本の紹介


1.寡黙なる巨人  多田富雄著 集英社  1500円

 著者は、世界的な免疫学者で、以前、「免疫の意味論」という本を出されています。自分とは何かを考える上で免疫システムからの考え方にショックを受けました。鶏の胚に鶉の脳を移植したり、羽を移植して孵化させるとどうなるかというものでした。誕生後鶉由来の脳や羽は免疫の攻撃を受けて殺されてしまうというものです。当然、脳が死ねば身体自体が死んでしまうので、一つの身体を自分と規定する脳を自分でないものとして攻撃してしまうとなると自分を規定するものは何になるのか不思議な思いがしました。

 この本は、先生が脳梗塞で倒れ、右半身麻痺と嚥下障害や言語障害で寝たきりになった闘病の記録です。自由に動き回っていた人が、突然、身動きが取れなくなり、言葉も発することもできず、水も飲むことができず、それでも意識ははっきりしているもどかしさ、リハビリの大変さ、医療行政の問題などに気づいていったことなどが述べられています。はっきり意識のある自分と、自分でありながらも自分の意思どおりに動くこととのない自分の身体がリハビリを通じてわずかずつ改善していく喜び。しかし、意識と肉体の乖離。自分であるが自分でないもう一つの自分との関係の記録に背筋が冷たくなるのを感じました。