本の紹介

1.ユダの福音書を追え  ハ−バ−ト・クロスニ−著
日経ナショナルジオグラフィック社 1900円
                       

 先月の新聞に、イエスを売り渡したイスカリオテのユダによる福音書が発見解読され、そのことについてナショナル・ジオグラフィックの5月号に掲載されるとの記事があり、発行を心待ちにしていたら、標記の本も同時に発行されていました。ただ、この本も雑誌の記事も福音書本文は掲載されておらず、1970年代にパピルスに書かれた福音書が発見された後、紆余曲折を経てスイスにある財団が購入し、解読されるまでの経過を追ったものでした。推理小説を読んでいるような面白さを感じるとともに、このパピルス文書が売り手をさがしている数十年間に劣化していく様子などを見ていると、これ以外にも重要な史料が個人のコレクションとして仕舞い込まれ学術研究を妨げていることも多々あるのではないかと感じます。
 この福音書にはユダは金のためにではなく、イエスの指示によって裏切らざるを得なかったと書かれているそうです。新約聖書に収録されている福音書は4つありますが、これらにしても数十あったといわれる福音書のうちロ−マ教会の教理に適したものを正典として編集していますから、存在のみ知られていた福音書が発見され、ユダの行動がイエスの指示であったとする福音書が発見されたからといってキリスト教の考え方が変わるものでもありませんが、新約聖書の研究者にとっては大いに関心があるといえます。
 イエスは、最後の晩餐のときに、ユダが裏切る旨、弟子たちに知らせているのですから、発見された福音書の内容の方が自然ではないかともいえます。私自身も、ユダの裏切りがあったからこそイエスはキリストになれたのであり、天国で二人は酒を呑みながら思い出話に花を咲かしていると思っていましたので、この福音書を読める日を楽しみにしています。とはいっても、6月上旬に「原典ユダの福音書」として出版されるそうです。

 「はっきり言っておくが、あなたがたのうちの一人がわたしを裏切ろうとしている。」弟子たちは非常に心を痛めて、「主よ、まさかわたしのことでは」と代わる代わる言い始めた。イエスはお答えになった。「わたしと一緒に手で鉢に食べ物を浸した者が、わたしを裏切る。人の子は、聖書に書いてあるとおりに、去って行く。だが、人の子を裏切るその者は不幸だ。生まれなかった方が、その者のためによかった。」イエスを裏切ろうとしていたユダが口をはさんで、「先生、まさかわたしのことでは」と言うと、イエスは言われた。「それはあなたの言ったことだ。」(マタイ26・21-26)