本 の 紹 介

1.猫を抱いて象と泳ぐ  小川洋子著  文藝春秋  1780円


 先日、レッド・クリフという映画を見たことから吉川英治の三国誌を読みました。大きな時代の流れの中での人間群像また政治の駆け引きなど面白い内容でした。歴史の大きく動く時代を描いた司馬遼太郎などの小説も心を沸き立たせるものがありますが、この「猫を抱いて象と泳ぐ」にはそうしたものはないのですが、静かな、心地の良い思いを感じさせながらもいつの間にか読み続けていました。ストーリーの展開にはとりたてて大きな波風はなく、淡々と展開していきますが、読み手の側にいろいろな思いを抱かせるというか、物語の情景を空想させるのか、なにかしら暖かく包まれた雰囲気の中に、心地よく引き込まれていきます。こうした感じを与えてくれる小説に始めて出会いました。
 簡単な内容を紹介すると、チェスの指し手の話です。リトル・アリョーヒンと呼ばれるチェスの天賦の才能をもった子供がチェスを憶えてから亡くなるまでの物語が綴られていきます。途中から、“リトル・アリョーヒン”と呼ばれるチェス指し自動人形が登場します。主人公は、チェスを普通に指すのではなく、チェス盤の下に隠れてチェスを指すことから、“リトル・アリョーヒン”の操作を行うことになり、そのチェス盤の中から対戦者の人生を見つめ、勝つことではなく、そのときそのときの最善の棋譜を残すことに全力を尽くしていきます。そうした考えさせられる事柄は横に除けて、ストーリーの流れに身を任せて楽しみたい本です。「素晴らしかった。」の一言しかありません。