本の紹介


1. 骨董裏おもて  広田不狐斎 国書刊行会 2,940円

 明治41年に骨董業界に入った広田不狐斎の書き綴った文章を集めた本の復刻版として今年2月に刊行されたものです。骨董好きには東京日本橋にある「壺中居」の創業者として、また国立東京博物館に一群の東洋陶磁コレクションを寄贈された一流の古美術商として有名な方です。今、大阪の東洋陶磁美術館で開催中の「美の求道者・安宅英一の眼 - 安宅コレクション」に出品されている重要文化財に指定されている定窯の鉢は不狐斎旧蔵と記されておりその美しさに見とれてしまいました。わが国を代表する古美術商であった著者の修行時代から骨董業界の様子、特に、戦前の中国陶磁の探索の様子など興味深い内容が豊富に記されています。

 どんな世界においても一流になる人の生き様は参考になります。生涯を通じて一つの世界に没頭して仕事を貫きとおすことが出来たのも厳しい修行時代を通じていい主人と出会い、また良いお客様や同業者との出会いがあったからだと思います。こうした話題の一つとして主人の名代として業者の会に行ったとき話が記されています。「品物を拝見したところ、何を聞いても値台が高くて自分の相場にはテコに合わず、一緒に行った同業者に相談したら、この品物ならよかろう、損をすまい、と言うので二三点安い物を買い求めて、お義理を済ませて帰りました。早速この由を主人に報告して品物を見せると、主人はそれを見るなり烈火の如く怒って怒鳴り、誰がこんな安物を買って来いといった、私が行けないから代わりに遣ったのを忘れて、自分の気持ちで詰まらぬ安物を買い込んで来た。損得をいうのではない、私の店として恥ずかしからぬ品物を一点でもよいから、主人の気持ちでなぜ買ってこなかったのだ、これは番頭の買い物だ、と目玉の飛び出るほど叱られました。」