外国語会話講師の解雇事件から


 年対応した研修生を中心とした外国人労働者の問題を前号で概況報告しました。日本人と同じ法律が適用されるため解決に向けて特別違ったところはありませんが、研修制度で来日する人達については独特な問題点もあります。相談の中心は、「残業代がもらえない、年休が与えられない、そして家賃が高い。」が中心になります。家賃が高いのはそこで支払った賃金を回収しているためなのですが、解決が難しい部分です。また解雇の問題は強制帰国に直結しているため相談に来る暇も無く帰国させられてしまうためなかなか救済することが難しいところがあります。
 解雇の問題と言うと年末の29日に留学生からの相談が入ってきました。語学学校でアルバイトしている留学生の賃金が法人経営への移行を理由として切り下げを迫られたもので単純な問題ですが、労使ともに外国人というのが変わっているところといえました。話を聞いたとき問題となるのは二つの点だと思いました。一つは、契約書の作り方によっては労働者に該当するか否かといった労働者性の問題であり、あと一つは、個人経営から法人経営への移行の問題として、解雇が発生するのか、また残りの契約期間の補償についての問題でした。簡単に解雇理由と契約内容を整理すると次のようになります。
雇用主 留学生と同じ国の外国人
解雇の理由 個人経営から法人経営に移行し、新しく事務所も借りたため資金的にも厳しく、授業料を上げるわけにもいかないので、賃金を減額する必要がある。ついては新しい契約を締結すれば採用するし、そうでなければ契約は終わる。
契約書の名称 非常勤講師委任契約書(名称に関係なく労働者として認めていた。)
契約期間 平成21年10月1日〜平成22年3月31日(自動更新されていた)
勤務状況 月曜から土曜の9時〜22時の間の学校の指定した講座の担当
賃金 毎月20日締めの翌月末日払いで講義時間により単価が決まっている。
義務
(無給)
学校主宰の忘年会、スピーチ大会、花見などへの参加義務
年数回のチラシ配布義務、プログ記載義務、補講・月謝徴収義務
掃除当番、その他細かな服務規律がある。

 今回相手の言い分は個人経営の事業が無くなり新しい事業を始めるため新しい契約に応じなければ個人経営の事業体は消滅し、当然これまでの契約も消滅するので解雇の問題は発生しない。また、残りの3か月分の補償については全く理解できない。しかしこれまでの労に報いて退職金・慰労金名目で10万円支払ってもいいとの回答をしてきています。
経営形態 個人経営      ←1/1→      株式会社
契約期間 10/1                       3/31

 法律的に考えれば、解雇が発生し、新しい契約のスタートとなります。通常であれば、契約書は同じ条件で作成し、問題も無く新しい会社に採用され事業は継続していくことになります。しかし、労働条件の切り下げが絡んでくるとそれに応じなかった人にとっては解雇と契約期間中の解約の問題がクローズアップされてきます。
 労働基準法の第20条で、30日前に解雇予告をするか、30日分の平均賃金を支払うことで即時解雇できると定められていることからこの条件を満たせば簡単に解雇できると考えている人が多いのではないでしょうか。確かにたびたび問題起こしてきた労働者に対してはそれでもよいかもしれませんし、会社が経営不振に陥ったときにはやむを得ないかもしれません。こうした場合を想定した条文であり、問題も無く勤務している労働者を会社の都合で解雇することを意図している条文でないことは常識的に分かるのではないでしょうか。しかしその辺りの判断は両者の言い分もあり判断が難しいため裁判で決着をつけることになり様々な判例の集積の結果が平成20年3月から施行された労働契約法に記載されています。労働契約法第16条では「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定められ、契約期間のある契約の場合はもう少し解雇し易いように第17条で「使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。」と定めています。30日前に解雇予告すれば正当に解雇が成立するわけではなく、解雇するだけの理由が必要となります。この事例の場合、個人経営から法人経営への移行だけの問題であり正当な理由があるとはいえません。また、賃金の切り下げの問題について、労働契約法第8条は「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。」と定めています。これは労働条件の不利益変更を問題にした条文といえ、言葉を変えて言うと、「使用者の恣意的な変更はできない。双方の合意があって初めて労働条件の変更ができる。」ことを示しています。
 次に残りの契約期間への補償の問題については、労働基準法も労働契約法も何も触れておらず民法の規定を適用することになります。民法第628条は「当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。」また、民法709条には「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と有ります。何れを援用しても構わないと思います。この事例では「やむを得ない事由」があったとはいえませんので、残りの期間に対する損害賠償の額として平均賃金の3か月分を請求し、休業手当に準じた平均賃金の3か月分の60%辺りが落としどころかもしれません。しかし、研修生が受入会社や協同組合の不法行為によって余儀なく帰国させられることとなった場合には、これに加えて慰謝料の請求も可能だろうと考えています。
 学校の言うように解雇した事実は無い、また3か月分の補償については理解できないといっても裁判や労働審判に申立されると学校側は、解雇予告手当プラス同額の付加金そして3か月分の損害賠償を請求されることになります。こうした紛争を防止するためには事前に専門家に相談したうえで実施する必要があるといえます。この学校の場合、契約期間の切れる3月までは現行どおりとし、次の契約から賃金減額を条件とした契約を結ぶか、法人移行を契約期間に合わせて進めればなんら問題は無かったといえます。
 今回問題とならなかったのですが契約書の名称が「非常勤講師委任契約書」となっています。「業務委任の契約をしており労働契約をしているのではない。」と突っぱねられるかと考えていましたが、アルバイトとして雇っているといってきたので問題となりませんでした。この契約書を作成した人は労働基準法との関係や社会保険や労働保険の問題などから逃れる方便として委任契約の名称を使用したと考えられます。しかし内容自体は厚生労働省が作成している労働条件通知書に準じた記載となっており木に竹を接いだものでした。しかしこうした学校や塾などでは明確な委任契約書を作成しているところもあり、労働契約ではないと明記している場合もあります。どのような契約名称であろうとも労働の実態で判断することになりますので労働者としての実態があれば労働契約として判断されることになります。これを労働者性といいます。今回も、表題の委任契約を立てにとって抗弁されると簡単にひっくり返せる実態があっても、裁判に行けば別として、理解させるのに時間がかかると思いますし、理解しようとしないといえます。
 労働者性を判断するためには過去の判例を基にした基準がありますので要点を記載しましたので参考にしてみてください。
(1) 労務提供の形態が指揮監督下の労働であること
 @ 仕事の依頼、業務従事の指示等に対し諾否の自由があるかどうか
  イ 業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令の有無
  ロ 拘束性の有無
  ハ 代替性の有無−指揮監督関係の判断を補強する要素−
 A 業務遂行上の指揮監督の有無
(2)報酬が労務の対象として支払われていること
 @ 報酬の正確が使用者の指揮監督の下に一定時間労務を提供していることへの対価と判断されるかどうか


上記の判断基準を補強する要素として次のようなものがあります。
 @ 事業者性の有無
  イ 機械、器具の負担関係
  ロ 報酬の額
 A 専属性の程度
  イ 他社の業務に従事することか制度上制約
  ロ 報酬に固定給部分がある、業務の配分等により事実上同定給となっている、その額も生計を維持しうる
   程度のものである等報酬に生活保障的な要素が強いと認められる場合


※ HPの労働関係の中の「労働者とみなされる条件は?」にクラブのホステスさんに労働者性があるとした判例
 の概要を掲載していますので参考にしてください。