江田島技能実習生による殺傷事件裁判を傍聴して



 平成13年3月14日に発生した中国人技能実習生による殺傷事件が裁判員裁判として1月19日から始まりました。初日は3倍を超える傍聴者のため抽選があり、残念ながら外れてしまい傍聴できませんでしたが、2日目以降は全員が傍聴できる状況となりました。私にとって関心があるのはこれまで見てきた技能実習生制度に係る様々な問題が事件の直接的原因として有ったのかと言う点のみです。殺意があったか、精神的問題があるか否かなど傍聴する中で感じることはあっても裁判所の判断を待ちたいと思います。社長の奥さんが死刑を望んだのは当然のことでしょうし、私自身同じ立場だったら同じことを言ったと思います。ただ頭の中では「人間に人間を殺す権利はない」とは思っていますが・・。これまで傍聴した中で技能実習生制度との関係で感じたことを報告したいと思います。
 弁護側は技能実習生として不当な扱いを受けた等の問題はないとの立場で弁護をしていますし、これまでの証人尋問を通しても特別問題はなかったと思われます。しかし事件とは関係なく技能実習生制度問題との観点でみると問題が無いとも言えませんでした。技能実習生問題に詳しい全統一の鳥井さんが証人として出廷される予定なので被告が意識していたか否かにかかわらず技能実習生としてどのよう問題があったかが解明されればと思っています。
【技能実習生の受入について】
@ 協働組合は、島嶼部で人材が不足していることから労働力向上のため寄与していると答え、社長の妻は「実習生を受け入れたのは、仕事がきついため日本人は何時いてくれない為で、実習性は3年いてくれる。」と答えています。
A また弁護側からの入国帰国前後に技能実習生がカキ打ちに従事しているのかとの質問に、協同組合は「実習生が水産業出身者であるかは送出し機関の書類でしか確認していないし、帰国後カキ養殖の仕事に従事していると聞いている。」と答えています。しかし社長の妻は「来日前カキ養殖に携わっていたものがいたと聞いたことがないし、帰国後カキ養殖に携わったと聞いたこともない。」と証言しています。
B 弁護側からの「労働力確保は安い労働力の確保を意味しているか」との質問に、協同組合は「経費を加えると日本人並みの賃金を出していることになる。」と答えています。この協同組合では、管理費(25千円)と賦課金(一万円)を受入企業から毎月徴収しています。調書には四万一千円となっているとのことでした。後者は往復の旅費や在留資格更新の費用を含めたものかもしれませんが、これ等を賃金と見做すところに問題があります。あくまでも受け入れに要する経費であるはずなのにこれらを合算したものが技能実習生の賃金と考えるところはこの制度の大きな問題の一つといえます。
C 「実習生一人の職場は珍しく、カキウチ236社のうち80%に実習生があり、平均3.3人である。」と広島県の現状が説明されましたが、各社の従業員に対する割合はどうなのでしょうか。
【研修事業所の変更】(協同組合理事への訊問)
 技能実習生が研修先を変更することは原則としてあり得ません。あるとすれば研修先が倒産したり、何らかの入管法関連の違反があった場合などに限られます。被告は半年ほどで研修先が川口水産に変更されています。検察官からこの原因について質問された協同組合の理事は「23年9月に前受入先の隣の会社で不法就労が発覚したため移籍させた方が良いと判断したためである」と答えると、裁判長から「前受入先の関連企業であったためではないか」との確認が入り、「その通りです。」との回答をしました。弁護側からはこの辺りのことについての質問はなかったため残業代等どのような状況だったかは不明なままです。
【以前1人いた実習生の帰国】
 被告の前に1名いた技能実習生が帰国した理由は、近所のカキ養殖場にいた女性技能実習生と恋仲になり、その子が帰国させられたことから平成24年8月に帰国した。これは社長の妻の証言であるが、協同組合の理事は「自己都合で帰国した。」と答えただけでした。なぜその子が帰国させられたのか、自己都合で帰国とはどのようなものだったのかは質問されず不明。
【仕事の内容】
 カキ筏での収穫、帰ってきて洗浄し、そして6名いる打ち子へのカキの補充やカキのむき身で一杯になったバケツの計量・記録また牡蠣殻の片づけ等仕事場の進捗状況に気配りをしながら自分もカキ打ちの仕事をしていた。
【労働時間・賃金について】(社長の妻への訊問)
 検察官のこの質問に対して、社長の妻は「契約書上の契約では5:30〜14:30であったが、実際は6:00〜17:00の労働で2時間の残業があった。」と答えました。この辺りは弁護側が詳しく聞き出しています。
@ この勤務時間で月曜から土曜まで働いており、丸1日日曜日を休んだのは出勤表によると24年1月は正月3日日を除くと1回だけ、24年2月は1回しかなかった。
A 36協定には特約条項として「繁忙期には年6回を限度として80時間まで労働させることができる」となっているが、これは協同組合が作成したもので内容については知らない。
