本 の 紹 介


パレオマニア 〜大英博物館からの13の旅
  池澤夏樹 著 集英社インターナショナル  2500 円


 人間は想像するというか、思いを膨らませたり、空想したり、妄想したりすることを忘れてしまえば無味乾燥な人生を送ってしまうのではないでしょうか。美術品にとどまらず、身近にあるものでもそれぞれ何かしらの思いはあるといえます。ましてや美術品となるとそれに何を求めるか、また限りない妄想を膨らませてしまいます。私にとっては価値があるかどうかよりも何時の時代のものか、説明された時代が確かなのかというところから様々な妄想が広がっていきます。なんでも鑑定団で本物であると思っていたら贋物であった、あるいは価値あるものであると妄想していたら全く価値が認められず、出場者を笑いものとして眺めるのは楽しい話です。しかし家族の顰蹙を買いながらも物を集めるという行為は大切なのではないでしょうか。本物であるのかどうか、何時の時代に作られたのか、それをどのような工程で造ったのか様々な関心が呼び覚まされることほど楽しいことはありません。この著者も同様な性癖を持っているようですが、所有するということには淡白なようでありながら、美術品に対する強烈な思い入れは凄まじいものがあるようです。
 この著者は、大英博物館に所蔵されているさまざまな美術品から自分の琴線に触れたいくつかのものを選び、自分の所蔵品として博物館に管理委託しているという立場からそれらが造られた土地に旅をし、そこの専門家に話を聞いて回り、それらの造られた背景を理解していこうと努めます。こうした美術愛好家となれれば最高かもしれませんが、なかなか物欲を去るのは難しいといえます。私自身、やきものの里を訪ね、そこで作陶している人たちと話ができる楽しさに時間を忘れてしまいます。それぞれの造られた土地に住んで、真摯に制作に励んでいる人と話すことで思いもかけない発見があります。この本の著者の類希な行動力と文章に導かれながら文明探索の旅に出てみてください。