本 の 紹 介


人形町酒亭きく屋繁盛記    志賀キエ・真二 著  草思社   1500円


 食べ物やお酒の嗜好は人それぞれで同じ考えを持っている人は意外と少ないし、本にしても自分の期待に沿うようなものはなかなかありません。まして、このような一軒のお店のことを書いた本になると難しくなります。しかし私の仕事上、地道に営業し、成功しているお店には、派手に活動しているお店と違い大いに参考になる面が多々あります。著者の女将さんは「私は自分のしたいことを全力でやってきました。自分のしたいことを押さえて人様のために何かをしてきたという時期は、ふりかえってみて何もありません。」と言っています。自分の思いを貫き通すということは当然お客様に出す料理は勿論、調度品にいたるまで気を配って行くことを意味しています。またお酒の選び方にしても「私の試飲のしかたは、まず冷やして飲みます。一口飲んでみて、まず最初の評価をします。そうしたら、少し放っておいて、一仕事した十五分後に飲む、さらに30分後に飲む、一時間後に飲む、数時間後に飲む、というふうに、出来るだけ一日のうちに試してみる。」とそのお酒が店に出せるのか否か、出せるとしたら今すぐか1年寝かせるかを判断されています。お客様に迎合するのではなく自分の信念を貫くことこそがサービスに繋がっています。人を採用するにしても、お客様との接し方にしても参考になりますが、そうしたことを抜きにしてお酒好きには楽しい本です。