本 の 紹 介


ピエタ
大島真寿美 著 ポプラ社 1500円



 ピエタというとサンピエトロ大聖堂にあるミケランジェロのピエタ像を思い出します。わが子が死んだことの悲しみと新しい世界の始まりへの思いを内に込めた静謐な雰囲気に自然と頭を垂れてしまいます。ピエタとはイタリア語で哀しみや慈悲を意味することだそうですが、この本の題名のピエタは捨てられた子供たちを育てているピエタ慈善院を意味しています。この本の背骨となるテーマは生きる喜びと他への思いやりや社会ととのかかわりではないかと感じています。物語は、ヴェネツィアにあるピエタ慈善院で音楽を教えていたビバルディの楽譜に学生が詩を走り書きした一枚の古い楽譜を探すことを通じて様々なことが掘り起こされていきます。静かな文章で淡々と進んでいき、時間の飛躍や新しいことが突然入り込んできても違和感もなく自然に受け入れながら何時の間にか引き込まれて読み進んでいきました。登場人物は全て善人で、前を向いた生き方をしています。全ての人が今を精一杯楽しんで生きています。取り立てて慈悲、慈愛といったものは表に出てくるわけではないのですが、物語の進むのに併せてモザイクが組み立てていかれ、慈悲、慈愛の物語として完成していきます。最後の場面はこれまでの問題が全て解決し楽譜の裏に書かれた詩が歌いあげられ一人の死が悲しみとともに新しい生活への賛歌のように高まっていきます。最初に触れたピエタ象のように悲しみとともに私たちを暖かく包み込んでくれるお話です。ただピエタ像と違うのはもう一歩踏み込んでアメリカ独立を描いた    の絵を思い浮かべるような力強さ最後に感じさせてくれます。
 私たちも一生懸命生きればいろいろな情報網が出来上がっていき、ジグソーパズルのように思いもかけなかったような絵ができあがっていきます。自分が動くことで新しい世界が開けててくることを教えてくれる小説として読んでみるのもいいかもしれません。