1か月変形が成り立ちますか?


 残業代の計算は特別難しいものではありません。とはいってもイザ実例に当たると考え込んでしまったり、途中から自分のミスに気が付いたりして計算し直すということが時々あります。それもどちらかというと残業代が増える傾向にあります。つまるところ自分の知識の無さや時間に追われる中での微妙な部分の見過ごしと言うことになります。また会社側も法律に基づいて考えているためその考え方を否定する材料を探し出しださなければならないこともあります。
 下記の例は1か月単位の変形労働時間制を導入していた例です。立場によって結論は違うかもしれませんが変形制が成り立つのか、またその場合残業代がどうなるか等考えてみてください。

 労働契約書に記載されている内容
 勤務時間 8時〜17時 休憩90分 の実働7時間30分
 休日 定例日毎週日曜日、非定例日月当り3回 年間休日日数合計 88日
 変形労働時間 1か月単位の変形労働時間制
 賃金 時間給 818円(愛媛県の造船業の最低賃金) 20日締め
 割増賃金 法定超・所定超ともに25%、法定休35%、所定休25%

 記録による稼働状況(26年1月分)、週休2日制で計算。
 曜 日 
 日 数 
 労働時間 
賃 金
 実際の賃金支給明細書 
 週 日 
 14
 110.91
 104.42
 85,416
 労働時間   165.5時間
 賃金合計   135,379円
       (818円×165.5時間)
 支給は基本給のみ残業手当等なし
 土曜日 
 4
 29.66
 36.15
 36,964
 日曜日 
 3
 24.31
↑週日残業を
土曜に移行
 26,846
 合 計 
 21
 164.88
 149,226

 上記の表は、稼働記録から週休2日制で計算した場合の賃金と実際に支給された賃金とを対比しています。この差が13,847円(149,226円―135,379円)あります。これは土曜日の労働時間や残業時間そして休日労働に対する割増賃金の部分が計算されていないことによるためであることはすぐわかると思います。
 労働契約書を見ると1か月単位の変形労働時間制とされています。1日の労働時間に限度を設けず1か月の労働時間を平均して1週40時間以内に収まっていればそれで「良し」とする制度です。ちなみにこの月の1か月の限度となる労働時間を計算すると次のようになります。
    31日÷7日×40時間=177.14時間
 賃金支給明細書に記載されている労働時間は、「この範囲に収まっているので割増賃金は一切発生しない」というのが会社の考え方でしょうか?確かに、1カ月単位の変形労働時間制の仕組みや労働基準法が分かっていなければ頷いてしまいかねない話かもしれません。技能実習生にとっては会社の説明に沈黙を守りながらも心の中に疑問を持ち続けたまま帰国していることと思います。
 労働契約書の記載内容と実際に支給された賃金のどこに問題があるか見ていきます。

【労働時間・休日、採用時等の基本原則】
 労働基準法では、1日の労働時間の限度を8時間、1週間の限度を40時間と定めており、休憩時間は労働時間が6時間を超えれば45分、1時間を超えれば60分の休憩を労働時間の途中に与えなければならないとしています。休日は原則1週間に1回与えなければなりません。
 1日8時間、1週40時間と労働時間を固定してしまうと職場の実態に合わないこともあるため、労働時間の原則を実態に応じて柔軟に対応させるための例外として3種類の変形労働時間制が導入されています。
 また、採用時には労働条件を明示した文書の交付を義務づけています。その内容には、始業・終業時刻、休憩時間、休日、休暇や所定労働時間を肥える労働の有無などの記載が義務付けられています。また法定労働時間を超える労働をさせるのであれば36協定と呼ばれる労使協定を労働基準監督署に提出するよう定めています。

【変形労働時間制】
 1日8時間労働というのが通常の働き方で、職種によっては8時間労働の3交代制という職場もあります。しかし長距離トラックの運転手さんの場合には広島と東京を往復するとなると1日8時間では仕事に支障をきたすことになります。またタクシーの運転手さんの場合、1日8時間勤務の場合と1日16時間勤務の場合と大きく二通りの働き方があります。こうした職種に対しては1か月の労働時間を平均して1週40時間内に納まれば良いという考え方を労働基準法は導入しています。また、工場などでは年末年始、ゴールデンウィークやお盆に連続した休日を取ることで稼働率の向上を図るため1年間の労働時間を平均して週40時間以内に納まれば良しとする1年単位の変形労働時間制もありますし、週末が忙しく週初めが暇な時間が多い旅館や飲食店であれば1週間の労働時間を平均して40時間に収めればいいという1週間単位の変形労働時間制もあります。当然、導入に当たってはさまざまな条件が付いています。最後に一覧表を載せましたのでご参照ください。

