就業時間中の技能実習生に対する暴行事件


 外国人技能実習生に対する労働問題は数多くあることはこの紙面でも報告してきていました。怪我が絡む問題は労災事故に関係するものばかりでしたが、3月23日就業時間中に日本人の社員から暴行を受け鎖骨骨折と前額部を4針縫う怪我をさせられるという事件が発生しました。その原因は不明ですが、加害者には外国人蔑視の態度が常日頃あったとのことです。日本人の白色人種に対する劣等感とアジア人に対する蔑視感は私達日本人には抜きがたく存在するのは否定できませんがこうした事件が社内で発生することにびっくりさせられます。この事件を調べていくとこの会社自体がそうした下地を持っておりコンプライアンスなど皆無としかいえない状況であることが分かりました。技能実習生問題に関係してここまで問題をはらんだ会社も少ないと思います。事件から2ヶ月も経過した時点の5月25日に東広島警察署に刑事告訴し、これから損害賠償請求へと進むことになったのを機に概要を報告します。
 事件から2ヶ月経過した事情には団体交渉を申し入れ、協同組合が代理として出てきましたが、社長は謝罪する気持ちがない様子であり、協同組合も話をまとめる熱意が感じられないまま交渉から降りてしまったため会社に対して再度団体交渉を申し入れ、当日会社を訪問すると社長不在という有様でした。この事件の問題点は大きく3つあります。(1)暴行事件に対する刑事罰と被害届提出を脅迫して取り下げさせたことに対する慰謝料、(2)契約期間満了まで就業出来なくなったことに対する損害賠償、(3) 入管法と労働法等違反に関する問題です。
【慰謝料の問題】
 暴行を受けて怪我をすること自体問題ですが、その後の会社の対応に大きな問題がありました。圧縮空気で釘を抜くピストル様のもの(30mは飛ぶ能力がある)で撃たれ、ハンマーを4本投げつけられ、1mのケレン棒(先端がヘラ状に尖っている)で殴られ、組み倒されてボコボコに殴られ、鎖骨骨折と額を4針縫う傷を負ったにも拘らず、本人から「病院に連れてってもらいたい」との要請にも拘らず、上司は「社長がいないから病院には明日連れて行く。」といってアパートに連れて帰ってくれただけでした。それからインターネットで知り合いの日本人に連絡して警察に行き、警察が救急車を手配し病院に搬送される有様でした。翌24日、アパートで休んでいると会社の人が来て謝るように言われ、非常に悔しい思いをしたそうです。加害者が社長に被害者が悪いと伝えていたからのようです。25日の午後、被害届を出さない旨社長に連れられて警察に行きます。午前中、筆者が警察に被害届が受理されているか確認し、まだ出ていないとのことで、明日本人と届出に行く旨伝えていたため、警察から被害届を出さないといってきていると電話がかかっててきたので、受理しないように告げ無事終了しました。しかし会社に帰ってから社長は協同組合と結託して「被害届は出さず示談で解決します。」という書面を作成し、「サインしなければフィリピンに帰国させる。」と脅されてサインせざるを得なかったとのことです。この夜、保護してもらいたいとの電話があり20時過ぎに迎えに行くことになりました。技能実習生を保護しなければならない協同組合がこのようなことをすることは言語道断な振る舞いといえます。さらに、後日、フィリピンの送出し機関から、「ユニオンは被害者を利用して金儲けをしている。あなたは利用されている。」とのメールが送られてきました。この会社は当初の受入機関である協同組合の副社長(副理事長)の奥さんが社長の会社です。このメッセージとこの事件関係の資料を付けて労働雇用省技術教育開発庁(テスダhttp://www.tesda.gov.ph/)に申告することも考えないとこれからも多くのフィリピン人技能実習生が被害を受けることをとめることができません。こうした状況から加害者本人、会社そして協同組合の三社に対して慰謝料の請求も考えざるを得ないといえます。刑事告訴したので慰謝料とは別に20万円程度の罰金が加害者に課されることになるはずです。
【損害賠償】
 型枠大工として技能実習生期間があと1年残っています。被害者は昨年の8月に盲腸の手術をしましたが、退院した翌日から軽い作業に就かされたそうです。真夏の汗で傷口が化膿するのではないかと心配しながら働いたとのことです。また今回の事件にしても加害者を解雇したといいながら別な工場に移動させただけであったり、「喧嘩両成敗」といったり「文句があるのならば解雇する」という社長の下で継続して技能実習を継続することは難しいのではないでしょうか。これについても協同組合との交渉において提案してきたのは1ヶ月10万円とのことでした。こちらの要求としては平均賃金をベースとして計算すべきと大きく隔たっていました。こうした問題を回避するため会社は戻ってきて働いてもらいたいといっています。しかし、労働法上は労働契約を結んだ労働者かもしれませんが、国が定めた技能実習制度に基づいて3年間の技能実習を受ける権利があり、会社と協同組合にはこれを保障する義務も発生しています。昨年7月の改正により2ヶ月ほどで労働者となります。これは残業や労災がらみの問題からの改正らしいのですが、低廉な労働力確保を容易にする政策への転換とも考えられます。そうでなければ受け入れ停止の罰則だけでなく、労基法並みの懲役や罰金刑を科すこともしていただきたいと思います。
【入管法と労働法等違反】
(1)入管法違反
 この問題については非常に悪質でこれまでも入管の目を欺いてきていたため受入停止処分も深刻に考えていないのかもしれません。彼らが来日当初F工務店で働いていました。しかし社長の息子が中国人に暴行を振るい、それが原因で受入停止になったとのことです。その結果、大分の会社に移動し、5ヵ月後にはF工務店の下請に移動してきています。11ヵ月後この下請けが倒産し、F工務店の社長の妻が社長をするM建設工業に移ります。要するに、大分にいた5か月を除けばすべてF工務店で勤務していたことになります。不思議なことにこの期間の外国人登録証の住所地は受入機関のトレーニングセンターのままです。これにとどまらず入管の目をくらます為か外国人登録証に記載された住所地と違ったところに住まわせられています。この経過を表にすると次の通りです。
日 付
勤務先 (協同組合)
実際の住所地
外国人登録証の住所地
  21年4月14日  来 日        (A)
広島市五日市町
  21年5月 (7ヶ月)  F工務店       (A)
東広島市黒瀬町
  21年12月14日 (5ヶ月)  大分の会社     (A)
大 分
 広島市五日市町
  22年4月21日 (11ヶ月)  M建工        (B)
東広島市黒瀬町
(仕事場はF工務店)
 呉 市
  23年3月17日  M建設工業     (C) 芸郡熊野町
 23年3月1日移住

