海員組合への技能実習生の強制加入(水産業)

 技能実習生制度に対して厳しい批判がなされています。私自身もこの問題に係っていてそのように思いはしますが、日系フィリピン人との比較でみるとまだ制度で守られている分良いのかとの思いもありますし、実際、どの程度の割合の受入機関が悪いのか疑問にもなります。協同組合についてはかなりな組合が悪い、それもたちが悪いとの印象を持っています。しかし一方では労働法を守らない会社から技能実習生を引き上げて他の会社に移籍させているしっかりした組合も存在しています。技能実習制度の問題は、制度に問題があると言うよりは、この制度の恩恵を受けているにもかかわらず、この制度の趣旨を理解しようとせず、労働法を守る意識の無い一部の受入機関の問題だといえます。いくら罰則を強化したところで問題がなくなる訳ではなく、こうした順法精神に欠けた受入機関を排除すること以外に解決策はないといえます。例えば、従業員50人未満の企業や問題の多い縫製業や農業を始めとした第1次産業への受け入れを認めなければ大幅に改善されるのではないでしょうか。これが暴論であるのは分かっていますが、どのような制度に改めようと何らかの形で受入規制をしなければ改善されることは無いでしょう。いま悪質な受入企業を監視する団体として外国人技能実習機構が検討されていますが、これとは別に技能実習生を労働組合に強制加入させて保護(注1)しようとする施策が水産業界で実施されています。確かに、これまで残業代等、技能実習生の問題解決に大きな役割を果たし、問題提起してきたのは地域ユニオンであったため労働組合に実習生の保護を依頼すると言うのは分からないでもありませんが、個別に依頼のあった問題への対応を除いて、地域ユニオンを含めて労働組合に実習生を日常的に守るしいう対応を任せることは不可能な話しではないでしょうか。
 問題点を指見ていく前に水産業で技能実習生が海員組合に強制的に加入させるに至った経緯について、一般社団法人大日本水産会の作成している「外国人技能実習生の手引平成26年4月」で見ていくと、これまで漁業関係で試行的に行われていた研修を技能実習制度に組み込むため実習生の保護の観点から水産庁が法務省に提案した内容の1つが海員組合に実習生を加入させるものでした。

 大日本水産会は、この間幾度となく漁業研修・実習制度をパイロットの位置付けから外すよう求めてきましたが、法務省は、条件として地方公共団体による監理体制を上回る監理体制の構築を漁業界に求めました。水産庁は「漁業実習制度協議会」を設立して制度全体を監理運営し、漁業協同組合を一次受入れ船主等を二次受入れとし、漁業中央団体が一次、二次受入れと連携して監理し、同時に船主又は一次受入れは海員組合等の労働組合と労働協約を結んで監理する体制を法務省に提示し、平成22 年7 月1 日に「出入国管理及び難民認定法」における外国人研修・実習制度の改正に係る部分が施行され、同時にパイロットの位置付けが外れて、水産業協同組合法による漁業協同組合が一次受入れ機関として技能実習を行えるようになりました。

「外国人技能実習生の手引平成26年4月 P48

 これを受けて、労働組合への加入について次のように述べられています。

 漁船漁業職種では受入れ船主の団体、例えば漁業協同組合や船主組合が労働組合との間で労働協約を締結し関係労使の協議を円滑に促進する旨、水産庁より指導を受けております。そのため技能実習生を労働組合に加入させる手続きを行います。
 p58 に労働組合の1つである全日本海員組合と締結した場合の労働協約書モデル例を記載します。(参考資料4。ただし、労働組合の選択を限定するものではありません。)」

「外国人技能実習生の手引平成26年4月 P27」

 以上は漁船漁業に関するもので、この仕組みについては連合の資料に分かり易く示されています。同時にこの説明を通して養殖業も同じ扱いがされていることが分かります。

第6次出入国管理政策懇談会 外国人受入れ制度検討分科会(2014年2月7日)技能実習制度に関する連合の考え方

 これまでカキ養殖で働く技能実習生の問題に直接タッチしたことは有りませんが、様々な問題が聞こえてきます。そうしたものの一つに労働組合に加入させられ組合費を徴集されているというものがありました。調べてみた結果が上記の資料がみつかったという次第です。

