帰国後労働基準監督署に申告した技能実習生の事例報告


 技能実習生ジョバニー・アルメンテロスさんは今治市伯方町にあるしまなみ造船の下請(有)イーグルで働いていました。今年の3月に四国のユニオンに対応を依頼していましたが、4月下旬の帰国までに解決せず、また本人とユニオンとの間の連絡体制もしっかりしていなかったようで帰国前からユニオンに連絡しても回答が無いと再三連絡がありました。帰国後の再就職に必要となる雇用証明書も彼だけ交付されておらず、ユニオンに連絡したところ書面による抗議の申し入れがなされ解決しました。送られてきた抗議書と回答書の内容を見ると双方一方的な内容であり、既に帰国している本人の焦燥感、ユニオンと本人との意思疎通状況からみて解決は難しいと思われたため本人から今治労働基準監督署に申告させることにし、申告書の文案を送り、労働基準監督署と入国管理局に送らせました。これに先立って私からも一件書類を送付しておきました。労働基準監督署は私への委任状を送らせていても代理人と認めてくれませんでしたが、技能実習生との連絡は全て私を介して行うことになりました。問題となる点はいろいろあっても申告となると当然労働基準法に関係した問題しか対象になりません。勤務時間を日々記録したものもありながらも結果として会社側の言い分に沿って解決が図られました。労働基準監督署と電話で話す中で、会社はユニオンと団体交渉した議事録の内容と異なる回答をしていることが分かりました。この議事録も労働基準監督署に送っていますが、参考にされることはありませんでした。結果として。会社は60,813円の未払賃金を支払うと労働基準監督署に回答し、本人にも連絡してきました。この金額も私は本人からしか聞く事は出来ませんでしたし、計算の根拠も不明です。
 満足のいく結果は得られなくても帰国後労働基準監督署へ直接申告をさせるという方法で解決が図れた例として報告します。

1.始業前20分間のミィーティングが帰国まで毎日あった点について
 始業前のミィーティングは建設業や工場では普通にみられる光景ですが残業代としてカウントされる例は少なく、この会社でも同様でした。本人が労働時間を記録したノートには始業20分前から記録されており、タイムカードも同様に毎日20分程前の時刻が打刻されていたことを労働基準監督署も確認したと聞きましたが、会社が「始業前のミィーティングはなかった。」と主張したことに対して「これを覆す証拠はない。」としてミィーティングがあったとは認められませんでした。労働基準監督署が企業に立ち入り調査をするとパソコンのログオンとログオフの時間に従がって労働時間を計算すると聞いていますが・・。

2.午前午後各15分の休憩が与えられていなかったこと
 この会社の休憩時間は90分で労働時間は7.5時間でした。午前・午後に各15分の休憩があるはずですが、これは一切与えられていませんでした。しかし基本給からみると1日8時間労働で計算されていました。ユニオンからもらった資料をみると年休は1日0.5時間として買上、調整手当として支払っていたとありますが、手元にある賃金支給明細書にそうした手当はありません。また労働契約書を見ると所定労働時間を超えたら25%の割増賃金を支払うとなっているため残業手当として支払われるはずですが残業手当が無い月もあるため年休の買い上げとしか考えられません。そうすると午前午後の休憩時間の0.5時間分は未払となります。
 私自身30分の休憩が与えられていると理解して作成した資料をユニオンに渡していました。ユニオンが本人と面談してこのあたりのことを把握していたのかどうか不明です。会社は、ユニオンと団体交渉の後、午前午後各15分の休憩を取らせるようになり、本人からは「8時間労働から7.5時間労働になって賃金が減る。」と不満を言ってきました。

3.有給休暇が取得禁止されていたことについて
 この問題はすでに帰国して行使できる状態にないため申告としては取り上げられませんでした。帰国までに年次有給休暇を行使できたとは聞いていませんし、団体交渉後は買上代も無視されたのでしょうか。

4.1カ月単位の変形労働時間制で年間休日日数が88日とされていることについて
 造船所では盆や年末年始にまとった休暇を取るための1年単位の変形労働時間制を採用するが普通です。しかし労働契約書には1か月単位の変形労働時間制とされています。契約書に記載された休日日数は88日であり、1カ月変形で必要とされる休日日数の95日(注1)を大きく下回っています。ちなみに1日7.5時間労働の場合、1年単位の変形労働時間制で必要とされる休日は87日(注2)となるため1か月変形と1年変形を悪用して労働時間のごまかしを考えていたと疑いたくなります。監督署の話によると事務所に張られていたカレンダーには労働契約書には記載されていない年末年始と盆の休日も記載されていたそうです。カレンダーが手元にないため1か月変形労働時間制が成立するかどうか確認できません。