 呉市にも熊野町にも住んでいないことについてM建設社長(F工務店社長妻)より指示されたこと。
  @ 黒瀬に住んでいるのは秘密にすること。
  A 黒瀬のアパートに警察が来たら遊びに来ているというように指示された。
※ 熊野の住所地はS建設の2名と同じ。S建設については、F工務店が5名受け入れるための
  ダミーではないかと推測しています。5名は同時に来日しています)。


(2)労働法関係違反
@社会保険に加入させていないこと
 5人未満の個人経営であれば社会保険への加入義務はありませんが、技能実習生について入管は加入が原則といっています。そうしなければ私傷病の場合の生活費の問題が発生します。要するに傷病手当金が受給できるか否かの問題です。この事件では、M建設工業は株式会社であるため当然社会保険に加入させなければいけませんが加入させていませんでした。協同組合との交渉中この点を指摘すると、後日加入させたと報告がありました。社会保険事務所に行き確認したところ4月27日に届け出があり、4月1日付で事業所の新規適用手続きが取られているが、暴行を受けた技能実習生の名前はない。またあと2名の技能実習生の加入の可否については教えられないとのことでした。この会社への就職は3月1日で、暴行を受けた日は3月23日です。従って傷病手当金の請求はできないことになります。採用されている証拠を整えて社会保険事務局に訴えれば事業所の適用開始年月日の修正も可能のようです。それ以前になぜ加入させなかったのか。保険料の支払いを惜しんで4月1日に新規適用届を出し、トラブルを起こしたため3月末日で解雇して処理したと考えられます。そうすれば雇用保険の加入期間が6箇月あれば失業手当の受給が可能となってきます。
A安全配慮義務違反
 被害者の話によると加害者は常日頃外国人蔑視の態度をとってきているといっています。また過去に社長の息子が中国人研修生に対する暴行事件を起こしたとのことですし、また今回は社員が鎖骨骨折という大けがを負わせる事件を起こし、さらに即座に病院に連れていくこともない会社の態度を考えると外国人は使い捨ての奴隷労働者としてしか考えていなかったのかもしれません。また釘抜銃の危険性を考えれば当然使用方法等についての安全管理教育がなされていなければならないはずですがこのあたりに大きな問題があるといえます。
BM建工時代を含めて雇用主はだれか
 なぜこのようなことをと取り上げるかというと暴行を受ける前に勤務していたM建工とM建設工業の賃金支払明細書は同一書式が使用されており、しかもM建設工業には3月1日採用であるにもかかわらず22年11月と12月分はM建設工業名の印が押されています。この点についてM建工が賃金を支払えなかったからと説明しています。またこの両社は本来3年間研修する予定であったF工務店の下請です。言い換えるとF工務店が受け入れ停止されたためのダミーとしてこの両社があると考えられますし、M建設工業の社長はF工務店の社長の奥さんであるため法律的に追及は無理でしょうが、実質的な雇用主はF工務店と考えられます。
C労働契約書(労働条件通知書)の交付がない
 労働条件通知書の交付は労働基準法で交付が義務付けられ罰則規定(30万円以下の罰金)も置かれています。他の技能実習生の問題のときには労働契約書にサインをさせておきながら交付していませんでした。労働契約書には自動車産業の最低賃金が記載されており、実際に支払われていたのは一般の最低賃金でした。要するに入管の審査をパスするため正式の書類を作成しなければならないが賃金で搾取を行うため交付できなかったということでした。
D土曜日も働かせているが残業代が支払われていない
 労働契約書がないためはっきりしませんが、1日8時間労働とすれば土曜日は時間外扱いとなりますが一切賃金が支払われていません。従って来日以来のこの賃金を計算すると大分の5か月を除いて70万円程度となりました。雇用実態を考えれば当然交渉対象と考えられます。罰則規定をみると賃金未払が30万円以下の罰金、割増賃金未払違反が6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金となっています。
E積立金が引かれている
この積立金とはどのようなものか本人もよく分かっていません。他の会社の技能実習生の問題では敷金として5000円引いている例がありました。これは帰国時のアパートの修理代への引き当てるもので実費を超えた部分は返還するといっていましたが、引き去りを中止してもらいました。今回の場合、3人で一部屋ですから、5000円×3人×24ヶ月=360000円となります。敷金にしては異常な額となります。労基法第18条で禁止されている強制貯金の名称違いとすれば大きな問題といわざるを得ません。罰則規定(6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金)も当然あります。