本 の 紹 介


一刀斎夢録   浅田次郎 著  文芸春秋  上下各1,600円


 映画をみて良ければその帰りに原作を買って読むということが多いのですが、映画と原作では大筋では同じとしてもそこに盛り込まれた内容は大きく違っています。より面白く、より感動的に創り上げるのが映画かもしれません。しかし感情に訴えるところが強調されすぎると今一つ作者の意図したところは伝わってこないように感じてしまいます。「最後の忠臣蔵」がそうでした。原作よりは映画の方が良かったのですが、この「一刀斎夢録」が映画となったらストーリーを追うだけで終わり、作者の意図したところが伝わるのかと考えてしまいます。
 主人公は新撰組三番隊長で居合い抜きの達人であった斎藤一です。一刀斎のいわれは斉藤一をひっくり返してつけたあだ名です。その一刀斎が幕末から西南戦争までの生き様を通して剣の奥義を近衛将校梶原中尉に伝授していくという体裁を取っています。
 一刀斎は100を超す命を奪い取る戦いを生き抜いてきた秘訣は「一に先手、二に手数、三に逃げ足の速さ、他には何もない。」と言っています。しかし、剣の奥義はその先にあり、「もはや技でもなく、心でもない。勝つると負くるの正体を知る者こそが、天下第一等の剣士なのだ。まずは敵に相対するとき。面籠手は無きものと思え、竹刀を真剣と信じよ。さすればいつか、勝つると、負くるの正体が、おのずと見えてこよう。」といっています。その境地を悟ったのは命を捨てようとしながらも自分と同じ心境の剣士の命を思わず奪ったときの相手の最後の言葉「かたじけのうございました。生きてください。」でした。