技能実習生に対するさまざまな人権問題??


 私たちが「人権問題」といった言葉を聞くと、日本人に対するものでは同和や障害者の問題を、外国人であれば難民や技能実習生の問題が頭に浮かびます。しかし技能実習生から相談を受けても相談のあった問題にのみ目を向けてその背景にある人権問題については無視しているのが現実です。無視しているというよりは私自身が人権問題解決に向けての知識と関心が乏しいためであり、どのように処理していけばいいか分からないためです。思い浮かぶのは弁護士さんに依頼して金銭的な解決を得ることしかありません。確かにそうした形での解決も必要ですが、それはあくまでも何んらかの苦痛に対する償いがされたにすぎず人権問題はそのまま残ったままです。残業代の問題にしても5名の技能実習生の内残業代を訴えてきたのが1名の場合その人の問題は解決されたとしても訴えてこなかった残りの人達の問題は放置されたままとなります。この原因はユニオンを始めとした支援団体が委任を受けた人の問題しか扱えない所にあります。全員救済を求めるなら労基署の立ち入り調査と連携をとる必要があります。しかし支援団体が労基署と共働することはまず考えられません。その理由は支援団体はそれが商売だからといってしまえばそれまでですが、労基署が入ることによって出てくる受入停止処分を回避していることもあります。こうした配慮が技能実習生問題をもぐら叩きに終わらせている原因の一つと考えられます。例え99匹の羊を全て犠牲にしても、受入機関が潰れても将来に渡って無数の羊を救うことを考えなければいけないでしょう。技能実習生問題は労働問題というよりは外国人であることに対する差別的な人権問題と強く意識して取り組む必要があると言えます。人権問題といったところから見ていくと気になるところがいろいろ見えてきます。
 外国人の支援に奔走している教会関係者からフェイスブックで次のようなメールが届きました。

 実習先を逃げた(暴力と低賃金のため)ベトナム青年、今、解体業の現場で8か月間無給で働かされているらしいです。社長は「来月払う」「あと10日で払う」「お前たちが入管に収容されたら、全額持っていく」といいつつ、食料品を買ってやる以外、何もしていません。
 昨晩、「クリスマスなんですね。ごちそうが食べたい。おいしいもの食べたい。」とメールがありました。


 技能実習生を使い捨ての低賃金労働者=奴隷としか考えていない悪徳な一部の雇用主の下で研修するようになった技能実習生たちの一部が研修先から逃亡する例は少なくありません。(注1)逃亡する理由には様々なものがあるのでしょうが、このメールのように理不尽な扱いから止む無く逃亡する人達も少なく無いでしょう。しかしそこまでせず我慢している人達の方がはるかに多いのが現実です。
【労災後遺症申請の事例から】
 帰国の日まで2ヵ月を切った技能実習生からこの11月末に労災事故での後遺障害について相談がありました。病院や監督署の配慮によってどうにか12月26日に申請と調査を行ってもらうことができました。左足の上に500Kgのグレーチングか落ちて第1趾と第2趾の基節骨を骨折したものでした。事故は2014年4月、固定した金具の取り出したのが2015年8月で、既に症状固定日から1年以上が経過しています。これまでも本人は後遺症のことを会社に話しをしたようですが何もしてくれないまま帰国だけが迫ってきて教会に相談に来ました。負傷した2本の指は動かず、痛みもあります。相談に来た後の経過を時系列で追うと次のようになります。

(1) 11月27日

教会で相談を受ける

(2) 12月 2日

 後遺障害認定の可能性があるので会社に連絡を取っても良いかと連絡すると、会社にお金を負担させるのであればしたくないとのことだったが、労災保険が負担するので会社は手続をするだけと説明し、了承をえる。

(3) 12月5日

 会社に電話すると、事故日の確認と、どのような状況か調べて連絡をするとのことだったが、本人に協同組合から私とどこで知り合ったかとの質問があっただけで私の方への回答はありませんでした。

(4) 12月7日

 病院に診断書のことで連絡すると、診察日は水曜日で今日来れるかとのことだったが、不可能なため翌週受診とした。

(5) 12月14日

 病院から診断書が出来るのに2週間程度かかるとのことで郵送を依頼する。

(6) 12月15日

 会社に「障害補償給付支給申請書」への証明依頼のため発送する。

(7) 12月19日

 会社から、診断書を見たうえで証明して返送するのでFaxを送ってもらいたいとの連絡がある (これが会社から私への初めての連絡でした。)。まだ受領していないこと、監督署に証明が無くても受け付ける確認をしていると告げ、すぐ返送するように伝える。

