モリコーンを使用した新しい痔核硬化療法
〜手術によらない注射による日帰り治療法〜

広島 中西医院 中西 幸造


 平成18年2月12日付読売新聞に痔核の注射療法が大きく紹介されていました。実施医療機関として紹介され、全国でもまだ珍しい時代から、注射による硬化療法を行われてこられた中西先生に詳しい説明をお願いいたしました。

 
はじめに

 肛門疾患のなかでもっとも頻度の高い内痔核の治療は、従来から手術療法がもっとも確実な治療法であり、入院のうえでの治療が普通であった。近年盛んにディサージャリーが行われるようになり、肛門疾患もその例外ではない。しかし、痔核の結紮・切除手術は麻酔および術後の出血・疼痛などの問題がありあまり受けたくない治療法である。そこで切らずに治せる痔の治療として新しい硬化療法が登場してきた。この治療は守永によって開発されたモリコーンという肛門鏡を使用しての硬化療法であり、その効果は従来の痔核結紮・切除手術に劣らないと考えている。

硬化療法とは

 痔に対する硬化療法も歴史は古く、その元型である痔核の注射療法はわが国でも、古くから行われている。その方法とは外痔核あるいは内痔核に濃厚な腐蝕性の薬液を注射し、10日前後にそれが壊死を起こし脱落したあと肉芽がもって創面治癒を促す方法でnecrotherapyと称するものであった。1869年にイギリスのJohn Morganが iron persulphateを使って内痔核の注射療法をはじめておりこれらがSclerotherapyの始まりであろう。1871年には硬化療法はアメリカにも普及し、1894年にはシカゴのEdmund Andrewsが3295名の硬化療法患者のレポートを報告している。この中には合併症として多くの痛みや潰瘍を引き起こし、9名の死亡例があったと報告している。この多くが無資格医師や未熟な医師による硬化療法が原因であることを警告していた。その当時アメリカのKelseyや英国のEdwardsは5から7%の石炭酸の水とグリセリンでの硬化療法を推奨しており、合併症が少ないと報告している。1913年にE.H.Terrellは5%のQuinineとurea hydrochlorideを注射剤に用いて内痔核に対しより安全で画期的な効果のあったことを報告した。1926年Albrightは5%フェノールを用いた注射療法をおこない、これがもっとも安全でしかも効果のある硬化療法の基礎になった。わが国でも注射療法が導入されたが、大学や大病院ではもっぱら手術が主体であり、注射療法は低い評価しかなかった。注射剤には石炭酸グリセリン、抱水クロラール、アルコール、マグネシン、次硝酸蒼鉛、三塩化酢酸水、エルゴチン、尿素、塩酸キニーネ、ウレタンなどが使用されていた。1971年PAOSCLE(5%phenol−Almond oil)が痔核硬化療法のために開発され、現在まで広く使用されている。
 注射の方法は肛門から注射針で痔核に直接に注入する手段でしかなかったが、1993年Jaspersenらが1度の痔核に対して超音波内視鏡によるドプラーコントロール下の硬化療法を行い通常の硬化療法より非常に良い成績のあったことを報告している。日本では1992年1月に守永によりドプラー血流計を応用したモリコーンが開発され、1993年10月から内痔核の治療に臨床応用された。当初はモリコーンを上痔動脈を結紮する術式に用いられていたが、モリコーンを使って痔動脈周囲に硬化剤を注入する硬化療法に応用が拡大された。当院では平成10年9月以来、痔の外来治療にモリコーンを使った硬化療法を導入して、その効果が従来の痔核根治術と遜色ないものであり、患者の痛みや合併症がほとんどなく安全に施行できるものであると確信している。

 
硬化療法の器機

 モリコーンは超音波トランスデューサーが埋め込まれたプローブと照明ならびにドプラー信号の拍動音を増幅させる器機本体部で構成される。モリコーンのプローブの筒の部分は透明なアクリルでできており肛門内に挿入しても痛みがないサイズと形状をしている。先端に豆電球があり、肛門内の観察が容易にできる。筒の側面には米粒大のドプラートランスデューサーが取り付けられており、肛門の痔動脈の上にくるとシュッ、シュッと拍動が聞かれる。このトランスデューサーのすぐ上に治療用の窓が開けてありここより硬化剤の注入ができ、痔動脈の結紮や粘膜縫合の針をかけることができる。モリコーンは日本とアメリカの特許を取得している。

