弁当移動販売員をめぐる労働問題


 オフィス街を昼時動き回っていると自動車で弁当を販売しているのをよく目にします。弁当屋さんに限らず、リヤカーで塩大福を売って歩いたり、コーヒーやクレープを造って売っている自動車を見かけることもあります。自宅近辺ではパン屋さんが歌を流しながら販売に来ています。こうした移動販売に気に留めることはありませんでしたが、先日、弁当の移動販売の労働者から相談を受けたという話を聞き、労働の実態から幾つかの問題点について考えてみたいと思います。

(1)労働時間と休憩
 労働時間をみると休憩時間30分を含んで9時から15時30分までであり何も問題はありませんが、会社を出れば帰るまで自分ひとりで動き回っています。都市部でなく島嶼部を勤務エリアとしているため往復や移動にかなりな時間を要するため実質的に休憩を取ることができないのが現実のようでした。
 同じような問題として、私がよく本を読みに入る喫茶店の従業員からも休憩時間で会社と揉めているとの話を聞きました。その喫茶店は一人勤務のため確実に勤務から解放される休憩時間を取ることは不可能ですが、お客さんは非常に少ないため、とりたてて休憩時間を問題にする必要も無い気がします。そうは言っても「休憩時間とは単に作業に従事しない手待時間を含まず労働者が権利として労働から離れることを保障されている時間の意であって、その他の拘束時間は労働時間として取扱うこと。」(昭22.9.13発基17号)とされているため現在の状況は不適切と言わざるを得ません。
 休憩時間は労働時間が6時間を超えた場合には45分、8時間を超えた場合には1時間の休憩を与えるように定めていますので、この弁当屋さんの場合6時間を超える労働ではないため休憩時間を与える必要は無いのに与えたのですから休憩時間が取れなければ賃金の支払いが必要となりますし、労働時間が6時間を超えてしまうため不足分の休憩時間をあと15分与えなければならないことになります。

(2)賃金の問題
 賃金の計算には月給、日給、時間給として計算するもの、またタクシーの運転手さんのような出来高給で計算するものがあります。この弁当屋さんの賃金は時給900円と定められていますので特段問題はありません。しかし、日々の売上額ノルマを定めそれに満たない額とそれを超えた額を1ヶ月合計し、差し引きマイナスがあればその金額の2分の1を罰金として賃金から差し引くということを行っていました。ノルマに達していなかった額を毎日2,000円と仮定すれば、
   2,000円×22日÷0.5=22,000円の罰金となります。
 また、この人の1ヶ月の賃金は、900円×6時間×22日=118,800円であり、罰金を差し引くと96,800円となります。ここで問題となるのは、最低賃金との関係です。ちなみに小売業の最低賃金は759円ですから、759円×6時間×22日=100,188円が最低賃金となり、最低賃金を下回ってしまうことになります。労働基準法第27条で「出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金を保証しなければならない。」と規定されており、少なくとも最低賃金を下回ることは出来ないといわざるを得ません。ただ、この場合、罰金とされているものが出来高給制に基づく賃金の計算方法を意味しているものなのか、それとも賃金は通常通り支給し、別途就業規則に定められている懲戒規定に基づくものかによって考え方が違ってくるといえます。

(3)罰金・損害賠償
 この弁当屋さんでは前項のノルマを達成できないときの罰金の問題以外に、前日に予約したお客さんがキャンセルしたときには労働者の負担、当日休暇を取得したときには損害賠償として5,000円の罰金をとっていますし、交通事故で車両を壊したときには車両修理代として、1回目は修理代の25%、2回目以降は50%を支払わせています。こうした損害賠償が妥当かどうかの問題があります。民法上は、相手に損害を与えた場合には損害賠償の義務を加害者に負わせていますし、あらかじめ契約書に定めておくことも普通に行われています。しかし労働基準法ではこうした規定に反して第16条で賠償予定の禁止として「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」と定めています。しかしこの規定は損害賠償を禁止しているのではなく予めこのような場合には1万円の罰金・損害賠償といったものを定めておくことを禁止しているにすぎません。労使が対等な立場に立って契約しているとは言っても労働者は弱い立場にあるのは事実ですし、十全な労働を提供する義務を負っているのも事実です。その半面、使用者にはそうした状況を実現させるために職場環境を整える義務、安全教育等を行う義務が負わされています。また労働者を使用することで利益を得ているという事実もあり業務中の事故については使用者に責任の大半が負わされていると考えられているため労働基準法では事前に賠償額を定めることが禁止されているといえます。判例では、労働者に重大な過失がある場合でも25%の損害賠償が限度のようです。弁当屋さんの場合、事故の状況、重大な過失が労働者にあったのかまたどのような安全教育を行っていたかなどを勘案して損害賠償の割合を考えると25%は過大すぎるのではないでしょうか。休暇の問題にしても同様ですし、それ以上に年休を与えていないことの方が問題ではないでしょうか
 話を聞いてみると、パワハラもあり、労働条件通知書も交付していませんし、ハローワークの求人票とも違った労働条件、50名を越える労働者がいて就業規則もない状況です。問題が起こって始めてわかるのですが、こうした事業所は例外であることを祈ります。