(注1)1か月変形制の休日日数→28日以外の月は8日の休日が必要、8日×11月+7日=95日
  31日の月は、31日/7日×40時間=177.1時間÷7.5時間=23日 の労働日数で休日8日が必要
  30日の月は、30日/7日×40時間=171.4時間÷7.5時間=22日 の労働日数で休日8日が必要  
  28日の月は、28日/7日×40時間=160.0時間÷7.5時間=21日 の労働日数で休日7日が必要
(注2)8時間労働の場合の年間休日は105日必要となります。この会社では、90分の休憩で、午前午後各15分の休憩は与えられて
  おらず実質8時間労働でした。

5.盆と年末年始の休日について
 これ等は労働契約書に記載が無い休日であるため当然休業補償の対象になるはずです。この点に関して労働基準監督署の回答は、「会社は、技能実習生達の来日時にカレンダーを示して休日である旨説明し、本人たちも了承しているため契約書への記載が無くても休業手当を支払う必要はない」との説明でした。来日前に労働条件は決定しています。それを来日早々変更するのは詐欺行為と言えます。ましてや技能実習生の賃金は時間給です。来日前に貰った契約書にない休日が増えれば賃金は大きく減少してしまいます。本人たちが納得したのであれば、2年目から契約書が改められていればまだ納得もできますが3年間同じ内容です。口頭説明で済ませる問題ではなく、あくまでも契約書の内容また技能実習生制度の枠組みの中で判断してもらいたいものです。

6.その他の問題
@ 研修手当の問題
 研修手当は7万円とされていたのに2.8万円しかもらっていないとの問題がありましたが、労働基準法の問題でないため申告の対象とはなりません。この問題は、よく聞きますが、研修期間を不正に短縮するため発生する問題と言えます。短縮された部分に対する研修手当や賃金また家賃などの清算の説明がしっかりなされていない為なのかごまかしがあるのかよく分かりませんが、会社に対する不信感を醸成する原因の一つとなっています。

A 休日等に社長の自宅やヨットの清掃をやらされていたこと
 労働と見るかどうか難しいところです。しかし警察も弁護士も信用できない国から来ている人達にとってこの命令に従わなければ帰国させられるか、暴行されるかと身の危険を感じ、従う以外の選択肢はありません。江田島市で起きた中国人技能実習生の殺人傷害事件の報道を見ていても良くしてやったのに恩をあだで返されたといったニュアンスの記事もありました。お弁当屋さんの残業代未払の問題ではお弁当を持って帰らせていたのに・・残業代を請求するのならお弁当代はそれから差し引くといった発言もありました。彼女たちに言わせると美味しくないから断るわけにもいかず日本人の小母さんたちにあげていたとのことでした。良くしてあげたいと言う気持ちは良く分かりますが、国際交流と労働契約とを整理できず公私混同してしまう結果、技能実習生は使い捨ての労働力、労働契約は入管対策用の紙切れという考え方につながり、残業代や年休のごまかし、罵詈雑言は当たり前ということになってしまって問題を大きくしているケースも少なくないように思います。

B 帰国時の差別的取扱い
 問題提起したのは同期3名中の1名でした。この結果、彼は帰国時のさよならパーティーに呼ばれることもなく、餞別5万円も彼だけ除外され、雇用証明書も渡されることはありませんでした。雇用証明書については帰国後ユニオンを通じて申し入れると、会社に交付義務はないし、差別行為をしているわけではない。本人の能力が一定水準に達していなかったためで、ユニオン加入が原因ではないが、検討の結果交付すると回答がありました。労働基準法(第22条第1項)は本人から請求があった場合には遅滞なく交付しなければならないと定めています。技能実習生が帰国して就職するため必要な書類となっていますので無条件で交付してもらいたいものです。
 会社は5月半ばには郵送したと思われますが、7月に申告書を発送する時点で本人の手元に届いていませんでした。労働基準監督署が会社に連絡すると送付済みとのことで、会社が報告したEMS(国際スピード郵便)の番号を基に労働基準監督署が調べると郵便局に届いていることが分かりました。また未払賃金の支払額通知書も同様に郵便局で止まったままでした。郵便局留めで出したのであればEMSの番号と発信日の連絡が無いと受け取れないと思うのですが・・それともフィリピンの郵便事情によるものかよく分かりません。