ベトナム人技能実習生との会話から


 最近、技能実習生を中心とした問題について話す機会が何度かありました。岡山では話のあとにベトナム人の技能実習生2名(女性)とその友人の「技術」の資格で来日しているベトナム人3名(男性)から相談を受けました。相談の主なものは帰国時の厚生年金の脱退一時金とそれに係る所得税の還付手続についてでした。脱退一時金の所得税還付に関心を持っていたのは送出機関か受入機関が手続をしてくれるような話を聞いているからのようでした。その辺りに何らかの不安があり「技術」の資格を持った日本に住んでいる友人に手続をしてもらいたいとのことでした。思いがけず技能実習生から所得税還付の話しが出てきたことに不思議な感じがしました。
 しかし脱退一時金の所得税還付のことに関心を持ちながらも毎月の賃金からはしっかり所得税が引かれていました 。当然母国に送金をしているため扶養控除申告書を提出していれば所得税が引かれることは無いはずです(注1) 。扶養控除申告書の話しをすると、「それは出している。20名ほどの技能実習生の内私たち二人だけ所得税が引かれている。会社に話しをしたら、協同組合に話しをするように言われ、協同組合からは会社に話すように言われた。」とのことで、会社に話しをするのをためらっているとのことでした。扶養控除申告については所得税法で定められた事項であり、会社にはそれを指導する義務があるはずなのになぜ協同組合に話しをするように言ったのか不思議です。ただ今年から扶養控除申告書だけでなく、母国での親族関係を証明書する書類の提出や母国への送金も扶養家族代表者一名ではなく各人ごとに送金する必要があるなど外国人にとっては意地悪な改正としか思えません。しかし彼女たち二人だけというところと会社と協同組合の対応の仕方を考えると何か問題が潜んでいるのではないかと考えてしまいます。扶養控除のことについては、えくれしあ第154号「外国人に対する所得税の扶養控除要件が変更されました。」をご参照ください。
 2名に残業代について確認すると特別問題は無いと言っていました。残業代等しっかり支払われているのだと思いながらもついつい何か問題がでてこないか調べてみたいという思いに駆られてしまいました。
 彼女たちが12月中旬には3年の実習期間を終わって帰国すると言ったので、「帰国前に有給休暇を取り、買い物などでのんびりできるね。」というと、帰国の前日まで働くようになっており有給休暇は取れないと話していました。扶養控除の話し同様会社に対して苦情を言ったり、労働者としての権利の請求をすることに触れたくない様子でした。先に触れた脱退一時金やその所得税還付のことについて何度も確認してきたことは会社等に関係しない個人的な問題であり、会社関係に係る問題については意識的に口を閉ざしているように思えます。ベトナム人はまじめで従順と聞いていますがそうした表れなのでしょうか。有給休暇の話しに戻ると、もしこれまで有給休暇を一切使用していないとすれば、23日の有給休暇を行使する権利があります。これを金額換算すると次のようになります。

757円(岡山県の最低賃金)×8時間=6,056円×23日=139,288円

 彼女たちの1か月の基本給を多少超える金額に相当します。こうした有給休暇の残日数を買いとってくれる(注2)のであればまだ納得もできます。そうでなければ、3年間汗水流して会社の為に働いてきた人達に対するねぎらいの気持ちも無く、まさに「使い捨て低賃金労働者」として扱っているとしか言えません。ざっと聞いた限りでは残業代も支払われており問題が無い会社であっても技能実習生制度との関連で見ると着物の下から鎧が見えると言ってもいい状況があるとみるべきなのでしょうか。
 またベトナムの技能実習生達は母国に100万円近い保証金を積んできていると聞いていたのでその辺りの事を聞いてみると、「来日するための日本語の勉強その他で80万円程度の費用を支払った。その内の15万円程度が敷金で帰国したら返金される。」とのことでした。敷金という表現が面白く感じられましたが、保証金が禁止されているためこうした敷金という表現で説明されているのかもしれません。しかし残りの65万円は何のための費用でしょうか。「敷金が帰国したら返してもらえる。」とは言っても、もし、ユニオンに加入したり残業代や有給休暇の請求等をした場合に果たして返してもらえるのか疑問はあります。

「技術」の在留資格で来日している人達からは、母国で結婚する予定なのでお嫁さんの来日の事や子供を日本で小学校に行かせるときの学費などの話しでしたので、家族の来日の事、年金や健康保険の話しをしました。今回の国会で年金の加入期間が10年で受給資格が得られるように改正になったことは外国人にとっては朗報といえます。10年間国民年金に加入者していた人の年金月額は約16,000円と言われています。同じ期間厚生年金に加入していた人の場合、事業主が同額の保険料を負担しているので単純に倍額とすれば月額32,000円となります。フィリピンやベトナムの人にとっては老後の生活資金としては十分な額と考えられます。ただ心配なのは帰国後、日本年金機構に対して住所変更届を提出すること、またその後の住所変更についても報告することを忘れないようにしておく必要があることです。
 この相談が終わった後、夕食に誘われ、何処に行くのかと思ったら回転寿司でした。5名は回転寿司が好きでよく来るとのことでした。
 翌日は月に1回のベトナム語のミサ終了後、脱退一時金などの話が聞きたいとの声が多数あり、12月上旬にユニティ岡山鳥取のメンバーが説明するとのことでした。こうした形で外国人グループとの関係づくりが進んでいけばいいのですが、フィリピン人と違って通訳がいないことが問題としてあります。様々な人達にベトナム語の通訳がいないか探してもらっても、時間が合わなかったり遠隔地であったりと悪戦苦闘しています。既に技能実習生の人数ではベトナムが中国を追い抜いた状況にあることを考えると支援体制づくりを急がなければいけないと言えます。

(注1) 送金対象の扶養親族が2名の場合には、社会保険料を控除した後の賃金が159,000円未満は非課税となります。3名の場合には205,000未満となるため、技能実証性の場合、通常の賃金でであれば課税されることは無いと言えます。
(注2)年次有給休暇は労基法第39条に定められた労働者の権利であり、使用者は「有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。」と定めていますので、退職者に対して業務に支障があると言って認めないわけにはいきません。そのため有給休暇の買取を行う会社もありますが、この場合自由に使用させた残りの日数の買い上げは認められても、使用禁止を条件として買い上げることを予約することは認められていません。