労働者と労働組合


外国人実習生の労組脱退要請 群馬の受け入れ団体東京新聞 2018年1月22日 朝刊
 フィリピン人技能実習生(25)が職場の暴力に耐えかねて労働組合に加入したところ、実習生の受け入れ窓口となった監理団体「AHM協同組合」(群馬県高崎市)が労組にファクスを送り、実習生を脱退させるよう求めたことが分かった。実習生にも労組加入の権利があるが、実習生を保護する監理団体などが役割を果たしていない形。労組は不当労働行為として神奈川県労働委員会に救済を申し立てた。
 ファクスには公益財団法人「国際研修協力機構」(JITCO)などがAHMに対し、労組加入者は実習先が見つからないとの見解を示したとも記載。これが脱退要請につながった可能性もある。(以後略)

 労働組合法の第3条には「この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者をいう。」と書かれており、技能実習生を始め外国人であってもこの規定に定める要件に該当すれば日本人の労働者と同じように労働組合に加入することができます。しかし労働者としてではなく個人請負という形態で働かされている外国人も少なくありません。私の周りでは造船業で働く外国人がいます。労働保険料や社会保険料を会社が負担したくない為にこうした方法を取っていますが、もし労災事故が発生したり、私傷病で障害厚生年金に該当する事由が発生したら、労働者が労働基準監督署や年金事務所に駆け込めば遡って適用を求めることが出来ます。そうすれば会社は2年間遡って保険料を負担する必要が生じますし、労災保険ではペナルティーも課せられることになります。当然労働者も社会保険料については負担せざるを得ませんが、会社は立替払いをしたうえで返還を求める交渉を労働者とせざるを得まず退職後であればかなり難しい問題であると言えます。他の例をみると育児休業の問題があります。出産に当たっては健康保険から出産手当金が支給されますし、育児介護休業法により子供が2歳になるまで育児休業も取得することができます。その期間、雇用保険から育児休業給付金が支給されます。そうすると社会保険・労働保険に意図的に加入していない会社の労働者がこの問題提起をすれば当然会社は遡って加入させられることになります。目先の費用負担に追われると大きな火傷を負わざるを得ないことになります。労災保険の場合には保険給付に対するペナルティ-や損害賠償の問題も絡んで来て会社の存続自体が危うくならざるを得ないことになります。目先の利益と中途半端な知識が危機管理意識を忘れた自分勝手な解釈で墓穴を掘ってしまうことになります。それ以上に問題なのは、それまで労使間にわだかまっていた感情から労働者の退職・解雇の問題、またその後の感情的なもつれから退職に繋がり事業継続の危機が来る可能性も低くないと言えます。こうした問題提起の方法として、直接行政機関に訴える方法と労働組合に加入して団体交渉によって解決する方法とがあります。労働者にとっては夜間でも休日でもまた問題解決後も相談に対応してくれる労働組合の方が利用価値は高いはずです。またある面会社にとっても労働組合との交渉の中で落としどころを模索できるためこちらの方がメリットが大きいといえます。同時に、将来的にも労働組合との関係の中で財政状況との兼ね合いで労働条件等の改善も図ることができ、行政機関に飛び込まれることもなくなります。そうした前向きな方向で考えれば労働者全員を労働組合に加入させるユニオンショップ協定の締結も一考の余地があると言えます。

 この新聞記事で問題となっているのは、技能実習生の勤務先変更の問題です。おそらく受け入れていた会社で残業代未払等が発覚して入管から受入停止処分を受けたか、何らかの理由で解雇強制帰国の問題が発生したためと考えられます。よくある問題ですが移籍先を見つけることはなかなか難しく泣く泣く帰国する例が少なくありません。フィリピン人の場合、フィリピン大使館内にあるPOLOに連絡して、POLOから指導してもらうのがベストといえます。これはPOLOの証明書が無いと実習生を受け入れることができないと言う背景があります。勤務先変更については入管は協同組合に勤務先があれば在留を認めるが、無ければ帰国せざるを得ないと協同組合に伝えるだけの話しで、JITCOにしても斡旋をするわけではありません。協同組合もどこまで本気で受け入れ先を探すのでしょうか。問題を提起した実習生から周りに残業代の問題や労働組合の存在が広まるのを防ぎたい気持ちが第一の優先事項であるため、労働組合に加入しているかどうかが問題ではなく、「賃金関係の労働問題を起したこと。労働組合に加入していたこと」が問題となるはずです。そのためこの協同組合がFAXをしたように労働組合を辞めたら受け入れる会社があるかというとそれはあり得ない話でしょう。コンプライアンスを守っている会社であれば労働組合がついていようがいまいが、労働法を理解している技能実習生がいても問題は無いはずです。こうしたFAXが出ると言うことは問題のある会社ばかりが技能実習生を受け入れていると言わざるを得ないのかもしれませんし、協同組合の「自分の事業を妨害する労働組合憎し」の感情表現と考えられます。移籍先が見つからなかったのは労働組合に加入したからだと実習生達に吹聴する宣伝材料ともなるのでしょう。危機管理意識の欠如した理解不能のFAXとしか言いようがありません。

 次に「労組は不当労働行為として神奈川県労働委員会に救済を申し立てた。」とある部分については疑問があります。労働組合法第7条第1項で「労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること。」また第2項では「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。」など使用者が正当な組合活動を妨害することを不当労働行為と定めています。当然労働契約の当事者間の争いについての問題であって、協同組合は部外者であり、団体交渉の対象ともなりません。そうすると労働委員会はこの訴えは労働組合法の対象外として門前払いすると考えられます。大阪府労働委員会のHP「H/T事件(平成26年(不)第30号事件)命令要旨」が同様の事例で労働組合は使用者にあたらずとして却下しています。
(http://www.pref.osaka.lg.jp/rodoi/meirei/2630.html) 

 もし協同組合が使用者であるとすれば職業安定法の労働者供給事業に該当して技能実習制度は成り立たないことになってしまいます。しかし現実問題として管理費を徴集していることから労働者供給事業に違反していると考えられます。そうすると労働組合としては名誉棄損なり組合活動妨害としての慰謝料請求訴訟に進むのが筋ではないかと思われます。また移籍先が見つからず帰国させられたとすれば、協同組合相手に管理機関としての管理機能を満たしていないことを理由として残りの期間の賃金と慰謝料の請求求めることになると考えます。ただ3年契約で来日しているため残りの期間の賃金補償の義務は本来会社にあるため賃金補償は会社に、その期間を全うさせることが出来なかった協同組合には技能実習生の被った精神的損害に対しての慰謝料の支払い求めると言うことになるでしょう。こうした問題は訴訟に持ち込まなくても解決が図れるように技能実習生法で明確にしておかなければ技能実習生は何時までたっても使い捨て労働者の地位のママ留まらざるを得ないと言えます。