【1月単位の変形労働時間制での1か月の限度時間と休日日数】
 1か月単位の変形労働時間制で1カ月を平均して40時間という場合の計算は先にも見たように次のように計算します。
    その月の日数÷7日×40時間=○○○時間

 当然、31日、30日、28日とそれぞれの月によって1カ月の労働時間の限度が代わってきますし、所定労働時間に応じて1か月に与えなければならない休日の日数も決まってきます。今回の会社の例でみると、
    31日の月は、31日/7日×40時間=177.1時間÷7.5時間=23日 の労働日数で休日8日が必要
    30日の月は、30日/7日×40時間=171.4時間÷7.5時間=22日 の労働日数で休日8日が必要
    28日の月は、28日/7日×40時間=160.0時間÷7.5時間=21日 の労働日数で休日7日が必要

 となり、1年間合計では95日の休日が必要となります。この会社では、「日曜日と月当たり3日の88日の休日」とされているため1か月単位の変形労働時間制は成り立たないことになります。
 ちなみに1年単位の変形労働時間制で必要とされる休日日数を計算すると、
    365日/7日×40時間÷7.5時間−365日= 87日
    365日/7日×40時間÷8.0時間−365日=105日

 となります。1年単位の変形労働時間制では1年間を平均するため今回の様な休日が11日の月があっても他の月の休日と調整するため問題はありません。通常、年間カレンダーが作成され事前に休日が定められています。この会社は、本来1年単位の変形労働時間制とすべきであったのを単純に1か月単位の変形労働時間制と間違ったのか、何かの別の意図があったのか不明ですが、契約書に記載されていれば誤りだったといって訂正するわけにもいかないといえます。

【1か月単位の変形労働時間制と割増賃金】
 次に、この会社では1か月単位の変形労働制を導入するに当たって労働時間とは何を指しているのか理解していたのでしょうか。理解していたとすれば制度を悪用していたとしか言えません。変形労働時間制を導入する時、変形期間を平均して1週当たりの労働時間を40時間になるように休日と日々の労働時間を事前に定めておく必要があります。仕事の状態に即して前日に決めるものではありません。当然、労働時間とは休日を除いた働くべき日として指定された日(所定労働日)の労働時間の合計の平均が週40時間以内になるように設定しておかなければなりません。従がって、休日に労働すれば労働契約書に従がって割増賃金を支払う必要があります。この会社では、法定休日の労働は35%の割増、所定休日の労働は25%の割増と定められているためこれに従う必要があります。さらに所定労働時間を越えた場合には25%の割増賃金を支払うと定められているため、所定労働時間の7.5時間を超えた部分についても25%の割増賃金が必要になります。もし、所定休日と所定労働時間を超えた場合の割増率の記載が無ければ、日々7.5時間を超え8時間までの労働時間と所定休日労働については変形期間を平均して40時間を超えない部分に対しては割増賃金の支払が必要ないことになります。この辺りのことを自分に都合よく解釈しているのかもしれません。ただ日曜の労働に関しては、休日振替と言う考え方を導入し、3回の日曜日の勤務については他の日に振替えているため通常の労働日だから割増賃金の支払いは不要だと主張することも可能です。振替休日を行なうためには、就業規則や労働契約書に記載しておく必要があり、事前に本人への通知も必要となります。しかし労働契約書にその旨の記載はありません。就業規則への記載は不明ですが、あるとしても英文の就業規則の配布ないし掲示が無ければ難しいものと考えます。

