本の紹介


1.「告 白」  湊 かなえ著  双葉社  1400円

 第二次世界大戦の敗戦以来、日本の社会は復興を遂げ、世界でもトップクラスの経済的発展を遂げ、また成熟した社会に入ったように思います。ここまで来る過程において、世界中が科学の進歩を享受し、それに依存した社会をつくり上げ、当然そこでは、古き良きものが失われると同時に新しい文化が創られてきました。こうしたことは過去においても繰り返し行われ社会が進歩してきたので当然のことといえます。しかし、昨今のニュースを見たり聞いたりしているとこれまでとは全く違った世界が近い将来に出現するのではないかと感じざるをえません。人間が繁栄しすぎた結果の自壊現象の始まりなのでしょうか。無差別殺人、家族に対する殺人、放火など感情もなくゲーム感覚で行われているとしか思えません。また、エイズや鳥インフルエンザ、IP細胞、他人の身体を借りて子供を生ませる、臓器売買また自然環境破壊からのしっぺ返しなど人間に許されている領域を越えた結果なのかもしれません。

 一番気持ち悪いのが命に対する感情が失われてきていることです。この小説はこうした不安を感じさせるいまの日本社会を中学校を舞台に、その学校の先生の4歳の子供のプールでの事故死を通して描いています。この死に関係する6人にそれぞれの立場から静かにそこに至った経過・状況を気持ち悪いほど淡々と語らせていきます。ミステリー小説ですからいろいろな伏線張り巡らされていますが、第1章で子供を亡くした教師に語らせていますが、これと似たり寄ったりの状況や人間が私たちの周りに増えているのかもしれませんし、また自分の家庭の中も例外ではないのかもしれません。こうした状況から思い出されるのが、ギリシア悲劇で扱われる人間としての分を超えた思い上がりです。思い上がりなら感情があるからまだ救いようがありますが、そうではなく人間としての感情を育んでいけない、感情を喪失した社会の出現ですから背筋が凍える思いがします。