本の紹介

1.忘れられた日本人     宮本常一著     岩波文庫(青164-1)  660円
                    

 この本は、1960年に出版され、1984年に岩波文庫に入り、昨年第49刷が出された隠れたベストセラ−とでもいえるものですが、今年のお正月、本屋に平積にしてあったのを見て、やっと読んでみることにしました。

 都市に人口が集中し、核家族化が進み、山間部まで、マスメディアが浸透し、村社会、地域社会が崩壊した現在においては、著者が報告している内容は昔話のように感じられるかもしれません。田舎生活を知らない私自身にもこのような世界があったのかとはピンとこないのですが、年寄りの話しの端々に似たようなことを聞いた記憶があります。

 また、農村に生きていた人々は土地に縛られて、村落の外の世界とは切り離されていたかのように考えていましたが、この本を通じてそれが全くの誤りであり、男女を問わないしたたかさ、行動力、行動半径の広さに関心させられます。「女の世間」では、「世間を知らん娘は嫁にもらいてがのうて、あれは竈の前行儀しか知らん」といわれるので四国や出雲など自分の好きなところに旅に出る話し。また旅の途中のもらい子、旅に出たときには2円しかもっていなかったけれど、帰ってきたときには5円に増えていたなど、今では考えられないシステムが根付いていた様子などいろいろなことが報告されています。また、「世間師」と呼ばれる若いころ村を出て、全国各地を旅して晩年ふるさとに帰ってきている人の経験談など非常に興味深いものがあります。

   この本に報告されている地域社会は、今では、サ−クル活動やボランティア活動に置き換えて考えることもできますし、「女の世間」も古き良きシステムはなくなったけれども、海外旅行などの形に変わってきていると考えるのもあながち当て外れともいえないのではないでしょうか。

 学校で勉強した歴史が対象としていない民衆の生活誌が克明に記録されていますので、一読してみてください。