労働者を他社の指揮命令下で働かせることについて


 私たちの周りには様々な就労形態があります。そうしたものの中で、名称の如何を問わず派遣労働者の様に他社の指揮命令下で働くという形態があります。派遣労働者の場合には派遣業法に基づいて許可を受けた会社が派遣契約に基づいて派遣することになります。当然のこと労働契約は派遣元と派遣労働者の間においてのみ存在し、指揮命令権が派遣先にあるということになります。在籍出向という形態も派遣労働と同じようなものといえますが。この場合には出向元と出向先が出向労働者の労働条件や賃金の問題などについて出向契約を結んで実施されることになります。自社の雇用する労働者を他社の指揮命令下で働かせるという限りにおいては同じです。在籍出向の場合、労働契約は基本的には出向元にありますが、出向契約に従って出向先にも労働契約があるという点で派遣の場合とは異なってきます。
 しかしこうした形態をとらずにただ単に他社の指揮命令下で働かせるという場合もあります。あるフィリピン人技能実習生の働いている会社が当にこれに該当していました。働いている現場は同じ場所であり、ロッカーや昼食の場所は下請も含めての会社の事務室を使用しています。便宜上「他社労働-1」と呼んでおきます。これを図で示すと上記の図のようになります。このA社員と下請との間には下請けからのパワハラ問題があります。会社との関係では年休等を始めとした問題があります。この会社にとっては下請と言うよりは下請に班長を任せているとの感覚しかありません。これと同じ例として、一部の業務が親会社に統合されたことにより、その部門の労働者を次のような条件で親会社に駐在させる場合も考えられます。これを「他社労働-2」としておきます
  (a)出向契約は親会社とは結ばない。
  (b)従業員との労働契約は元の会社で継続する。
  (c)指揮命令は親会社に移る。
  (d)人事評価、勤務管理も親会社がおこなう。
  (e)親会社ではこれまでの仕事以外に親会社の仕事も行う。
 ここで上げた三つの労働形態、@「派遣労働」、A「在籍出向」、B「他社労働」に共通するのは、基本的に労働契約は労働者が本来所属している会社にあり、指揮命令権は現に労働している会社にあります。「派遣労働」は労働者派遣業法に基づいて運営されているもので他の二つと明確に区別できます。しかし後の二つは労働者が特別不利益を受けることがない限り問題が無いように感じられますが、決定的な違いがあります。「在籍出向」については基本的に本人の同意が必要とされますが、就業規則等に出向についての規定があり、労働条件が大きく低下する場合を別とすれば、労働契約に基づいた異動であるため法的な問題が発生することはないといえます。
 しかしB「他社労働」の場合、内容は「在籍出向」と同じであっても、「在籍出向」の手続きが踏まれていないので法的には「在籍出向」と考えることはできません。また「他社労働-1」の技能実習生の例は、請負契約の問題は別として単純に「他社労働」とした場合、何ら意識されることもなく事業組織の中で他社の指揮命令下におかれています。また「他社労働-2」の場合、グループ内の内輪の話としてこれも特別問題意識もないまま行っているといえます。「派遣労働」や「在籍出向」と違って他人の指揮命令下に入ることによって法的な保護がどうなっているのか全く分からない状況といえます。もし業務中の死亡事故が発生したらどうでしょうか。「派遣労働」の場合は派遣元の労災保険が適用され、「在籍出向」であれば出向先の労災保険が適用されますが、「他社労働」の場合にはどちらの労災保険を適用するかという問題が出てきます。要するに労働者が法的に守られていない不安定な状況に置かれていることが問題となります。従がって、「他社労働」は派遣業法第2条第1号の労働者派遣の定義、「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする」に抵触することになります。そのため第5条の一般労働者派遣事業、第16条の特定労働者派遣事業を行なおうとするものは厚生労働大臣の許可を受けなければならないと定め、これに違反した場合には、第5条一般労働者派遣事業違反は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金、第16条の特定労働者派遣事業違反は6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金が定められています。

特定労働者派遣事業(第2条第5号)
 その事業の派遣労働者(業として行われる労働者派遣の対象となるものに限る。)が常時雇用される労働者のみである労働者派遣事業をいう。
※上記以外が一般労働者派遣事業に該当することになります。

 ここで取り上げた三つの労働形態は。労働者派遣業法が出来る以前であれば、職業安定法に定める労働者供給事業違反となります。職業安定法第44条は「労働者供給事業の禁止」 として、「労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。」と定め、第4条の6号で「この法律において「労働者供給」とは、供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることをいい、「労働者派遣法」第二条第一号 に規定する労働者派遣に該当するものを含まないものとする。」とされています。口入屋による不当な扱いから労働者を守るために労働者供給事業が緩和されたものといえます。
 雇用延長に伴う処置としての定年退職者の処遇またグループ内の事業の再編を考えた場合などに派遣会社を設立して行おうとすると、同一職場への派遣は原則1年間しか認められないことやグループ企業に対する派遣労働者の割合は80%以内にしなければならないことなどの問題があります。