賃金規程見直しによる賃金減額者に対する調整手当について



 賃金規定の見直しを行うと賃金が減少する一部の人に対する不利益変更の救済措置として一定期間減額となった金額を調整手当として支給することがあります。新しい手当が新設されれば残業代の基礎給に算入されるかどうか検討する必要があります。営業手当については、全額固定残業手当、若しくは営業手当の50%部分が残業手当部分として残業手当は支給しないないとする規定を定めることも少なくありません。但し、この場合には、実際に残業した時間に対して計算した額が営業手当全額若しくは営業手当×50%を上回っていればその差額は支給する必要があります。賃金減額に伴う調整手当は通常であれば毎月支給するのが普通ですが、もし残業代に反映させない目的を持って年一回の調整手当として清算する場合にはどの様に考えればいいのでしょうか。労基法第37条及び施行規則第21条で次のものは割増賃金の基礎給には含まないと定められています。

 @家族手当、A通勤手当、B別居手当、C子女教育手当、D住宅手当、
 E臨時に支払われた賃金、F一ヶ月を超える期間ごとに支払われた賃金


 これで見ると「F一ヶ月を超える期間ごとに支払われた賃金」と言う項目があるためこれに該当すると考えていいのでしょうか。法律や規程を定めるとき例外的な事項を考慮して定めることはまずないといえます。常識的な考え方に従って定められるはずです。特殊な事例が出てくればその都度、法律や規定の趣旨に沿った判断することになります。そのため各社それらを集積した解釈集が作成されているはずです。常識的に考えれば、Eについては広島東洋カープの優勝セールで思わぬ売り上げが出たため大入り袋を出す場合が想定されます。Fについてはボーナスを意味していると考えるのが普通ではないでしょうか。以前、ブラジル人の残業問題で、2ヵ月に一回支給されていた能率給が割増賃金の基礎給に含まれるか否かが問題となりました。会社は労働基準監督署に相談したら含める必要はないとの回答を得たと主張しました。しかしこの能率給の実態は各月の稼働時間の合計に一定の単価を乗じるだけのもので、単純に2ヵ月分を一回にまとめて支給しているものだったため、下記の判例を示して割増賃金の基礎給に含めることを納得させたことがありました。

 「本件協約においては、従来一か月ごとに支払われていた無事故手当及び出勤手当を二か月ごとに支払うものとしたが、その額は従来の一か月の額を二倍したものであること、無事故手当は偶数月に、出勤手当は奇数月に支払うこととされたが、両者の額に大きな相違はなく、従来の支払方法によるのと大差ないこと、・・・・・労働基準法三七条の適用を回避し、これを潜脱する目的で締結されたものと認めるのが相当であり、その効力を有しないものというべきである。」(日本液体運輸株式会社事件 東京地裁昭54(ワ)第9797号昭56.12.3)

 法律は1日8時間1週40時間といった条文に書かれていることがそのまま通用するものは少なく、この事例の様に、形式的に考えるか、運用の仕方や実態に基づいて考えるのかで全く違った結論が出てくることになります。法律を検討する時には字面にとらわれずどのようなことが想定されて定められたのか考え、一般的な常識を持って判断しなければ自分勝手な解釈となり、問題を抱え込むことになりかねません。

 今回の賃金減額者に対する調整手当はどう考えればいいでしょうか。確かに労基法第37条に基づいて割増賃金に含めないと短絡することも可能ですが、この調整手当の本来の目的は月々の生活費が低下する職員の生活を守ることを目的としたものであり、ただ割増賃金の基礎給に含ませない目的を持って帳尻を合わせればいいという問題ではありません。ユニオンからの団体交渉申し入れや裁判になれば労基法第37条の適用を逃れ、割増賃金を減少させる目的で年1回としたもの判断されて賃金清算が必要になると考えられます。