 
硬化剤

 硬化療法で通常用いている硬化剤は現在、パオスクレーとジオンがある。パオスクレーは1アンプル5mlに250mgのフェノールを含有しアーモンド油が添加されている。ジオンは1995年開発され、臨床治験がすみ2004年7月9日に製造承認が取得され2005年3月末には発売されている。中国の消痔霊を改良したこの硬化剤の主成分は硫酸アルミニウムカリウムで、収斂・止血作用ならびに起炎作用を有している。痔核局所の投与で血流遮断による止血、無菌性炎症を介した持続的な線維化により粘膜層および粘膜下層への癒着と固定が促進され非観血的に痔核組織の硬化退縮させることで脱出と出血が消失すると考えられている。痔核の第3,4度の症例に4段階投与法で倍希釈されたジオンが注射され、投与28日後には16例中全例の脱出、排便時の出血と痔核の大きさの縮小がみられていた。ただしこの製品も濃度と量をまちがえると合併症や重篤な後遺症を残す危険があるので全国の中で十分経験を積んだ肛門科医のみの使用が限定されている。

 
硬化療法の手技

 浣腸や絶食の前処置はまったく不要であり、外来の診察ベッドを使用する。通常の硬化療法では麻酔は必要としないが、痔核の嵌頓症例には仙骨硬膜外麻酔か腰椎麻酔を必要とする。患者を右側臥位にて、キシロカン・ゼリーを充分塗布したモリコーンプローブを肛門内に挿入する。モリコーンを肛門内で回転させつつ、内臓されたドプラートランスデューサーで痔核動脈血流音を探知する。通常3から4箇所の痔核動脈が探知され、先を曲げたカテラン針でモリコーンの治療用窓から硬化剤のジオンを5mlから10ml粘膜下に注入する。1回の治療で硬化剤を探知された痔動脈周囲および痔核上極に3から4箇所注入する。

 
術後の注意点と経過

 治療後は約30分の安静を目的と感染防止のため抗生物質の点滴を行う。 出血や痛み、気分不良がなければ帰宅して、入浴・家事・軽作業の仕事も可能である。翌日、受診してもらい肛門内の痔核の変化や合併症の有無を診察する。その後は1週間毎の通院で経過観察し、痔核の症状が残存あるいは他覚的に痔核が認められれば第2回目の硬化療法を初回より2週間から1ヶ月後に施行する。現在は硬化療法を2回は必要と考えており、2回で1クールと考えている。経過は2から3ヶ月ごとに外来通院で診察するが、再発が疑われたらまた硬化療法を1クール行うこととしている。

 
まとめ

 モリコーンを用いた硬化療法と従来からの硬化療法を比較検討はしてないが、他者の報告から考察してモリコーンを使用することにより再発率が減少していると思われる。この理由はモリコーンを使用することで硬化剤を正確に痔動脈周囲と痔核上極に注入できることによるものと考える。痔核の中でも3度、4度のひどい脱出には硬化療法単独では非力であったが、現在ではモリコーンの内部で痔核および粘膜縫合するBraatz法との併用によりほぼ100%の改善をみている。これは痔動脈の血流遮断と副血行路の再生の遅延ならびに結紮による固定での吊り上げ効果が相乗されたものと考える。
 近年、肛門領域の治療もデーサージェリーの時代をむかえており、痔瘻、裂肛を含め内痔核も患者のQOLのためさかんに行われつつある。内痔核の手術も当院ではデーサージェリーでやっているが、やはり術後の疼痛や出血の問題があり適応を選んで行う必要がある。内痔核の手術は現在、結紮・切除術が主流であり、麻酔を必要とし術後には排便時の痛みのために数日間はやはり就労は不可能であった。これに反して、モリコーンを利用した硬化療法は無処置、無麻酔で外来で5分から10分で処置ができ、その直後から歩行でき軽作業や日常業務に支障なく活動できる。従来の薬で治らなかったら手術という治療法のなかに、中間ともいうべき硬化療法が加わったわけであり、痔に悩む患者には治療の選択肢が広がったということがいえる。是非この新しい硬化療法は薬物治療で治らなかった痔核患者に手術に先立って選ばれるべきものと考える。


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