【監理団体と労働協約】
 上記資料で述べられているように漁業関連職種を技能実習制度の対象職種に組み込こむために実習生を人身御供として労働組合に差し出したといえます。良い思いをしたのは水産業者と受け皿となった海員組合であり、本来の主役であるべき実習生は意味のない組合費の負担を強いられただけといえます。養殖業関連での明確な資料は見ていませんが、連合の資料を見ると漁業関連と同じだと考えられます。ただ労働協約の当事者の一方が漁業では「漁業協同組合や船主組合」であり、養殖業では「監理団体」となっています。なぜ養殖業では地域の漁協でなく「実質的営利を目的とした仲介業者」である監理団体を労働協約締結の当事者としたのでしょうか。管理団体には水産業と全く関係のない業界の事業主も多数加入している団体なの養殖業界を代表する団体ではありません。漁業関連と同じように労働契約の当事者である事業主の連合体である漁協との労働協約であればまだ理解できます。事業主が監理団体に加盟するのは実習生受入目的のための手段にしかすぎません。本来の目的である労働者保護の観点から見ると事業主毎に労働組合と労働協約を締結する必要があります。それは事業主と労働組合が面と向き合って話しをする機会が出来るためです。上部団体で労働協約を結ぶと、監理組合が事業主にそうした事実を伝えることもなく、何らかの名目で組合費を賃金から引き去るよう事業主に指示してしまうと、実習生も事業主も労働組合への加入を知らないままとなってしまいます。
 また連合の資料では「養殖業技能実習制度地域管理委員会」の構成員として「海員組合等の労組」とあり。連合の資料の労働協約締結の所では「海員組合」となっています。大日本水産会の資料では「海員組合」に限定されていないのは建前論の為と言えます。労働協約のひな形の中にはユニオンショップ協定の条文が定めてない為、労働問題から海員組合を辞めて他の労働組合に加入することも可能といえます。しかしここで問題となってくるのが1号から2号への移行時の技能認定試験また2年・3年終了時の技能認定試験の実施団体が大日本水産会であることです。地域ユニオンに加盟した時この辺りでの不利益取り扱いが行なわれないか心配になります。(注2)
 水産業の実習生が労働組合に加入が強制されることについて、実習生受け入れ保護を目的とした入管の指針には何ら触れられていません。全く密室の中での取り決めにしかすぎません。同じような問題に水産業や農業では労基法第41条の適用除外を実習生には適用しないことも指針には何ら記載されていません。こうした明文化されないまま運用されていることが技能実習制度をゆがめ、分かりにくくしているといえます。同じカキ養殖場で働く多くの日系フィリピン人には社会保険の適用もなく、割増賃金の支払いもなく、労働組合への加入もないまま同じ働き方をしています。カキ養殖での労働条件は混沌とした夜明け前の状況にあるといえます

【組合会費】
 水産業で働く実習生の組合費はこれまでの例から行くと1カ月3,000円です。必ずしも組合費として控除されているのではなく「共益費」等他の名目で控除されているようです。労働組合が実習生保護のために有効な活動をしていればいいのでしょうが何もしていないのが現実です。来日した最初の1カ月か2ヵ月は日本での生活のための座学の期間で労働法の話しもあります。しかし労働組合が出向いて話しをしたり、問題があった場合の対応方法などを説明したりすることもないようです。結局労働組合と実習生は会わず仕舞のようです。こうした状況にあるためセクハラ、残業代などの問題が発生したとき相談に駆け込む先は、船員組合ではなく、地域ユニオンになります。そうすると地域ユニオンに対しても組合費を支払うことになるので二重に組合費を負担するという現象が発生します。こうした労働組合のあり方は、連合が言っている「監理団体は実質的営利を目的とした仲介業者であり、遵法精神に乏しいケースが少なく無い。結果、受入漁家に対する指導も行わない。(特に養殖企業)」と全く同じ状況といえます。ちなみに水産業には1250人の実習生がいるそうですから、船員組合は毎月、1250人×3000円=375万円の収入を得ていることになります。労働者を守るべき労働組合が外国人技能実習生を搾取する構造がつくられているとしか言えません。この搾取したお金はどこに消えていくのでしょうか。江田島事件もこの構図の中の一コマにすぎないのならあまりにも悲しい話です。この事件に対して海員組合と連合はどの様な総括をし、改善策を取られたのでしょうか。未だにカキ養殖では悪質な問題が発生し、地域ユニオンが悪戦苦闘している現状があります。一日も早く実習生を労働組合に加入させることは止めてもらいたいものです。

(注1) 労働組合が労働者を組織すれば当然事業所ごとに分会を設けて、毎月集会を実施しなければ労働者の労働条件を維持することは難しいといえます。カキ養殖では小さな事業所が中心で散在しているため毎月の集会のための職員の確保が必要となります。また外国人となれば当然通訳を同行する必要があり、実習生からの相談に対しても常時通訳を確保していなければ迅速な対応はできません。実際ここで組織したとされる船員組合はそうした人員を確保できているのでしょうか。そうしたことを避けるため労働協約の相手方に漁協や監理団体を指定しているのでしょうか。

(注2) ここでは監理団体である協同組合が何らかの理由で船員組合から全員を辞めさせた場合の問題があります。水産業の技能実習生は労働組合加入が条件とされていますので加盟させてもらえる労働組合を探す必要があります。しかし労働組合同士の関係で難しい問題があると思います。またJITCOの資料によると「養殖業職種で技能実習を行う場合は、漁連・漁協・労働組合・監理団体等で構成される地域監理委員会への加入が必要となるため、必ず事前に全漁連・大日本水産会へご相談下さい。その他、技能評価試験に関する事は試験実施機関である大日本水産会にご相談ください。」とあります。協同組合が何らかの理由を付けて除名されれば実習生の受け入れ自体が難しくなると思われます。また地域ユニオンが何らかの理由で実習生を組合員とすると、連合また船員組合等から実習継続に絡んで地域ユニオンに圧力がかかれば実習生が3年間の実習を全うできることを条件として手を引かざるを得ないことも考えられます。
 今スクラムユニオン・ひろしまが某協同組合と労働協約を結び実習生を組合員として受け入れました。今後の動向か気になります。