一人親方に関すること


 

一人親方にも安全配慮必要/依頼の工務店に賠償命令


 建築作業中に転落してけがをした兵庫県加西市の「一人親方」の男性大工(57)が、作業を依頼した工務店が安全配慮を怠ったとして、約4,400万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、大阪高裁は7月30日、約650万円の支払いを命じた。
 1審神戸地裁社支部は、一人親方として独立していることなどから雇用契約を認めず、工務店の注意義務も否定して請求を棄却していた。高裁の若林諒裁判長は「両者間には実質的な使用従属関係があり、工務店は使用者と同様の安全配慮義務を負っていた」と指摘。しかし、男性にも過失があったとして賠償額を損害の2割にとどめた。
 判決によると、男性は工務店の依頼を受け、2003年4月に同県小野市の住宅建築現場の2階で床に合板を設置する作業中、バランスを崩し転落。頸椎脱臼骨折などで後遺症が生じた。
(共同通信7月 30日)

 広島労働局は7月28日に県内の造船業で死亡事故が多発していることから集中監査を実施した結果を発表しました。それをみると調査した事業所の72.7%の事業場で何らかの違反があり、中でも墜落関係の違反が労働安全衛生法に係る違反の27.9%を占めており、その原因として、下請重層構造に頼らざるを得ない実態と、その結果、現場の作業内容変更等に対する元請と下請けとの間の意思の疎通が十分でなく現場の状況に安全措置がついていけなかったことをあげています。
 ここに取り上げた建設現場についても下請重層構造が当然の職場であり、元請と下請けとの間の連携が十分でなければ事故の発生しやすい現場といえます。労働安全衛生法は、事業の規模や業種に応じて一定の安全衛生管理組織をつくり、職場の安全衛生に配慮するように定めています。特に、下請、孫請を使用する建設業にはより厳しい義務を課していますし、下請等に労災保険の加入漏れが生じないよう元請事業者が一括して労災保険に加入するという形態もとっています。下請以下の労災保険に元請が加入すると言っても労働者に該当しない者、すなわち、下請の事業主や役員また一人親方などは対象となりませんので、この人たちは労働保険事務組合を通じて労災保険に特別加入していなければ労災保険の適用を受けることは出来ません。
【一人親方】
 一人親方とは従業員を使用せず自分一人が請負った仕事をしている個人事業主を指します。建設業では建設業の許可が必要となりますが、請負金額が500万円未満の事業を行う場合には、建設業の許可も不要となっていますので、建設業の許可を取っていないのが一般的のようです。こうした一人親方が建設現場で働くとなると請負契約を締結し、発注先との業務打ち合わせと作業を一人で行うことになります。当然打ち合わせた内容に基づいて自分の裁量で請負った仕事を完成させることになります。請負契約とは発注者の指揮命令を受けずに行う事業形態を指しますので指揮命令を受ながら働いている労働者には該当しないため元請の労災保険の適用は認められないことになります。しかし、請負とはいいながらも発注者の指揮命令を受けて作業を行っている場合には、請負契約ではなく労働契約と見なされることになります。労働基準法では、この辺りのことを労働者性があるかどうか(@使用従属関係があるかどうか、A労働の対価としての賃金の支払いがあるかどうか)で判断することになります。従って、「一定の就業関係が法律上雇用か請負かは、実体を観察して判断する。当事者の付した契約名にこだわらぬ。」(浦和地54.8.20)ということになりますが、なかなか判断が難しいためか、この記事の場合、地裁では労働者ではないとされ、一転高裁では労働者と見なされています。
【安全配慮義務】
 安全配慮義務とは労働契約に付随して発生する使用者側の義務といえます。労働契約を結べば労働者は労働を提供する義務を負い、その対価として賃金を受領する権利を得ます。一方、使用者は、労働の提供させる権利を有し、それに対して賃金を支払う義務を持つことになります。同時に、労働させるということになれば、職場における労働者の健康と安全を守る義務を負っており、製造業であれば機械設備に安全装置を取り付けなければなりませんし、建設現場であれば足場からの落下防止などの災害防止対策をとる義務が発生してきます。もし、これらを怠っていれば、労働基準法の定める災害補償に加えて民法に基づき安全配慮義務違反として損害賠償の訴えを起こされる可能性があるといえます。最近、精神疾患に対する労災適用訴訟ではこの安全管理義務違反に基づく損害賠償請求が併せて請求されている例が多く見られます。
【頸椎脱臼骨折などで後遺症】
 傷病名から見るとかなりな程度の後遺障害があると考えられます。この裁判で労働者性があると認められましたので、労災保険への保険給付の手続きも行われると考えられます。そうすると、療養補償給付、休業補償給付そして障害補償給付と特別支給金が支給されます。障害補償給付は第1級から第14級までに区分され第7級までが年金として、これら以外は一時金として支給され、これに併せて障害特別支給金が一時金として支給されます。
 元請の労災保険の対象にならない下請けの事業主、役員また一人親方に対して、万一の場合を考えて、特別加入を義務づける元請も増えてきています。ちなみに、特別加入した場合の労災保険料を計算すると次のとおりとなります。(その他の建設業で、日当1万円とした場合の年間特別加入保険料)

1万円×365日×21/1000=76,650円