(8)

 この間、本人のところに会社と協同組合が来て、協同組合が手続をするので診断書を渡すように言われ、私の所に送られるようになっていると答えると、私から会社か協同組合に連絡するように指示され、またどのような書類にサインして私に渡したのかと聞かれたとのこと。

(9) 12月20日

 診断書と会社からの書類が届き、会社に診断書をFaxする。

(10) 12月21日

 監督署に申請と調査の依頼をし、会社から本人に労基署に行くため休むようにと話してもらうこととした。

(11)12月26日

 労基署に支給申請書と調査のため本人と通訳とで訪問


 早くから本人が後遺症のことについて訴えていても相手にされず、帰国が迫ってたまたま教会で相談にのってもらえると聞いて相談に来ています。会社に対して後遺障害認定の手続を依頼しても無視し、申請書への証明についても何を考えているのか全く分からない行動をとっています。申請書を送付した時の文書に、「労働災害は労災保険のみで会社は責任を果たしたことにならず、安全管理義務違反として会社にも損害賠償の責任が発生します。労災事故はこうした二面性を持っています。特に技能実習生に関しては、場合によってはこれだけでは済まない問題があることは十分ご承知のことと思います。また御社では技能実習生を手厚く処遇されているとかねがね聞いております。しかし一方では、寮規則違反で2名の技能実習生を帰国させたこともありました。技能実習生は使い捨ての奴隷ではない事をご理解の上技能実習生受入機関として責任を持った行動をお願いいたします。」との一文を入れていました。それでも打てば響く対応をせず本人を責める行動に出たことは理解に苦しみます。
 労災給付は法律上本人申請となっていますが被災者任せにするのは無責任な話です。特に技能実習生となれば何もわかるはずはありません。そうしたことも含めて管理組合は高額な管理費を取っているはずですし、会社としても手続をとるのはごく当たり前の事ではないでしょうか。例え後遺障害申請の知識が無かったのなら、こちらから手続を依頼した段階で行動を起さなければいけないはずです。しかも帰国は1月19日です。年末年始が絡んでおり帰国までに後遺障害として認定されるかどうかの決定が出るのか、支給決定となれば振込が間に合うのか微妙なところです。私の本業から見ると労災事故に対する安全管理義務違反への認識が乏しいこと、技能実習生制度の違反には受入停止があることなどを考えると危機意識が全く欠けた対応としか言わざるを得ません。これに加えて、「技能実習生は使い捨ての奴隷」としか考えていない証左と言えるのではなでしょうか。今回の問題は、労働法上の責任を会社には問えないかもしれませんが、人権問題として見ると大きな問題と言わざるを得ないのではないでしょうか。しかし受入機関に対してそれなりのペナルティーを負わせることもできず、愚痴を行っておしまいとなるだけの話でしかありません。29年4月から設立される技能実習生機構がこうした問題への対応もできる事を期待したいところです。

 1月5日の午前中監督署から電話があり、後遺障害が認定され、来週11日に振り込み手続きが取られるので、銀行口座を閉鎖しないでもらいたいとの連絡がありました。年末の26日に申請・調査で正月明けに決定支払いと迅速に処理されて頂いたことに感謝します。


【その他の事例】  技能実習として認定された職種以外で労働させていたことで帰国させられる例、残業代の話しをしただけで帰国させられる例、ユニオンに加入したことで送出機関も含めて圧力を掛けてくる例、劣悪な住環境においたり、4LDK程度の一軒家に18人を住まわせ光熱費込みで一人から2.5万円の住居費をとり管理費の肩代わりをさせている例、帰国前日まで有給休暇を与えず労働させている例、病気や労災事故で負傷すると帰国させたりと様々な例があります。

