滞納も珍しくはありません。

【短期雇用特例被保険者】
 これまで見てきた季節的に雇用される者が雇用保険の被保険者に該当すると短期雇用特例被保険者と呼ばれます。雇用期間が満了すると失業手当を受給することになります。この失業手当は特例一時金と呼ばれています。これは給付日額の30日分の一時金です。条件としては。6か月以上の被保険者期間があることと求職の申し込みをする必要があります。フィリピン人はカキ打ちのない3か月は帰国します。この一時金がもらえれば往復の旅費ぐらいにはなるはずです。