本の紹介


1.なぜ君は絶望と闘えたのか 〜 本村洋の3300日
門田隆将著  新潮社  1365円

 光母子殺人事件の判決が今年の4月にあり、死刑判決が下されたことを知らない人はいないと思われるほどこの事件は私たちの関心を引き付けてきたといえます。一人戦ってきた本村さんをテレビでたびたび見かけ、一貫してブレの無い理路整然とした話を聞いて感動を覚えていました。しかし、その背後に隠されている彼の心の動き、また彼を支えてきた人たちのことまで気づくことはありませんでした。この本には9年間のこの辺りのことが明かされています。死刑を巡ってはさまざまな立場がありますが、被害者の感情を無視したきれいごとの世界で論じられてきているのではないでしょうか。死刑廃止を論ずるうえで無視できない本といえます。
 ただ、この本は、死刑廃止云々の世界の話との関連ではなく、自分の生き方を考える上で、また事件が発生した日から本村さんとその親族への配慮を怠らなかった会社のあり方を読み取ってもらいたいと思います。「君は、この職場にいる限り、私の部下だ。その間は、私は君を守ることができる。裁判は、いつかは終わる。一生かかるわけじゃない。その先をどうやって生きていくんだ。君が辞めた瞬間から、私は君を守れなくなる。新日鐡という会社には、君を置いておくだけのキャパシティはある。勤務地もいろいろある。亡くなった奥さんも、ご両親も、君が仕事をつづけながら裁判を見守っていくことを望んでおられるんじゃないか。」「この職場で働くのが嫌なのであれば、辞めてもいい。君は特別な経験をした。社会に対して訴えたいこともあるだろう。でも、君は社会人として発言していってくれ。労働も納税もしない人間が社会に訴えても、それはただの負け犬の遠吠えだ。君は社会人たりなさい。」こうした発言や行動が当たり前に取れる会社の風土は一朝一夕にはできないと思います。
 バスの中でのんびり読むつもりでしたが、事務所に着くなり続きを読み始め一気に読んでしまいました。皆様も同じだろうと思います。それだけ凄まじいパワーがこの本にはあります。