本 の 紹 介


怖い絵 泣く女編 中野京子 著
角川文庫  667円



 絵画は本来私たちの自然への畏敬の念やこころを和ます目的で描かれてきたものだと思います。自宅にかける絵画にしてもながめて楽しめるものでなければいけないでしょう。しかし一方では丸山応挙の幽霊の絵や、月岡芳年のようなおどろおどろしい浮世絵もあります。美術館の企画展などでの解説がなければそれらはどのような目的や意図を持って描かれたのか知ることはできません。普通は数寄者が一人楽しむためのものでしかありません。明らかな意図の下に描かれたものとして香月泰男のシベリアシリーズがあります。こうした明確な意図を以って造られた方が少ないでしょう。聖書や古典に材をとったものは当然のこと、肖像画にはその人の物語があります。
 この本が「怖い絵」として扱っているのは、ヨーロッパの古い有名な絵であり、自宅に掛けても何ら問題のないものがほとんどですが、その画面に描かれている人物の物語を紐解けば怖いお話がありますよといったものです。西洋の絵にはこうした背景を知ったうえで見るとただ絵を鑑賞することに加えてより興味を引かれるのではないでしょうか。この本で取り上げている絵の一つにルーベンスの描いたパリスの審判があります。ギリシア神話に出てくる物語で多くの画家が取り上げておりひろしま美術館にはルノワールのものがあります。絶世の美女を手に入れることを条件に一番美しい女神はビーナスだとパリスが判定します。この結果10年にわたるギリシア連合軍とトロイの戦いが始まりさまざまな不幸が発生します。こうした物語に導いてくれるのがこの本です。のんびりとひろしま美術館のカフェで読むといいかもしれません。