本 の 紹 介

昔しばなしの謎 ―あの世とこの世の神話学」

古川のり子著  角川ソフィア文庫 880円

 テレビに龍に乗った男の子のアニメと「坊やよい子だねんねしな/いまも昔も変わりなく/母のめぐみの子守唄/遠いむかしの物語り」の歌が流れると和やかな気持ちになりついつい画面に見入っていました。昔話は数限りなくあり、また同じ題材のものが地域によっては形を変えて語られてきています。いろりを囲んだ団らんの中で日々の生活のひとコマやお寺の説教で聞いた話しや祖先から伝えられた信仰や倫理的なものがないまぜになって語られた中から生まれたものかもしれません。そうであればその物語の背景や登場人物によって象徴されているものは神話や日本人が連綿として受け継いできた世界観を映している宝庫であり研究の対象として大きな意味を持つと言えます。そうした辺のことが「桃太郎はなぜ桃から生まれ、犬と猿と雉を味方につけたのか。浦島太郎が玉手箱を開けて死ぬ定めにあるのはなぜか。人間を喰らおうとする山姥の正体とは──。誰もが知りながら、荒唐無稽で謎めいた昔ばなしの世界。しかし多様な伝承の森に深く分け入り、古代神話や民間信仰にその足跡をたどるとき、死と再生、性と笑い、異界とこの世をめぐる共通の世界観が浮かび上がる。現代人が忘れてしまった豊かな意味を取り戻すための神話学。」と裏表紙に記されています。
 13話の昔話が取り上げられて研究史や地方ごとの違いとともに謎解きがされていきます。桃太郎の桃は伊耶那岐命・伊耶那美命の話しの中の黄泉つ比良坂に出てくるこの世とあの世の境目でこの世を守るものでありまた冬から春にかけての生命の復活のシンボルとされています。犬については冥界とこの世との間でこの間を移動する人間を守るもの、サルは猿田彦の天孫降臨の話しに基づき異界からこの世に英雄を導くものそして雉は鶏と同じように夜明けを告げる鳥であり、闇の世界と光の世界の扉を開くものと説明されています。桃太郎と三匹の従者を結びつけたキビ団子は人間が人生で三度食べる高盛飯、子供が生まれて7日目の産飯、嫁取りの時の嫁の飯そして葬送のときの枕飯との関連で説明されています。前2者は普段使用しているかまどを使い新しい生活に入ることを、枕飯は日常使用するかまどは使用せずあの世のかまどを使用してあの世の住人とするためのものとの関連からキビ団子は異界に入る桃太郎と三匹をこの世に繋ぎとめておくものであり、桃太郎と異界との境目を守る三匹との主従関係を深め援助を乞うためのものと説明されています。こうした説明を読むと。「坊やよい子だねんねしな」の詩に引き込まれていくのは私たちの深層に潜んでいるものが共鳴しているからなのかとの思いに駆られます