時間外の代休と代休時の賃金の扱い


 この夏、7月から9月まで、毎月1回、早稲田セミナー広島校で「働く人の基礎知識セミナー」(注1)という企画の中で労働関係の話をさせていただきました。「賃金のしくみ」、「労働時間のしくみ」そして「新聞記事から学ぶ職場の法律」という内容でした。参加された方は自分の問題について質問されたい方、また実務担当者、社労士受験を目指されている方などさまざまで、講座の後の質問では面白い話を聞くことが出来ました。RCCカルチャースクール等での講座もそうですが、自分が直面していること、会社の規則で問題を感じるところ、また労働基準監督署の調査が入ったときの話など聞けるのを楽しみとしています。そうした中で聞いた話に「時間外の代休」と「代休時の賃金の扱い」の話がありました。
 「時間外の代休」という言葉は、初めて聴きましたが、要するに時間外手当を支払わないための方法です。事業場の利益を上げるため手っ取り早いのが人件費の削減です。正社員から非正規社員への置き換えなどであれば法律的な問題は発生しませんが、残業代を払わないということになると問題が発生します。その結果、一流企業を始めとして時間外未払いで○○億支払ったとの新聞記事を再々目にすることになります。終業時間後の労働は全て残業となるので1分単位で厳格に時間管理しなければならないというのが労働基準法ですから、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」という通達に基づいて労働時間を管理する必要があります。この「時間外の代休」とは、実際に行った残業時間を、賃金計算期間内で一日なり半日の代休を与え、その時間分の残業時間を無かったものにするというものです。この会社は真面目なので代休日には通常の賃金を支払い、割増賃金の25%部分についても支払われています。労働時間からみても、賃金面からみても全てプラスマイナスゼロとなりますので一見問題がないように思えます。これを考えた人は良いアイデアを思いついたと考えているのかもしれませんが、労働時間は1週40時間を超えてはいけない。また1日8時間を超えて労働させてはいけないという原則を労働基準法は定めていますから、このように日にちを変えて計算するということは認められません。いいアイデアを思いついたのになぜ他の方法を考えなかったのかという気がします。労働基準法は労働時間の大原則に固執せず、柔軟な考え方をしています。それが変形労働時間制やみなし労働時間制だといえます。経理業務などのように毎月月末から月初めが忙しくなる職場であれば、月次決算の締切日から逆算すれば残業が発生する日は最初から分かっているといえます。フレックスタイム制もいいかもしれませんが、1ヶ月単位の変形労働時間制を適用すればここで問題にしている違法な「時間外の代休」など考えることなく残業代が削減できるといえます。
 1ヶ月単位の変形労働時間制は1ヶ月以内の期間を定めてその期間内の労働時間を平均して1週40時間以内に収めればよいとするものです。1日の労働時間については上限がありませんが、あらかじめ1ヶ月の日々の労働時間を定めておく必要があり、これを超えたときにはその時間は残業として割増賃金を支払う必要があります。具体的な例を紹介してみます。
 9月の1日から30日までを単位とした変形労働時間制の例です。まず、1ヶ月の労働時間の総枠を計算します。
 法定労働時間(40時間)×(その月の日数(30日)/7日)=171.4時間となります。
 25日、26日、29日そして30日の労働時間を11時間(3時間の残業)とし、他の労働日を8時間とすれば、8時間×16日+11時間×4日=172時間となり、0.6時間の残業となります。変形労働時間制を利用しなければ12時間の残業の発生となります。このカラクリは9月には2回祝日があるためこの16時間が1ヶ月の労働時間の総枠の中では労働時間としてカウントされるところにあります。祝日がない月は6月と8月の2回ですが、8月はお盆休みがあるとすれば6月だけとなります。1年間を通して考えれば、年末年始の休日やその他の会社独自の休日を加えればかなりな労働時間が残業時間を消してくれることになります。この考えを導入しようと思えば、1年単位の変形労働時間制という制度があります。この場合、1年間の総労働日数は280日、1週間の上限は52時間、1日の上限は10時間となります。
 次に「代休時の賃金」の話ですが、代休という制度は、休日の出勤に対して、後日休みを与えるというものです。従って、休日出勤に対しては35%の割増賃金を支払う必要があり、代わりに休みを与えた日については賃金を支払うか支払わないかは就業規則の定めによるというものです。35%の割増賃金を支払いたくなければ、事前に出勤する休日を別な日に振替えるという制度を就業規則に定めておく必要があります。ここで取り上げた「代休時の賃金」とは、先に見た「時間外の代休」の考え方と同じで、事後的に代休を与えることによって、休日出勤を無かったものとすることです。考えた人は真面目だったのでこの場合も35%の割増賃金だけは支払っておられます。代休は使用者の恩恵によって与える休日ですから法律的に有給とする義務はありませんので、無給としているところに問題があります。別に問題も無いように感じてしまいますが、振替休日と代休の違いを労働者が知らないことに目を付けたカラクリといえます。労働者が両者の違いを理解していれば、賃金カットがあるのなら代休はとらないとなるのではないでしょうか。
 人件費削減のためには労働時間管理を厳格に行う必要があるといえますが、法律の網目をかいくぐるのでなく、法律をしっかり勉強し、有効に活用することを考えれば思わぬ効果が生じます。ただ、法律的に問題なければ良いのかというとそうではなく、労使ともに納得した形で進めないと、職場の活性化を阻害し、メンタルヘルス不全が職場に蔓延することにもなりかねません。

(注1)
 このセミナーは6回の講座で年金関係として櫛田社労士さんの「かしこい『退職』『転職』」、「年金のしくみ」そして村松弁護士さんによる「裁判員制度」がありました。DVDに録画されていますので、1講座1000円でいつでも視聴可能ですのでご視聴のうえご批評いただければ幸いです。広島校以外にもDVDが送られていますので視聴の可否については各校にお問い合わせください。また、このDVDを使用した講座の企画を考えているところもあるようです。