【水産業の労組加入】
 カキやホタテ養殖業の技能実習期間を1年から3年に延長することに伴い技能実習生保護の観点から海員組合への加入が義務付けられました。海員組合と協同組合が労使協定を結び1人月額3千円の組合費を賃金から控除して納入しているようです。技能実習生だけでなく事業主も何の為のお金か分からないまま賃金から控除しているのが実態です。しかも海員組合は3年間一度も技能実習生と会うこともないままでは技能実習生保護とは名目上の話しで労働組合による搾取の構造としか言いようがありません。江田島事件に対してどのように総括し、それ以後の対応をどうされたのでしょうか。2015年に漁業で実習生2号に移行した人数は913人でした。これに組合費月額3千円を乗じると274万円となります。最高でこれを3倍したお金が毎月海員組合に入っている計算になります。

【行政の問題】
(1)技能実習期間3年間保証されていない
 先の後遺障害の問題について労基署の対応は保険給付は会社がするものでなく本人がするものだから会社が手続をとらないからといって監督署としては何もできない。電話で手続を依頼しても会社が何もしないからといって会社の証明の無い申請書は受け取れない。申請書を送った上で証明しなければ受け取るということを言われました。建て前はそうかもしれませんが・・。
 また残業代と解雇の問題で裁判まで行った事例では、「3年目の労働契約を会社がしないのなら帰国せざるを得ない。」と入管から説明を受けたことがあります。確かに、労働契約は厚労省の管轄であるため入管としては継続するかどうかは関係ない話で、雇用関係が無くなれば在留資格要件を欠くので帰国は当然となるのでしょう。しかし技能実習生として来日するために3年間の雇用契約書と実習実施計画書が技能実習生の来日時の在留資格申請には必要書類となっています。技能実習制度を関係行政機関が合同で維持運営しているのであれば3年間の在留を補償する方向で連携をとるべきだといえます。縦割り行政の為なのでしょうか。「建て前と本音」のバランスの上に成り立っている制度ですから行政はその辺りのことを理解した上運営してもらいたいものです。
(2)脱退一時金に対する源泉所得税
 技能実習生が帰国した時、年金保険料掛け捨て防止としての脱退一時金に対する源泉所得税についても問題があります。脱退一時金は退職所得とみなされます。日本人であれば会社に「退職所得の受給に関する申告(退職所得申告)」に名前を書いて出すだけで非課税となります。技能実習生も脱退一時金申請書とともに提出すれば非課税とされると思いますが年金機構はこれを認めていません。1人8万円の所得税が控除されるとすると、毎年帰国する実習生が6万人強として計算すると48億円となります。この脱退一時金に対する源泉所得税の還付の話しをした技能実習生でこの手続きを知っている人は皆無に近い状況です。還付手続が出来るのは日本国内に在住している人を代理人とする必要があるためインターネット上でこの手続きを商売として宣伝している人はいますがどの程度の人がそれに気づくのでしょうか。日本の産業を支えている技能実習生を建前と本音で翻弄し一番おいしい汁を吸っているのは日本の国家なのかもしれません。
(3)扶養控除と児童手当(子ども手当)
 昨年(H28/1)から外国人が母国の家族を所得税法上の扶養家族とする認定条件が厳しくなりました。実際昨年の年末調整時に資料不足として会社から認められなかったと相談がありました。こうしたトラブルは各所で発生していると思います。扶養する家族への送金は通常配偶者なり父親宛ての送金でしょう。改正後はすべての扶養家族への送金が必要になっています。自分の0歳の子供であっても送金しなければ扶養と認められないという変な話です。しかし15歳以下の子供は児童手当の対象となるため所得税法上の扶養とは認められていません。しかも日本国内に居住していない子供に対して児童手当は支給されないため外国人にとっては所得税法からも児童手当からも排除されていることは大きな問題と言えます。子ども手当が始まったときには問題ありませんでしたが、数十人の養子を抱えた日本人の問題からこのようになったようですが、一律に日本での居住要件で括らずに実の子であれば認めるべきではないでしょうか。そうでなければ扶養控除の対象として認めるべきではないでしょうか。外国人であるが故の差別と言えば言いすぎでしょうか。

【認可法人・外国人技能実習機構】
 これからこの機関が設立されます。許認可と処罰の権能を持っていると言われますが、労働法の範囲内の問題だけなのか、これまで見てきた人権問題といえる部分に対しても受入機関に指導・罰則を与えることができるのでしょうか。そうした広範な活動権限を持っており、私の様な個人で活動している者と提携して対処してもらうことが出来れば私の様な個人で活動している者にとっては朗報といえます。

(注1) JITCOが発表した15年度の行方不明者は3,110人となっています。実習生数は192,655人に対する発生率は1.6%となります。