【1年単位の変形労働時間制が成立すると考えた場合】
 1か月単位の変形労働時間制は休日日数の問題で成り立たないのは明らかです。そうすると1日8時間1週40時間の原則に戻って週休2日制で賃金計算をやり替えて清算する必要があります。仮に1年単位の変形労働時間制が成立しているとした場合を考えてみます。
 先に見たように休日日数については問題ありませんが、割増賃金については契約書に記載された内容に従う必要があります。「日曜日は休日、その他の休日は月当たり3回」となっていますので、これも1カ月平均したその他休日と考えることにします。この場合でも、日曜日については35%の割増賃金の支払い必要です。
 次に日々7.5時間を超えた日については、当然別途その日の労働時間を10時間以内の範囲で事前に指定しておかない限り、割増賃金の支払いは必要となります。通常日々の所定労働時間を定めることなく所定労働時間でカレンダーが組まれています。

【1年変形と時間給の問題】
 技能実習生の賃金は最低賃金を時間給として稼働時間に応じて月々計算されているのが普通です。この方式で行くと、1年変形を導入している会社では、年末年始、ゴールデンウィークやお盆前後は極端に稼働日数が減少してしまいます。ある造船業では8月の稼働日数が15日という賃金支払明細書がありました。この賃金を計算すると15日×8時間×825円=99,000円 が総支給額です。これから社会保険料や住宅費・水道光熱費として55,000円ほど控除され、手取りは44,000円しかありませんでした。この月も家族への仕送りは避けられません。その結果、自分は借金生活を余儀なくされていました。利率は借りたお金の10%から20%程度と聞いています。技能実習生の契約書には1年間の稼働日を計算して月額見込賃金額が記載されています。時間給、月給にかかわらず年間支払総額は同額になるため次回契約から変更をお願いしたことがありました。

【まとめ】
 この会社は造船所の構内下請です。造船所では稼働効率を高めるため、年末年始、5月の連休とお盆と夏季休日などで連続した休みを取るため1年単位の変形労働時間制を取っているのが普通です。しかしこの会社は1か月単位の変形労働時間制とされています。勘繰った考えをすると割増賃金を支払いたくない為の対策かもしれません。外国人に対して「わが社では、1カ月に働いた時間を平均して1週間40時間以内に収まっていれば残業代は払わない決まりとなっています。」と説明すれば、納得せざるを得ないのではないでしょうか。別の造船所の下請では、「月曜日から金曜日の間が40時間以内の労働であれば各勤務日の8時間を超えた部分また土曜日曜の労働も残業扱いにはならない。」と説明しており、これを信じている技能実習生に正しい計算方式を説明して納得させるのに苦労したことがありました。また、今回の例の「所定超25%、所定休日25%」の記述について入国管理局への添付書類にすぎないと言った感覚で協同組合に任せているため内容については知らないとの回答があるかもしれませんが、これもよく聞く話です。
 今回の例は帰国した後の申告ということもあり、時効の問題がかかわってきます。労働基準監督署は、本人からの手紙に労働基準法違反について具体的なことが書かれていないため申告とはならないので明確に記載したものを再度提出してもらいたいと言ってきました。最初の手紙には交渉窓口に私が指定されているため詳細な内容はこちらから伝えればいいのではないでしょうか。帰国後、窓口も指定できず、手紙を出した人達は不満を述べただけと無視されては可哀想です。申告する弱い立場の労働者の気持ちを汲んで前向きに取り組んでいただきたいものです。

(変形労働時間制の概要)
 
1か月単位の
変形労働時間制
1年単位の
変形労働時間制
1週間単位の
変形労働時間制
 労使協定
就業規則に定めれば
労使協定不要
 労使協定の監督署への提出
 特定の事業・規模のみ
なし
なし
○(注3)
労働時間 ・ 時刻
 休日の付与
週1日または
4週4日
週1日
週1日または
4週4日
 1日の労働時間の上限
なし
10時間
10時間
 1週間の労働時間の上限
なし
52時間
40時間
 1週平均の労働時間
40時間(注1)
40時間
 時間・時刻は会社が指示
 予め就業規則などで時間・日を明記
 
 就業規則変更届の提出(規模10人以上)
○(注2)

 (注1)特例措置対象事業場 44時間 (10人未満の@商業、A映画・演劇の事業、B保健衛生、C接客娯楽)
 (注2) 10人未満も就業規則に準ずる規程必要
 (注3)30人未満の小売業・旅館飲食店のみ ※1年変形は運用の仕方でいろいろ条件が付きます。