B 労働時間の記録票には残業時間を二重線で消した跡があるが、これは協同組合から80時間を超えた時間を抹消して、現金を渡すように指導されていたためである。この点に関して、協同組合は「そのような指導をしたことは無い。残業させないように指導しているが具体的な数字をあげて指導したかどうかは覚えていない。残業時間については記憶にないが、80時間には達してはいなかった。」と答えていますが、この証言の時、突然出てきた80時間は何を言っているのか理解できませんでしたが、妻の証言を聞いて納得できました。また、「契約書通り賃金が支払われていることを賃金台帳と出勤簿で確認し、問題はなかった。」と証言しています。しかし賃金計算の最後の段階を見た所で最低賃金が修正されていない程度のことしか把握できません。稼働状況を記録した賃金計算の基礎資料であるメモまた技能実習生からの聞取りをしなければ確認できないはずです。川口水産ではこの点の問題は無かったようですが、他の受入機関ではどうだったのか心配になります。
C 各月の残業時間について3か月分を示して確認を求めると間違いないはずと回答。
     24年12月   89時間  25年 1月 77.25時間  25年 2月 94.25時間
D 「賃金は手取りで、15万〜20万円程度であった。給料に不満を持っていたとは思えない、最後の給料時には、多すぎると言ってきたので、黙って取っておくようにと言ったほどである。」との妻の証言があり賃金上の問題があったとは弁護側は考えていないようである。
E かって受け入れていた技能実習生を2名から1名にした理由について、「平成22年から賃金が高くなったため技能実習生を二人から一人にした。」と答えたことに対して、最低賃金違反が原因であったことを弁護側に指摘されて認める。
F また「技能実習生の賃金は法律で決まっていた。」と言っています。最低賃金のことを指していると考えられますが、協同組合からの指示または最後に触れる労働組合との関係の中での取り決めのことを指しているのでしょうか。
【宿舎の問題】
 「生活場所は作業場の2階で、冷暖房等全て整えている。トイレと風呂は別室となっている。」とのことで特段問題は無いようであった。記録が不確かなのですが、家賃が1万円、水道光熱費が5千円程度のようです。アパートを借りている訳でもないので必要なのかと思いますが、社会保険料相当額の回収なのでしょうか。ちなみに日系フィリピン人の例では家賃水道光熱費は無料とよく聞きます。その代り社会保険や労働保険への加入は無視されています。
【技能実習生への支援・水産庁の労働組合加入への指示】
@ 協働組合は事件当時、70〜80名受け入れており、自分と中国人の通訳3名で対応していた。通訳は月に3回程度訪問し、問題があればその都度訪問していた様子です。また川口水産でも問題の無い対応をしていたようですし、特に社長の妻に対しては社長が倒れている側にいても「お母さん」と言って何もしなかったそうです。
A ただ私自身気になる問題として、水産業の技能実習生は労働組合に加入させられ毎月3千円の組合会費が徴収されているらしいことです。実際2件そうした事例があったと聞いていますが、川口水産では不明です。弁護士さんに聞くと契約書にはそのような記載はなかったそうです。賃金明細書がどうなっていたのか気になります。
B 一般社団法人大日本水産会の「外国人漁業技能実習の手引き」(26年4月)には、
「(3)労働組合への加入手続き(P.27)
 漁船漁業職種では受入れ船主の団体、例えば漁業協同組合や船主組合が労働組合との間で労働協約を締結し関係労使の協議を円滑に促進する旨、水産庁より指導を受けております。そのため技能実習生を労働組合に加入させる手続きを行います。p58 に労働組合の1つである全日本海員組合と締結した場合の労働協約書モデル例を記載します。(参考資料4。ただし、労働組合の選択を限定するものではありません。)」
 また賃金についてP.17には
 「技能実習生を雇用する企業等が、技能等の程度や責任の度合い等を勘案して企業の持つ給与規定等に基づきつつ独自に決めるものであり、その際に日本人と同等の給与水準を保障し、かつ、最低賃金法で定める基準を下回らない金額でなければなりません。漁船漁業の場合、技能実習生の最低賃金は一般社団法人大日本水産会と全日本海員組合との中央協定で定められた最低基準を使用してください。」
 水産庁の指導文書を探してみましたが見つかりませんでした。この適用が被告にもあったのかもわかりません。もし労働組合への加入が義務付けられ、労働組合との関係が構築されれば技能実習生にとって重要な支援機関となるはずです。先にあげた2例では技能実習生はその事実さえ知らされていない状況であったため、地域ユニオンを探して支援を受けています。この2件の例の技能実習生が加入させられていた労働組合は組合員に対する教宣活動も支援活動行わないまま組合会費だけ徴収していたことは技能実習生制度上大きな問題といえます。
 これから建設業また介護関係での受け入れに併せて技能実習生保護の名目で同様なことが行なわれると技能実習生保護ではなく単なる賃金搾取の構造が導入されるだけの話となってしまいます。もし水産庁の指導が事実ならば、労働組合への加入を国が指導すること自体異常なこととしか思えません。もしそうする必要があるのであれば全国で支援実績のあるユニオンないし支援団体との連携が取れる仕組みづくりの方がはるかに効果があるといえます。